『蒼穹輪廻』 - 2004年12月19日(日) 地に仰臥して、王獅はあと幾許かで終わるであろう己の鼓動を聞いていた。 とても静かだった。 風の音も、揺らされ擦れ合う木々のざわめきもしない。 ただゆっくりした鼓動の音だけが、耳元で潰えるまでの時を切々と数えている。 視界に広がる空は、いつもにも増して青かった。 不意に消えてしまった友を思い出させる、高く澄んだ青。 仰向けに倒れた幸運を嬉しく思った。 最後の視界が真っ暗では、それはそれは寂しかっただろう。 (あいつ、無事に帰れたのかな) 思い出すのは、行くなと泣きそう声で叫んだあの時の顔だった。 せめて笑って送ってくれればいいものを。 苦笑しようとして、表情を変えることすら億劫になっていることに気づく。 笑おうとする時の吐息の音も自由にならない。 先程までうるさいほどに熱さと痛みを主張していた左腕は、いつの間にか静かになっていた。 左肩の付け根の辺りで、小刻みに鈴を鳴らしているような気配がするだけだ。 執拗なまでに折られて粉々にされた右手首は、それよりもずいぶんと前から感覚が消えている。 師匠の一筆は、袖の中に仕舞いっ放しだった。 たとえすぐに取り出せたとしても、師匠は風水・卜占の仙人。 時を戻してもう一度戦いなおせと言われるくらいだったら、このまま素直に大道に還る方を選びたい。 こんな考え、師匠に知られれば軟弱と言われるのだろうけれど。 結局最後まで自分は、碌でもない弟子のままらしい。 (あいつが居たら、きっと治してくれたんだろうな) きっとものすごい剣幕で怒鳴りながら。 ――まあ、無い物をねだっても仕方のないことだ。 彼が本来の居場所に戻れたのなら、それが一番いいことなのだから。 一緒に過ごした時間は、思いもよらなかった楽しさで溢れていた。 ひどく甘え下手だった子供が感情の表現の仕方を覚えていく様を、自分がどんなに嬉しい気持ちで見ていたか。 木蓮には分かるまい。 ……けれど、分からなくてもいいのだ。今は、まだ。 空はただ青く、無心なまでに青く。 ぼやけた視界の中で、どんどん広がってゆく青が、ひたすらに王獅の心を占めていく。 約束、守れなくてごめんな、木蓮。 ああ、でも――きっと、今度は俺から会いに行くよ。 青の中に溶け出してしまいそうな浮遊感。 こんなになっても、後悔はしてないんだ。 むしろ誇らしいくらいで。 だから待ってろ。 俺が行くまで。 あそこで。 瞼が重い。 少し休みたい。 絶対に会いに行く。 約束するから。 ああ――綺麗な、青だ。 長い長い呼気。 そして、動くものは風の眷属だけになった。 ...
|
|