囚はれのシネマ日記
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とは言つてもわたしはどんな虫も嫌ひといふ訳ではない。 蛍は一見ちひさなチャバネゴキブリに似てゐる。 けれど蛍として生きてゐる限り嫌悪の情はわかない。
伊豆大川の竹の沢庭園には5年ほど前にも蛍を見にいつたことがある。 そのころは観賞者も10人ほどの知る人ぞ知る蛍スポットだつた。 ところが新聞で宣伝などしたものだからどつと混むスポットになつてしまつた。
海岸沿ひのホテルの駐車場から竹の沢庭園までシャトルバスが出る。 このホテルは海のまん前なのに廃業に追ひ込まれボロボロになつてゐる。 7時から運行されるといふのに6時半にはもう長蛇の列。 小学児童が多く、虫取り網をもつた悪ガキなども騒いでゐる。 バスを待つあひだに海岸の混浴露天風呂に浸かりにゆくおぢさんもゐる。
シャトルバスと言つても旅館の送迎用マイクロバス数台。 車一台しか通れないやうな細い農道をくねくねと上つてゆく。 7時15分ごろに大きな池のある庭園に着く。 ここがホタルのホテルとなつてゐる。 しかし大勢の人間が取り囲んだ池のほとりで蛍はまれにちつと火をともす程度。 8時ちかくなり空がしだいに暗くなると蛍が追ひかけつこをしてゐるのもまれに見えるやうになる。 雄が光つて雌を誘ふといふのだから、お尻を追ふのは雌といふことだらうか。 5年前には蛍の乱舞も見えたのに、と後ろ髪をひかれつつ帰ることにする。
帰りのシャトルバスは500メートルほど先から出る。 そこまでは提灯ウォークとなる。 まつ暗な清流のほとりなので蛍がちかちかと舞つてゐるのが見える。 提灯のほのあかりと蛍のひかりだけの闇夜だ。 むしろこちらの方が風情があつた。 こうして善男善女の蛍観賞のゆふべはしめやかに催行されたのでありました。
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