Deckard's Movie Diary
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| 2006年11月10日(金) |
手紙 デスノート/the Last name 虹の女神 |
テーマは重く深く、真摯に取り組んだ姿勢は評価に値しますし、とても良く出来た台詞のやりとりもあったりするのですが・・・残念ながら演出が追いついていません。特にラストでのチグハグでドタバタした演出はいただけません。妙にお涙ちょうだいにしようとしたのは不自然過ぎますし、折角のシーンが台無しです。もったいないなぁ・・・。だいたい、こんな漫才師はいませんし、いきなり変身してしまう沢尻えりか(これはケバ過ぎ!)とか、とにかくチグハグなんですね。TVの2時間ドラマならば気にならないのかもしれませんが、集中して観ている映画館の暗闇の中ではアラが目立ちます。深いテーマだからこそ、リアリティに欠けてしまって元も子もありません。原作では主人公はミュージシャンの設定らしいのですが、どうして漫才師になってしまったのでしょうか?パンク系だったバンドが売れる為に日和ったら、売れたのはいいけどマスコミにバレて・・・姿を消す。一人のミュージシャンになって・・・みたいな方が良かったんじゃないでしょうか?ズーっとお通夜のような表情ばかりの漫才師よりも間違い無く説得力がありますよ。もちろん、良いシーンもあります。特に加害者の身内と被害者の遺族のシーンは胸に迫ります。少なからずこうした人生を歩んでいる人はいるはずですし、やはり人にはなるべく優しく接したいと思いながら、それもままならず、日々生きている小生としては胸に染み入る部分もありました。そういう意味でも返す返すもったいないなぁ・・・。
観終わって一言は「長い・・・」。まぁ、ストーリーを追っているだけで長くなってしまうのは仕方の無いんですけどね。それくらい話しは入り組んでいます。分かり難い部分もありますが、最後は上手く着陸したんじゃないでしょうか。相変わらず邦画特有のチープなシーンも多く、情けなくなる部分もありますが、基本的には面白いと思いますよ。弥海砂に扮する戸田恵梨香があまりにバカっぽかったりするのは興醒めですけど、原作に近いから仕方無いか(苦笑)。ただねぇ、原作では死神の想像を超える人間の凄みを感じさせるんですけど、その辺りはちょっとなぁ・・・甘いというか、スケールが小さくなっているのが残念ですね。個人的には3部まで引っ張ってもらって全然構わなかったので、そこまで描いて欲しかったですね。
『虹の女神』は必ずしも完成度の高い作品とは言えませんが、心に染みる映画でした。監督は『ニライカナイからの手紙』『親指さがし』の熊澤尚人ですが、プロデューサーに名を連ねる岩井俊二の影響か、あの頃の気持ちをツンツンと刺激するようなリリカルな描写や琴線に触れるエピソードが随所に散りばめられ、上質の青春映画になっています。
学生時代の映画製作を通して描かれるストーリーは自分に重なる所もあり、全編に渡って懐かしく思いながらも、「何故、あんなコトを言ってしまったんだろう?」「どうして、あんなコトをしてしまったんだろう?」というような当時の悔やまれる気持ちや素直になれなかった複雑な感情が、止め処も無く溢れて来て困りました(苦笑)。そんなワケで、鑑賞中は懐かしくも切ない想いで胸がいっぱいになり、どうにも落ち着かない気分でした。どっぷりと深く座っているのに腰の辺りがふらついている様な・・・そんな感じです(どんな感じだよ)。佐藤あおいが岸田智也に主演を頼むとこなんて、重なっちゃって・・・(苦笑)観終わった時には、こんな時間はもう二度と戻って来ないんだなぁ・・・と、はたから見てもマジで遠い目になっていたと思います。上野樹里が演じた“佐藤あおい”というキャラクターは自分にとって忘れられないキャラクターになりそうです。あの頃、こんな女の子に出会いたかったですねぇ・・・おそらく出会っていたとしても「生意気な女!」くらいにしか思わなかったとでしょうけどね。何故なら、彼女の性格が自分と被るような気がするんですよ(ナルシズムの話かよ!)
さて、映画の中で、主人公・岸田智也(市原隼人)はどうしようもなく鈍感な人物に描かれていますが、彼が佐藤あおいに対して少なからず好意を持っていたのは明白です。だからこそ、ラストの佐藤あおいの妹(蒼井優)の言葉(予告編で流すなよ!)が彼の胸に響いたんじゃないでしょうか。だって、そうじゃなかったら「へ?オレのこと?」みたいな感じでしょ!岸田智也は、おそらく「彼女は才能もあるし、自分みたいにナ〜ンもない人間なんか相手にしないよなぁ・・・」とか考えて、彼女のことを勝手に恋愛対象から外しているんです。佐藤あおいの方は、岸田智也は美人で女らしい娘がタイプなんだ!と、こちらも勝手に思い込んでいる。二人はそれぞれに相手の気持ちを感じながら、量りかねながら、気づかないように、傷つかないようにしているワケです。良き友人としても存在しているお互いの、そんなもどかしい感情の揺れを、この映画は“虹”を触媒にして見事に描いていました。
時は経て、アイツは今頃どうしてるんだ・・・と、何気なく送った写メール。そして現実に直面して、妹の言葉を聞き、佐藤あおいが監督した8ミリ映画に込めた単純なメッセージに再び出会った時・・・とにかく、脚本が上手い!感心しました(何様だよ)。でも、人ってこうしてすれ違いの人生を歩んで、戻らない時を嘆くモンなんでしょうね(´―`)┌ ヤレヤレ…
岸田智也にとって佐藤あおいの記憶は生涯忘れる事は無く、彼女の生きた証は彼の心に消えない印として刻まれ、虹と出会う度に彼は胸が締め付けられるかもしれません。でも、それは彼が生きている証でもあるのです。時間が経つに連れて思い出されるシーンは儚げですが、胸に込み上げてくる切ない感情は決して忘れ去られることは無く、年を重ねると共にいとおしく、そしていつかは甘酸っぱい思い出となるでしょう。だからこそ、人が人を好きになることは素敵なことなのです。で、そんな経験を自分もしたことがあるんだなぁ・・・と、振り返れる自分は幸せなんだなぁ・・・とも思いながらも、いまだ祭りの準備中!(またかよ!)と、思い直すオイラってば・・・しょーもな!
最後に・・・携帯電話が普及してから、映画には頻繁に登場するようになりましたが、それは単に文明の利器としての使い方がほとんどでした。この映画の中にも携帯電話は登場するのですが、小道具として使った映画では初めてと言っても良いくらい美しいモノとして、それは存在していました。お見事!
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