徒然帳 目次過去未来
2011年05月28日(土) .....吉田松陽という人は(銀/魂)



最近拾った銀色の子供に名前をつけました。
ふわふわの銀色の髪にくりくりの赤い目が可愛い子です。
銀時(ぎんとき)一一一似合ってるでしょう?









私の名前は吉田松陽。
十数年続く天人との戦いに辟易して田舎に引っ越してきました。
物凄く引き止められましたけど、先が見える戦いに興味ありません。
え? どちらが勝かですって?
あんなもの八百長試合ですからね。勝ち負けなど幕府の弱腰対応を見れば明らかですよ。思想家仲間のうちでは圧倒的に賭けにならないと、幕府の負けは当然のものとして語られてます。
今は抵抗して見せているようですが、すぐに降伏して天人に媚び諂う姿が目に浮かびます。元々腐った根性の老人が権力の座にしがみついている『お達者クラブ』的な幕府でしたからね。老後の年金を生み出すためだけと化している幕府に天人に対抗する術などありません。
まともに政をしていなかったし、自分達が甘い汁を啜れるならどうでもいいとでも思っているでしょうし。でなければ権力を天人などに譲渡するなどありえませんからね。
裏取り引きでもしたのでしょう。
天人の上位の存在によって作られた天導衆などという一一一怪しい集団がトップに現われたのが良い証拠です。

すでに幕府は天人の手に堕ちたも同前。
攘夷派の思想家仲間は身の危険を感じて各地へと散っていきました。流石にすぐに処刑はないでしょうが、天導集という輩がかなりの強行派であるのは、幕府を開国させた状況を見るかぎり否ともいえませんから困ったものです。
臭いものには蓋をしろ理論ですか。まったく。

ふふふ。
でも良い機会です。
私の下僕……教え子達をつくって未来ある若者達を育て上げるのも暇つぶ……楽しそうですからね。
ちょっと本音が……いえいえ。なんでもありませんよ。




そんなこんなで、未熟な子供達を集めて私塾を開いた私です。
私の名は田舎でも通用するほど有名らしく、イイ所のお坊っちゃんお嬢さんが通ってくれることになりました。
おかげで資金にはまったく困りません。ありがたいですね……金蔓……援助してくれる裕福な家庭があるっていうのは。

それにしても穏やかな日々です。
江戸で闊歩する天人などド田舎で見かけることはまずありえませんからね。戦いも江戸の周囲や大名のお膝元では勃発しているようですけど……此処はド田舎ですからね。まったく戦の気配などありません。天人も幕府を支配したばかりですし、今は権力ある藩を集中的に掌握するのに手をさいているでしょうから。戦争と呼べるほど本格的に広がるにはまだ少しばかり時間がかかるでしょう。

しかし一一一。
のどかも良いですが、そればかりも困りものです。退屈は人を殺すと言うのは名言ですね。老後を迎えた老人じゃあるまいし……少々の刺激があってもいいじゃないですかと、内心思っていたら信じてもいない神様が願いを叶えてくれ私に銀時一一一銀色の子供と出逢わせてくれました。
戦争孤児らしく独りで居たところなんて震えるウサギのようでした。村の人達は鬼だなんだと言ってますが、わたしにはピピピときました。運命の出合いです。間違いナシ。
人に慣れていないところなんて初々しくてグッドです!
一番の心配だった誰かに暴行されている気配もナシ。
あんなに可愛いのに誰かに手を出されていなかった事が奇跡だとまったく信じていない神様連中に感謝してみたり。
それにしても見る目ないですね。こんなに可愛いのに。もったいない。
ええ、私でしたら速効です。
可愛すぎて実際、お持ち帰りしてしまったでしょう?

おや? どうしました晋助? 小太郎?
銀時を背中に隠して………何ですかその目は。
いやですねぇ、私をそこら辺にいる破落戸と一緒にする気ですか?

ちゃんと育てるに決まっているでしょう。
すでに養子として手続きも終ってますから。この子は私の子供ですから。名前は銀時と名付けました。

今日から一一一吉田銀時ですね。


「せんせぇ、あのね、ぎん、せんせぇすき!」
「ふふふ。ありがとう。私も好きですよ」
「ほんと! うれしー」

あれから数カ月。
笑わなかった子供が笑うようになった。
何の感情も写さなかった赤い瞳が、絶望に諦めた瞳がきらきらと輝くようになると、もの凄く可愛らしい。当社比2倍です。
なんですかあのイキモノ。あの可愛らしさは犯罪級ですよ。
一一一一おかげで苦労もちょっぴし増えましたが…。
このまえなど見知らぬオヤジに森の中へと連れていかれそうになって押し倒されたそうです。私の下僕……生徒である晋助が通りかかり慌てて助けに入ってくれたそうで、ホントに助かりました。ホント、イイ手駒……生徒です。
え? 問題のオヤジ?
さぁ…今頃借金抱えて海の藻屑となっているんじゃないですか?

自分を守るための意味で、銀時に剣術を教え始めたのもこの事件が切っ掛けでした。本来ならば剣など握って欲しくないのですが……世の中なにかと物騒です。変質者とか犯罪者とか……。
とにかく自衛手段ぐらいはさせないと心配で、心配で。いつでも晋助や小太郎が側にいるわけでもないですし…。

………………なんですか、晋助。
一生守る?銀時を嫁にくれ?
ちょっと裏庭まで顔を貸してもらいましょうか。ふふふ、話し合いですよ。いやですねぇ……なに、怯えてるんですか?


一一一一自主規制一一一一



話の続きですね。
一番の心配事を解消するために銀時に剣術を教えました。こればかりは甘やかしては銀時の為にならないと、持てる全てで我が子を鍛え上げてやりましたとも。
………かなり強くなってしまったのは計算外でしたが……。
おまけに晋助と小太郎もしごいて……鍛練させました。
あの子の側にいるというのなら強くなってくれないと困りますからね。


「しんすけー、ヅラァー」
「ヅラではない! なんで名前で呼ばないのだ! 最初は小太郎って呼んでいたではないか!!」
「うるせぇよヅラ……ほらよ銀。今日のおやつ持ってきてやったぞ」
「お、お前がヅラと呼ぶから銀時が真似して一一一」
「うわぁ! 苺大福ぅー! しんすけあんがとー」
「こらっ! 急いで食べるな! 誰も取らないからゆっくり食べんか………って、高杉……お前、何あたりまえのように銀時を膝に乗せてるのだ。ききき……キスだとー?!! 私だってフニフニほっぺにしたこと無いのに!」
「うっせぇヅラ! 一一一ほらこっちにも餡子ついてるぞ」
「ま、ま、ま、またキスしたぁぁぁー!!」


………晋助も懲りないですね。
つい先日お仕置きしたばかりなのに。
何をですって? フフッ…それは秘密です。

小太郎はなんやかんや言ってもヘタレですから心配はしてません(←酷い)
晋助はその面構えのように男女に好かれるのを自覚している遊び人ですからねぇ(←偏見)

銀時に悪い影響を与えないように監視しているつもりですが……若い子は未熟です。持て余した熱を爆発させてしまったらと思うと……気が気でなくて。
いえいえ。銀時はいいんですよ。心配してません。あの子が恋だのなんだのと自発的になるのはきっと遅いでしょう。色々と手をつくして純粋に育ててきましたからね。手を出そうとする晋助をボコボコにしながら箱入りに育ててきましたよ。
天然無自覚っ子って理想でしたから(笑)
だから心配なのはそんな銀時を無理矢理襲ってしまうかも知れない晋助の方でしょう。
私だって大人です。両思いならば文句は………言うかもしれませんが反対はし、しません。残念ですが……こんちくしょうですが……銀時の幸せなら仕方ありません。
ですが何も知らない自覚無しの銀時に手出すのは問題外です。あの子は今は笑っていますが、かなりの人間不信ですから。今も人間不信は続いています。表面に出さないようになっただけで、身内や友達、塾仲間以外には今だ人間を恐れている節があります。こればかりは克服してくれるのを待つしかありません。

きゃいきゃい戯れる三人を見つめる。
最初は何の反応をしない銀時に対して2人もどうして良いのか解らず遠巻きにしていましたからね。

「せんせー」
「はい、なんですか」

駆け寄ってくる愛しい子供を抱きしめる。
銀時の後ろから喧嘩をやめ慌てて2人が寄ってきた。ホントに銀時が好きなふたりですねぇ……。

「せんせーも、いっしょ」

はいと出された小さな手には、苺大福が乗っている。
いつの間にか小太郎がお茶を用意してて、縁側に座った私の手に苺大福を乗せると、銀時はへにゃりと笑って隣に腰掛けた。その隣に陣取る晋助は重箱を開いている。まだぎっしりと苺大福はあるようで……銀時にまたひとつ手渡していた。

「おいしーね」
「あたり前だろ。俺がマズイもん持ってくるわけないだろ」
「うん。いっつも、おやつ、おいしーよ」

むぐむぐ頬張る姿に癒される。
なんか小動物みたいで可愛い。
ホントに純粋に育ってくれて嬉しいです。
そして凄く心配です。
銀時の世話をいそいそとする晋助は最近、餌付けというスキルを覚えて着々と銀時を手懐けている。塾生の中でも頭の回転が早いだけはある。ただ甘やかすのではなく、時には喧嘩もしてぶつかり合い。一人の人間として対応する一一一一銀時が一番欲しいものを与えてみせたのは未だ晋助一人だけである。
小太郎も叱るが、あれは母親だから論外。
対等に喧嘩をしてあげている晋助はやはり油断ならない子供だと松陽はそっと溜め息を噛み殺す。

よりにもよって銀時を選んでしまうとは……。

多くの女子に好意を寄せられているというのに、本人は無関心を貫いている。銀時といるのを邪魔されれば途端に牙を剥いて嫌悪を露にするほどだ。

晋助の銀時に対する感情が恋情なのは見て間違いない。
けれど一一一ねぇ。
私の目の黒い内は手を出させる気は毛頭ありませんよ。これ以上進もうとするならば、私が立ちふさがらなければなりませんね。恋に障害はつきものです。

「せんせぇ、どうしたの? たべないの?」
「なんでもありません。少し考え事をしていただけです。ふふ…美味しそうな苺大福ですね」
「すっごくね、おいしかったのー」

よしよしと頭を撫でれば嬉しそうに笑う可愛い子供。
やはりしばらくは……このままでいて欲しい。
可愛い、可愛い私だけの銀時で一一一。


「今日も一緒にお風呂入ったら寝ましょうか、銀時」
「むぐっ! んぐぐぐ……」
「やったー! せんせぇ、だいすきー!」
「おぃ! 大丈夫か高杉ッ!! お茶飲め!」




晋助も可哀想に……。
銀時でなければ恋の成就もすんなりいったでしょう。

それでは親として、宣誓でもしてみましょうか。





「この子が欲しいなら私を倒してごらんなさい」



ふふふ。
真っ青になった2人の子供に気分が上昇する。
当分、銀時は私のものでいてくれるようだ。良かった良かった。














(先生を敵に回すなんて……死ねと?)
(銀時ィ一一一一なんでお前、先生に拾われたんだー!)



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