囚はれのシネマ日記
DiaryINDEX|past|will
そのジュリー・デルピーがとりわけ美しかつたのが『トリコロール/白の愛』だつた。 透きとほるやうに白い肌の彼女が喪服を着て夫の埋葬に立ちあふシーン。 じつは夫は死んではゐなくて(自分の死を)悲しむ彼女を遠くから盗み見てゐたのだ。 話の筋はよく覚えてゐないけれどこの夫婦も美容師だつた。 夫はポーランド人で妻はフランス人。 たしか不能の夫に愛想をつかした妻が離婚して夫を追ひ出してしまひ、フランスからも追ひ出してしまふ。 そんな仕打ちを受けてもなほ夫はうつくしい妻を愛しつづけるといふ話。 ポーランドで誤つて投獄された妻に逢ひにゆく夫に、刑務所の窓越しに妻が身振りでなにか必死に訴へ、ふたり涙ぐむラストシーンが忘れがたい。 いつたい妻は何を訴へてゐたのだらう。 「わたしが処刑されても……」と言つてゐたのか「わたしが処刑されないやうに……」と言つてゐたのか。 いづれにしても幸福感に満たされた甘い表情なのが不可解だ。
いつぽう『トリコロール/赤の愛』『トリコロール/青の愛』は印象がうすい。 『赤の愛』は忘れたけれど『青の愛』はジュリエット・ビノシュ主演だつた。 わたしはジュリエット・ビノシュといふ女優が好きになれない。 ブノワ・マジメルと結婚するずつと以前から。 なんとなく顔に上昇志向があらはれてゐるやうで好きになれない。 アカデミー賞の受賞で「この賞はわたしよりローレン・バコールさんがふさはしい」とか何とか偽善的なスピーチをして、その場にゐた老ローレン・バコールを(結果的に)大いに侮辱したことも忘れがたい。
とにかくこの3部作を作つたのはポーランドのクシシュトフ・キェシロフスキ。 舌を噛みさうで永久に覚えられない名前だけれどいい映画を作る人だ。 『愛に関する短いフィルム』『殺人に関する短いフィルム』どちらも傑作だつた。 たとへばある青年のストーカー行為の逸脱した愛を、たとへば不如意な青年に不意に起こつた殺意を、ドキュメンタリーのやうに当事者のまなざしになつてリアルに辿ると言へばいいんだらうか、この感じは。 クシシュトフ・キェシロフスクはどこかでこんな風に語つてゐた「ポーランドの特殊な歴史や政治状況、さういふことと無関係な(あるいはさういふことから自由なかも)映画を撮りたかつた」と。 さういふことを思ふ人、わたし大好きです。
|