『ケルトの女神伝説』2 - 2006年06月05日(月) 間もなく届いた、波の間に何かが沈む鈍い音。 短剣が海に届いたことを知らせるその水音に、 安堵して心を緩ませようとしたその時だった。 体中の血が沸き立つような感覚を覚えて、 アゼルは思わずきつく目を閉じて己の身体を抱きしめた。 そのまぶたの裏までも焼き尽くすように金の光が駆け抜けていく。 強い耳鳴りが意識を奪おうと、脳の奥を軋ませて圧し掛かる。 悲鳴を飲み込むために食いしばった歯の間から、呻き声が途切れ途切れに漏れた。 永遠に続くかと思えたその重圧が消えたのは、 どれほどの時が過ぎてからのことだっただろうか。 額に滲んだ汗を拭いたい衝動を堪えながら視線を上げると、 真正面に浮かんだ太陽は、 短剣を投げ込んだ時から髪の一筋分ほども動いていないように見えた。 (……当然か) あの衝撃が幾時間も続いていたのだとしたら、 自分の身体は耐え切れずに壊れてしまったに違いない。 アゼルは深く息を吐いた。 まだ、何かが胸の奥に澱のように凝って居るような気がして、 二度三度と呼吸を繰り返す。 そうしてようやく、背後で沸き立つ人々の歓声に気がついた。 はっとして振り返ると、同時に己の身体を金色の何かがすり抜けていった。 それに驚いて再度海の方を向けば、 「………………っ!」 目を見開いて、息を呑むことしか出来なかった。 そこには、先ほどの感覚に正しく、金色の光が満ちていた。 軽くなびく光をたたえたブロンド。 その輝きは額に填められた金色のティアラにも負けぬほどで、 中央に添えられた大粒の薄紫の玉が一際映える。 額が冠に隠されて見えないのが惜しいほど、 透き通るような白肌の面立ちは綺麗な卵の形。 意志の強そうな金色の瞳に、はっきりとした輪郭を描く眉。 微笑みにかすかに両端の上がった薔薇色の唇がいっそ優雅で。 やわらかな丸みを描くその肢体を包むのは、 新緑もかくやと言わんばかりの緑の衣。 軽やかな長衣の肩に留められた同色のマントが、 吹き始めた風に羽のように舞っていた。 二連の腕輪が収まった細い手首。 しなやかな腕がごく自然に手綱を握る。 それを受け入れている、穏やかそうな瞳をした黒の駿馬。 馬の蜂蜜色の鬣もまた浜薄の夏穂のように風にたゆたう。 (風が、吹き始めた――) そのことにようやっと気付いたアゼルが瞬くと、 黒馬にまたがった目の前の彼女は満足そうに微笑んだ。 『汝が竜、私が確かに預かった。 その翼は折れることなく空を駆け、いずれこの世にあまねく光を注ぐだろう』 そう言って彼女は、腰に手を添えてみせた。 幅広の白い帯に手挟まれているのは、 先程アゼルが確かに海に投げ入れた己の短剣だ。 鍔の中央と柄頭とに薄紫の玉を抱く、神話の綴られたアゼルの剣。 一際強くはためいた緑のマントが太陽の光を透かして溶けた。 そう思う間もなく緑の女神は手綱を繰り、宙でその身を翻す。 再度背後から人々の歓声。 守護の騎士団たちが中心となったその声に送られるようにして、 一条の白光となった女神は昇り始めた太陽へ向かい、 水平線のかなたへと吸い込まれていった。 アゼルは、いつの間にか胸の前で握り締めていた左手を見下ろした。 何もなかったはずのそこに、淡い金色をたたえた錫杖がひとつ。 天辺の輪の根元に薄紫の玉がはめ込まれたそれは、全く見覚えがない。 ――けれど良く似た形のものを、アゼルはよく知っていた。 祖父王も父王も携えた王の証。 朝日に宝玉を煌かせてアゼルは心からの笑みを浮かべた。 軽く握り締めると、元来た道を歩き出す。 浜薄の夏穂の向こう、己を迎えるために喜び沸き立つ騎士たちのもとへと。 僅かの間垣間見た緑の女神の凛とした姿を思い出し、 背筋を伸ばして微笑みをたたえて。 **** ……うーん、100まんぶんの1にも届かないわっ。 というわけで皆様、ぐーぐるの準備はよろしいでしょうか。 ケルトの女神伝説 さあ、検索してみましょう。 …………。 出てきましたか? はい、その通りです。 昨日の時点で気付いた方はいらっしゃるでしょうか、 今回のお話のモチーフは、 きたのじゅんこさん『ケルトの女神伝説』でした〜(ぱちぱちぱち〜) 作家養成所の訓練に、 絵を見てそこから連想される物語を文章にしてみる というような課題が出されると耳にしまして、 とりあえず映画の冒頭を文章に起こすよりはこっちの方が良いかなと 手持ちの画集やら雑誌やらペーパーやらをとっかえひっかえして この絵を選んでみました。 最初はKAGAYAさんの絵でやろうかとも思ったのですが、 どうもピンと来るものがなくて。 そのうちにふっと目に入ったのが、きたのさんの絵でした。 もうひとつ、きたのさんの『グロビュール−星の卵』と迷って、 今回は『ケルトの女神伝説』に決定。 ふと光景が沸き立ってきたのがこの2枚で、 面白そうだったのがこっちだったので。 王子さまの王位継承権取得の儀式。 投げ込むものは指輪と迷いましたが、 絵の女神様が剣を携えているのを見て短剣に。 しかし。 文章の下手さ加減より物語の構成のどうしようもなさより 何より自分に突っ込みたいのは、 一応西洋ファンタジーっぽい雰囲気をかましておいて 空に昇る竜はないだろう、ってことです……。 ぎゃー(色気のない悲鳴だこと) 西洋のドラゴンと東洋の竜は同等のものではないはず。 ドラゴンはトカゲだかヘビさんだかですよね? 竜は元々は鯉ですよね?(やっぱりヘビ? 八岐大蛇? わかんなーい) 空に昇るのは東洋の竜だってば。 西洋のドラゴン昇らせたら駄目だってば竜宮じゃないし……。 と、気付いたのは今日になってからなので、開き直りました。 ふふり(でも涙) 絵のタイトルが『ケルト』ですが、 その辺りは全然意識していなかったので、 もうこの際、国籍不明ファンタジーでいいじゃないかー、みたいなー。 気になって気持ち悪いって方がいらっしゃったらすみません……。 放置しておくと、ゆきの、そのうち西洋ファンタジーで 輪廻転生とかやらかし始めますのできっと。 (西洋では輪廻しちゃ駄目。最後の審判だから。 まあ、キリスト教圏でしか通じない概念ではありますが) んでも今回割と面白かったので、 次は『グロビュール−星の卵』か『天空の楽士』あたりで再チャレンジ希望! リベンジリベンジっ!! 今回思ったこと。 ゆきのさん、語彙少なすぎ。 以上。 ...
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