蛍桜

≪BACK TITLE LIST NEXT≫

僕は。
最終的に、あの扉を開けばいいと分かっていても
今はこの部屋で、何かを残したかったんだ。
でも、陽が暮れるたびに闇に包まれるこの部屋で
不確かなものを探し続けるほど精神力がもたなくて。
扉越しに話しかけてきてくれる人はいたけれど、
みんな、部屋に入る資格を手に入れてくるよ、と言い残して去っていった。
姿が見えないまま、いつ戻ってくるのか分からないまま
僕はいつまで待ち続ければいいのか、不安になった。
鍵は開けているのに、入ってきてくれたのは
たった、一人だけだった。
そのせいで部屋は汚れたさ。一人の時間がなくなったさ。
真っ白だったはずの部屋も、染められていったさ。
でも、姿が見えないよりも、何倍も、安心出来る。
あの引き出しの奥に隠しているものも
表向きは綺麗に飾っているあの棚も
全て隅々まで見られて、小さく笑ってくれた。
誰にも見せたことはなかったけれど、誰にも見せるつもりはなかったけれど
見られてしまったものを、いまさら隠すつもりもない。
本当は、本当は。
扉を開けて、僕の顔をちゃんとみて、笑ってほしかったの。
たくさん隠しているものはあるけれど、それでも、見つけてほしかったの。
どこかに、自分でさえ忘れているような宝物があったとしたら
それを見つけて、一緒に、過去を語り合って、笑いたかったの。
扉を開けられるのを拒んだのは僕。
それでも開けてくれたのは一人だった。

でも、誰かが、僕のところへ、資格を持って、帰ってくると言った。
扉の向こうで、そう言ったんだ。
だけど、この部屋に入れるのは、一人だけで。
僕は、また一人になって、誰かを待つことにしたんだ。
せっかく扉を開けてくれたのに、入ってきてくれたのに、追い出したんだ。
でもね、それでもね、ずっと扉の向こうで待っていてくれて
ずっと言葉をかけ続けてくれて。

また、扉までやって来る人はいても、入ってきてくれなかった。
扉を開けてくれそうになっても、少しの隙間から僕を覗いて、去っていった。
そんな時でも、あの人は、扉の向こうから声をかけ続けてくれた。
いつまでいてくれるんだろう。
不安になった。
またいつか来るね、って言って去っていった人。
それを信じるよりは。
本当に来るか来ないか分からない人を待っているよりは。

急いで、答えを探し出さなければいけない。
扉の向こう側から、あの人が居なくなってしまう前に。
あの人が居なくなっても、大丈夫だ、と言い切れるようになるか。
言い切れないなら、あの人をまた部屋に招きいれるか。
招き入れても、後悔はしないと思う。
でも、居なくなっても、大丈夫だ、と笑える自信はないし
誰かが部屋に来てくれる保証もない。
それでも、同じことの繰り返しになるのが怖い。
新しい世界を見て、価値観を広げて、視野を広げて、笑いたい。

そう思うだけで、進めない。

でも、考えるのは。
自分が本当にやりたいこと。
逃げ道。
今すべきこと。
人々が望むこと。
結局は独りよがりのこと。
人を巻き添えにして傷つけること。
いつまでも希望を持っていても、時間が経ちすぎるほどに
絶望も大きくなっていくということ。

出来るだけ早く、答えを見つけなきゃいけない。
じゃないと、つぶれてしまう。
僕が、つぶれてしまう。
でも、きっと僕だけじゃないけど。
2006年11月25日(土)

≪BACK TITLE LIST NEXT≫

 

My追加メール

My追加

enpitu skin:[e;skn]

 

Copyright (C) 蛍桜, All rights reserved.