『白花の蕾』 - 2004年12月07日(火) たとえば夜、独りで月を見上げるとき。 あの懐かしい声が聞きたくなる。 自分よりも少し低い、よく通った大きな声。 無遠慮でお構いなしに見えて、 それは気遣の裏返しである暖かな声。 たとえば昼、花園で花を眺めているとき。 傍らを通っていった風に、つい振り返ったとき。 そこにかつて立っていた人を、 立っていてくれた人のことを、思い出さずにはいられない。 山の強い風に靡く鮮やかな金色の髪。 短く切り揃えられたあの髪は潔いほど風に煽られて、 けれど柳を思わせる強かさで、まぶしい笑顔を彩った。 当たり前のようにぞんざいに扱った。 出会いが、例えそれが大道にさだめられていたことだとしても、 掛け替えのない貴重さであったことは間違いないのに。 傲慢に、一緒に居る事が当然のように。 遠慮なく容赦なく、こちらの内側に踏み込んでくる相手だった。 それは彼の常であったのだろうけれど、 けれど、それは同時に彼の優しさだったのだろう。 時も空間も遠く隔てた今になって、初めて悟る。 彼の本来の気質は、去る者は追わない性分だ。 開こうとしないものを無理に開かせようとはしなかった。 それなのに傍に置いて煩い位に構いつけてくれたのは、 そうでもしなければ本心を明かさない自分に合わせてくれたのだ。 誰かにそんな付き合い方をされたことは今までなかった。 修行の旅を共にした、同郷の仲間たちにも。 正直に打ち明ければ、自分は彼らを「仲間」と呼ぶのに躊躇いがあった。 あったのではない、今も躊躇っている。 それ以上の呼称が見つけられないゆえに、仲間、とあえて呼ぶが。 彼らに持ってしまった一定の距離感。 それは決して縮まることはなかった。 ……ああ、いや。 妹の、妹の雪姫は、少し違ったかもしれない。 こちらの思惑も意図もお構いなしの、気ままで自由な娘。 妹と彼との違いは、 離れていく者か、近づいてくる者かの差だったのだろう。 そして結局、誰もこの手には残らない。 大切に、しなかったから。 思い上がって甘え続けたから。 天帝様は奪ってしまわれたに違いない。 与えられたことが、いっそ不思議なくらいだったのだ。 思い上がれば奪われて当然の縁だったのだろう。 その背を守って共に逝くことは叶わず、 看取る事はおろか、葬送を見送ることすら出来なかった。 躯を収めた物言わぬ黒御影は、 彼が決別したと言い切ったはずの彼の師の洞のゆかりの土地に。 彼の一門に冷たい目で見られてしまえば、 肝心なところで意気地のない己は、 あの土地を、二度目を踏むことはとても思い切れない。 残されたこの花畑で、 立ち尽くしたまま風に吹かれるだけ。 面影を探して、朽ちかけた屋敷を彷徨うのみ。 「……木蓮様、泣いていらっしゃるのですか?」 視線を背後に向ければ、控えている銀色の鳥と目が合った。 己と同じ、青い瞳の白銀鳥。 普段は肩に乗るくらいの大きさだが、 今は人を乗せて運べるくらいの大きさに変化している。 気遣わしげな青の瞳に、何でもないと首を振ってみせた。 うまく笑えていたかどうかは分からない。 「麓へ降りましょうか。 ここで暮らすからには、邑の方々に挨拶差し上げた方がいいでしょう」 「はい、では――」 ついと背を向けるのは、騎乗しやすいように。 今、己の傍に居るのはこの優しい獣のみ。 本当の生みの親である、己の最初の師の様に 外側を包む冬の陽だまりのような朧げな優しさ。 本当は、冬の陽だまりでは、こんな優しさでは足りない。 春の麗らかな陽気では、足りない。 けれど。 望んでも得られるはずはないのだ。 あの手は疾うに、恨み纏う炎に焼かれてしまったのだから。 「翠玉邑へ」 深い嘆きだけを湛えた声は、山風にそっと攫われて行った。 * * 嘆く彼は、知らない。 もう二度と己の身に、夏の陽射しが訪れることはないと思っていたから。 翠玉邑。 二度目の邂逅は、目の前。 ************************** 久々に木蓮です。 すげー暗いです。 暗さのあまり、思わず「すげー」などと言っちゃうくらいです。 浸っちゃってます、木蓮。 いっそ鬱陶しく見えると思います、ふん(意味もなく胸を張ってみる) でもまあ、これくらいの絆、あげてもいいかなぁと思うのです。 何だかんだ言って、木蓮って寂しいやつなので。 キャンペーン中はにっこり笑顔で慇懃無礼を実行してましたが、 結局PC様の誰とも、何も共有できなかった……と思うんですよね。 いや、私の力量が足りてないってことなんですけど。 辛うじて、メインNPCの玄秀くんと 微妙に打ち解けていたような気もしますが、 彼も嫁貰ってすごい親馬鹿になってそうだし。 半ば強迫観念の強がりで生きてたからなぁ、途中まで。 ……木蓮もさぞ寂しかっただろうに。 その辺の独白も、文中でやりました。 そんなわけで、白王獅を思う木蓮でした。 このあと、すぐに、初弟子になる蒼天と出会うのです。 ...
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