Deckard's Movie Diary
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2003年05月19日(月)  めぐりあう時間たち

 『めぐりあう時間たち』はとても丁寧で格調高い素晴らしい作品でした。出だしから実に上手い演出で、違和感なく三つのストーリーに入っていけました。3女優の演技も素晴らしく、映画としてはそれだけで十分楽しめます。エド・ハリスの存在感も特筆モノです。マイケル・ナイマンを重厚にしたようなフィリップ・グラスの音楽もハリウッド映画らしからぬ雰囲気を与えていて、ある意味、ヨーロッパ映画とハリウッド映画の幸せな融合とも言える作品に仕上がっています。ただ、性的嗜好の問題が大きくフューチャーされているので、それがこの映画のテーマに見えてしまう可能性があります。もちろん、人によってはそれがテーマなのだ!という人もいるでしょうけど、小生はそうは思いませんでした。それがテーマなのかな?と錯覚を起こしかねない作りに見えてしまうのが残念というか、惜しいというか・・・。もちろんこの映画にとって重要な要素だとは思いますが、この映画はもっと普遍的なテーマ。つまり“生きていく”というコトを描いているんだと思います。
「結婚は女にとって人生の墓場だ」と悩んでいたダロウェイ夫人も日常に流され無難な結婚をし、いつのまにか年月が過ぎてしまった。しかし、彼女は悟ります。自分の人生を受け入れ、逃げずに真正面から向き合うコトこそが人の生きる道なのだ!と。そこから逃げ出したジュリアン・ムーア扮するローラ・ブラウンはどうだったのでしょうか?息子は自ら道を閉ざしました。では、もしローラ・ブラウンがしっかりとジョン・C・ライリーに悩みを打ち明け家を後にしていたら・・・その場合、偉大な詩人は生まれなかったかもしれません。どちらが、誰が幸せなのかはわかりません。そして、現代のクラリッサの心も満たされていません。しかし!それは彼女達の問題だけでなく人間全てがかかえているモノなのです。つまり“生きていく”という事は様々な悩みや不安と同居しているコトであり、そこから逃げていては幸せにはなれない!というコトを言いたいのじゃないでしょうか。とは言え、オイラもちょっとベルイマンの『ペルソナ』風を加味して観ていた部分もありました(自爆)。そういう意味ではドップリ疲れてもいいから3時間くらいかけてもっと丁寧に描いて欲しかった感じもするんですよね。もっと3人の生への叫びをしっかりと把握したかったというか・・・。その辺りの深い部分は3人の演技力でカバーって感じなんでしょうけど、なんとなく全体を“上手〜くまとめた感”が強くて、どうにももったいない気がしちゃって・・・。まぁ、どちらにせよヴァージニア・ウルフの小説『ダロウェイ夫人』、又はヴァネッサ・レッドグレーブ主演映画『ダロウェイ夫人』なりの知識がないと、この映画の賞賛されるべき巧みさの部分は伝わらないでしょう。だから何?という人も居るかもしれませんが、その巧みさこそが“人生はミステリー”とも言えるんじゃないでしょうか?あ〜、上手く言えないなぁ・・・・トホホ。それにしても惚れ惚れするほど上手く出来てる物語だなぁ・・・。ナンだか、書いてたらドンドン印象が良くなって来ちゃったよ(苦笑)。


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