Monologue

2002年03月20日(水) パクノダ先生の『修学旅行最終日日記』2(代筆ななか)

“ふ・・・っ”と薄く開いた彼の瞳が、何処か咎める様にアタシを軽く睨む。


『秘密』を知られた……と認識した時の人間達と同じ瞳の色……


“どうして?”と無言で責め立てる瞳……

“どうして勝手に覗き見たりするの?これは自分だけの『秘密』なのに……”と。


「気分は、どうですか?クラピカ先生……」


沈黙の重さを払拭し様と、言葉を掛けたが、彼は“フィ…ッ”と瞳を反らせてしまった。


また舌の上に拡がる苦いアノ味……

どうして、ここにはタバコが無いんだろう?


「……『読んだ』んでしょう?……私の『記憶』……」

どこか、諦めた様な口調で彼は呟く。
まるで犯罪が露見した容疑者みたいだ。

「……ええ、ごめんなさい、悪かったわね」

頭も勘も良いこのコには下手に隠しても仕方無い。


でも、正直言って、かなり驚いた。

まさかこの『お坊ちゃん』が自分の教え子(しかも相手は男)と、
そんな関係になってるだなんて……

着任してからまだたった7ヶ月しか経っていないっていうのに……
カワイイ顔して結構やるじゃない。

誘ったのはレオリオの方みたいだけど……


背徳心を常に抱えながら、彼に惹かれて行く想いはどうしようも無く……止められない……


これが初めての……『恋』



枕元の洗面器でタオルを濯いで絞り、四角に畳んで彼の額に乗せる。


“ビクッ!”と激しく震える小さな身体から『指』を通して、伝わって来る想い……



“知らせるだろうか?……皆に?

 知らせるだろう……きっと彼女は……間違い無く……

 どうしよう……『退学』になったら?

 レオリオ……せっかく授業に出て来てくれる様になったのに……

 私は『退学』になっても……せめて、レオリオだけは……”



……ウブねェ、先生。

『純粋』で真剣な想いに、思わず忍び微笑いを漏らす。


「ご心配無く……クラピカ先生」

そう言い乍ら、左瞳を瞑ってウインクする。

「アタシは、それ程、野暮な女では有りませんから……」


“本当に?
 ……信じて良いのか?”


直接口に出さずに言われた彼からの問いに、
アタシは、
「ええ」
と、答えた。


“ホッ…”と彼は安堵の溜息を吐くと、


「パクノダ先生……」

“ありがとう……ございます”と、彼は言葉に出さずに言った。


『清廉潔白』……とは言い難い彼だが、基本的に嘘を吐けない性格は変わらない様だ。


以前より、
彼を少しだけ好きになれそうな気がする……


“ガラッ”と襖が開いて、氷枕を手にしたセンリツ教頭先生が、
心配そうな顔付きで部屋に入って来た。

「大丈夫?クラピカ……」

「ええ、ご心配お掛けしてしまってすみません」

僅かに上げた頭に氷枕を充てられながら、彼は答える。

「あ、パクノダ……どうもありがとう。後は私が診てるから……」

微笑んでそう言うセンリツ先生に任せて、アタシは立ち上がった。


ふと思い付いて……


「それにしても……」


襖の傍に立ち止まって振り返ると、彼に言った。


「……先生、初めてだったんですね?」


『恋』するのが……と言う意味だったのに、

どうやら違う行為を想起してしまったらしい彼は耳まで真っ赤になっていた。


また熱が上がったかもしれないけど『氷枕』が程良く冷やしてくれるだろう……



宴会場の襖を“ガラッ”と開けると、

「よッ!パクノダ!」

「待ってました!姐さん!」

既に出来上がっている大量の酔っ払い共が、ご機嫌で声を掛けて来た。

「お飲み物は?……ビールで良ろしいですか?」

仲居の女性に尋ねられ、

「ワインは無いの?」

「ございますが、種類は?」

少し考えて、

「『ボジョレ・ヌーボー』……って今年のは、もう入ってるかしら?」

「はい、ございますが……」

「じゃ、それを……」


「珍しいな?

『ボジョレ・ヌーボー』ってやたら甘酸っぱいだけからって、

あまり飲まねぇんじゃ無かったっけ?」

首を傾げるフィンクスに、


「たまにはね……

 今夜は、そういうのが飲みたい気分なの」


ウインクを投げながらアタシは答えた。


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