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2001年05月09日(水) あなたがいたら/少女リンダ

5月9日、「59(ゴーキュー→号泣)した映画」という、
さぶいダジャレに基づき、
次の作品を御紹介します。

あなたがいたら/少女リンダ Wish You Were Here
1986年イギリス デビッド・リーランド監督


今やミニシアターの老舗ともいえるシネスイッチ(銀座)の
こけら落としがこの映画でした。
当時フジテレビで放映されていた天気予報で、
この映画の映像が使われていた覚えがあります。
週に1,2日しかテレビを見られない環境にあった私は、
その印象が特に強いのですが、
覚えていらっしゃる方、いませんか?
エミリー・ロイドがスカートを軽くたくし上げ、
髪をなびかせて、自転車をこいでいました。

1951年のロンドンが舞台です。
性的に奔放な印象を与えるせいか、
少年たちから興味本位の目で見られやすい16歳のリンダを、
16歳のエミリー・ロイドが堂々と演じていました。
でも、リンダの初体験の相手は、
父親の友人で映写技師の中年男でした。
大好きだった母親を亡くし、
大嫌いな父親が自分を抑えつけようとすることにムカつき、
お行儀のよい妹にも何だか腹が立って、
彼女はいつもイライラし、
どこに行ってもトラブルメーカーになります。
父親の友人と寝たのも当てこすりだったのでしょう。
最初は必ずしもその男を好きだったわけではないけれど、
体のつながり以上のものを、知らずに求めるようになります。

結果、彼女は妊娠しました。
「町一番の名人」を自認し、ろくな避妊もしなかった中年男は、
この事実に狼狽し、「本当に俺の子か?」と、
一番言ってはならないせりふを言ってしまいます。
こんな状況で、彼女に中絶手術を勧める親戚の女性が、
亡き母を除けば一番まともな登場人物に見えました。
(事実、そうでした)
そして、彼女が選んだ道は?
こう書くと、「ああ、産んだのね」と
言われるのを待っているようなものですが、
そんなふうに読めてしまうほど、ありがちなお話ではありました。
が、私はこの映画でボロボロに泣いてしまったのです。
今となっては、「そういう体調だった」というよりほかはありません。
大好きな映画でありながら、
皆さんにお勧めしたいとは言い切れない部分が多いです。

私が見たのは、封切りから少し遅れ、
後楽園の中の映画館でしたが、
当時からつき合っていた相方が一緒でした。
正直言って、ちょっと奇天烈な映画につき合わさせて、
結構苦痛だったかもしれませんが、
涙も洟も一緒になって顔をべしゃべしゃにし、
それをティッシュでぬぐっていた私の手を握ってくれました
……はいいのですが、
ティッシュを握っていた方の手を握ったのでした。
後になって聞いたら、
「それはわかってたけど、ああなると引っ込みがつかなくて」
ということだそうです。

ところで、この映画のパンフレットには、
音楽評論家のピーター・バラカンさんが寄稿なさっていました。
(別件ですが、以前「イギリス人の感覚がよくわからない」
ということで、少し取り上げたことがありました)、
バラカンさんによると、原題Wish you were hereは、
イギリス人がよく使う表現で、
例えば旅先から出す絵はがきなどにこの一文を添えると、
「一緒に来たかった」という趣旨の社交辞令になるんだとか。
「あなたがここにいたら」と訳すと、
ちょっとロマンチックな想像をかきたてられますが、
「こういう慣用表現をタイトルに使うあたり、
どこにでもあるありふれた話だという
ニュアンスを出したかったのでは?」
というのがバラカン説です。
そこまでハスに構えて見なくてもいい気もしますが、
今思うと、90年代に日本でも続々公開された、
イギリスの市井の人々を描いた秀作の
前哨戦だったのかもしれません。
監督デビッド・リーランドは、
近いところでは『スカートの翼ひろげて』の監督でもあります。
ほかの監督作は存じませんが、
イギリスの古きよきノスタルジーを
自分なりに撮るのが向いている人なのでしょうか。


ユリノキマリ |MAILHomePage