白木蓮の咲く庭で...久純ゆきの

 

 

月ノ華3 - 2004年07月28日(水)

青々とした葉を茂らせた木蓮の木の下に、蒼天は目的の人を見つけた。

「真君、こんな所で何してるの……?」

問い掛ける蒼天の口調は、多大な躊躇いを含んで地に落ちた。
弟子に視線を合わせた師は、木蓮の根元に座したまま、
ゆらりと薄い微笑を浮かべただけだった。
声なく笑って、手にしていた杯を口元に運ぶ。
微かに仰向いた動作で、押さえるもののない長い髪が揺れた。

蒼天は目を瞬かせる。
弟子入りして数年経つが、師匠が髪を解いている姿は今まで目にした事がない。
同時に、師が纏った衣装にも違和感を覚える。
肩から潔く袖を落とした薄手の上衣、それだけでも随分なのに、
無防備なほど開いた首周りや、逆にぴったりと身を包む下衣、
散りばめられた金糸の刺繍。
どれをとってもいつも身に付けているものとはまったく雰囲気が違っていて、
普段着飾ることなどしない人だけに、いっそ凄みさえ感じさせた。

ここに居るのは、自分が知っている「白花真君」ではない。
穏やかで屈託のない笑顔も、いとおしげに花を見つめる静かな青い瞳も、
今、蒼天の目の前に居るこの人には期待してはいけない。

見上げてくる視線にはいつもの穏やかさとは違った光が浮かんでいて、
けれどその感情を何と呼べばいいのか蒼天には思いつけなかった。
起こしてはいけない獣がそこに居る。
脳裏に閃いたのは、そんなありふれた言葉だった。
下手に触れば間違いなく斬り飛ばされる。
そして同時に、何故か絶対に引いてはいけないと強く思った。

「あの……」

何か明確な言葉を持っていたわけではないけれど、
唇から自然と呟きがこぼれていた。



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