Monologue

2002年03月17日(日) 最終日その2

“コン・・・”

「この旅行中、ずっと避けてただろ?」

言葉と共に放たれる球をクラピカは打ち返す事も出来ずに、
それが床に落ちて転がるのを眺めている。

“コン・・・”

「先生、学校では、いっつも目ん球引ん剥いて俺の事追っ掛けて来んのに・・・」

“コン・・・”

「何で、俺が追っ掛けた途端に逃げちまうんだよ?」

“コン・・・”

「俺が・・・キライになった?」

寂し気な響きを帯びる、彼の口調。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・違う」



ぼそりと小声でクラピカは呟く。

「じゃ、何で避けんだよ?」

レオリオの声が僅かに怒気を孕む。


「旅行中は人目も有るし・・・それに・・・」

そう言い乍ら、クラピカは俯く。


「・・・・怖いんだ」

「怖い?・・・俺が?」

コクン・・・と、クラピカは肯く。


「・・・俺がワルだから?」


「そうでは無い・・・・」


クラピカは静かに首を横に振ると、腰を屈め、球の一つを拾い上げた。


「お前は、自分の気持ちを真っ直ぐにぶつけて来る・・・・この球の様にな・・・・・・」

掌の中の白い球を見つめながら、クラピカは呟く。

「今まで、私の周りにそんな人間は一人もいなかった。
 私自身、計算式で答えの出ない、こんな感情には縁が無かった・・・・」

床に転がった球を一つ一つ拾い上げながら、クラピカは言葉を紡ぐ。

「お前の様な人間は、初めて・・・・・・ぁ!」

拾い切れなかった球が指から落ちてコロコロと床を転がる。

転がった球を瞳で追う・・・・と、
レオリオの大きな手が、“す・・・っ”と伸びて、その球を拾った。

顔を上げると・・・彼の黒い瞳と自分の瞳が合う。

真っ直ぐな彼の瞳を、何故か・・・反らす事が出来ない。


どうして・・・・?

答えの出ない、この感情。



「人目が有るとイヤなんだろ?先生」

ニヤリ・・・とレオリオは微笑って、クラピカの耳元に唇を寄せて囁く。

「じゃ・・・人目の無いトコへ行こうぜ」

そう言い乍ら、球を持っていない方の左手で、クラピカの右手首を軽く掴む。

さほど力の込められていない筈の彼の手を振り払う事も、何故か出来ない。



どうして・・・・?

幾ら考えても、
やはり、答えは出ない・・・



ボールを片付けた後、
レオリオに促されるまま、そっと宿舎を抜け出す。

「点呼は9:00だからよ・・・それまでに戻りゃOKだ♪」

“せっかくの修学旅行で風紀のフェイタンにとっ捕まって生爪剥がされたくねぇからな”

ハハハ・・・とレオリオは微笑う。


「レオリオ・・・・」

「あん?」

クラピカは躊躇いがちに唇を開く。

「お前・・・やっぱり私を『食べ』るのか?」

レオリオは不思議そうに首を傾げる。

「何言ってんだよ?・・・・俺が先生を『食べ』たりする訳、無ぇじゃねぇか・・・」

「だって・・・」

“屋上でゴンやキルアに・・・”と、言い掛けて止める。


「何?・・・先生、俺に『喰われたい』の?」

レオリオは悪戯っぽく唇の端を歪める。

「バ・・・バカ!」

そう答えながら、顔がやけに熱いのは・・・やはり湯上りの所為だろうか?


「安心しな・・・先生を『食べ』ちまったりしねぇからよ♪」

弾んだ口調でレオリオは言う。

「本当だな?『約束』だぞ!」

「ああ・・・」

そう答えて、

レオリオはくくっ・・・と微笑った。



(『いつか』に続く・・・願わくば近日中^^;)


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