囚はれのシネマ日記
DiaryINDEX|pastwill


2012年09月01日(土) ルルドの泉で

この『ルルドの泉で』も、いつぷう変はつた趣のある映画で、
信仰や奇跡といふ題材を扱つてゐるわりには、深刻にならず、
あつけらかんとしてゐて、実際にルルド巡礼のツアーに数日
参加して帰つてきた来たやうな気にさせてくれるものだつた。

フランスとスペインの国境であるピレネー山脈のふもとにあるルルド。
そこは年間600万人もの人が世界中からやつて来る
カソリック教会の巡礼地であり、ヴァチカンのサンピエトロ寺院
とならぶ一大観光地でもある。
観光バスが埃を舞ひあげ、カソリック教会お墨付きのみやげ物屋が
立ち並ぶ俗つぽい聖地。
そのみやげ物屋でわたしもルルドの大聖堂が描かれた
あのプチカフェオレボウルを買ひたいと思つた。

この映画を撮つたのはジェシカ・ハウスナーという
あのミヒャエル・ハネケに師事してゐたオーストリア人女性
といふのも大いに気になる。
フランス映画ではあるけれどフランス映画にありがちな気取り
とか裸とか背徳がなく、登場人物もなんだか皆もつさりした
その辺のおばさんや娘つ子であるところに真実味がある。
行つたことはないけれど、日本人のお伊勢さん詣りツアーも
きつとこんな風に違ひないと思ふ。
市井で悩む人々の信仰心はいづこも同じ、といふ感慨をもつた。

シルヴィー・テステューは手足が完全に麻痺した病ひで
車椅子・介護人つきでこのツアーに参加した女性の役。
ルルドの聖水を飲み、浴び、祈りをささげ、カトリーヌ・ラタピのやうに
聖母マリアの秘蹟を受けて病ひから解放され、こののちの人生では
手足が動き、歩き、ふつうに恋をして、ふつうに働き、
仕合はせな家庭を築くことを願つて。

地味で不幸な役回りだつたけれど、惨めではなく悲しげでもなかつた。
どちらかと言へば、運命を受け入れる頸さを表現してゐたと思ふ。(つづく)


m.m |MAILHomePage