囚はれのシネマ日記
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この『ルルドの泉で』も、いつぷう変はつた趣のある映画で、 信仰や奇跡といふ題材を扱つてゐるわりには、深刻にならず、 あつけらかんとしてゐて、実際にルルド巡礼のツアーに数日 参加して帰つてきた来たやうな気にさせてくれるものだつた。
フランスとスペインの国境であるピレネー山脈のふもとにあるルルド。 そこは年間600万人もの人が世界中からやつて来る カソリック教会の巡礼地であり、ヴァチカンのサンピエトロ寺院 とならぶ一大観光地でもある。 観光バスが埃を舞ひあげ、カソリック教会お墨付きのみやげ物屋が 立ち並ぶ俗つぽい聖地。 そのみやげ物屋でわたしもルルドの大聖堂が描かれた あのプチカフェオレボウルを買ひたいと思つた。
この映画を撮つたのはジェシカ・ハウスナーという あのミヒャエル・ハネケに師事してゐたオーストリア人女性 といふのも大いに気になる。 フランス映画ではあるけれどフランス映画にありがちな気取り とか裸とか背徳がなく、登場人物もなんだか皆もつさりした その辺のおばさんや娘つ子であるところに真実味がある。 行つたことはないけれど、日本人のお伊勢さん詣りツアーも きつとこんな風に違ひないと思ふ。 市井で悩む人々の信仰心はいづこも同じ、といふ感慨をもつた。
シルヴィー・テステューは手足が完全に麻痺した病ひで 車椅子・介護人つきでこのツアーに参加した女性の役。 ルルドの聖水を飲み、浴び、祈りをささげ、カトリーヌ・ラタピのやうに 聖母マリアの秘蹟を受けて病ひから解放され、こののちの人生では 手足が動き、歩き、ふつうに恋をして、ふつうに働き、 仕合はせな家庭を築くことを願つて。
地味で不幸な役回りだつたけれど、惨めではなく悲しげでもなかつた。 どちらかと言へば、運命を受け入れる頸さを表現してゐたと思ふ。(つづく)
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