徒然帳 目次過去未来
2009年10月13日(火) .....お題/13TITLE*に『09:好き嫌い(ハオ+葉)』





「葉、何してるんだい?」
「ん、占い」

縁側に腰掛ける葉の足元には、色とりどりの花びらが落ちている。無論、風に飛ばされてきたという訳じゃない。どうみても不自然な花びらの山に、誰の仕業かといえば目の前の弟の所為だろうと、ハオは納得する。
小さな子供向けの簡単な占い一一一花占い。
葉の左手には無惨に毟られた花の成れの果てが握られていた。

「ふーん…、楽しいかい?」
「まー、それなりに」

使用済みの茎をぽいっと投げ捨てて、葉の手は新しい花へとのびる。傍らには色とりどりの様々な切り花が無造作に置かれていた。勿体無い一一一普段の葉ならば、こんな無駄ともいえる行動はしない。ありえない。節約魂を叩き込まれた葉ならば、勿体無いと花瓶に生けて飾るだろう。……例え花を愛でるような者達がいなくとも。

こんな風に、花を無造作に扱う事はない。
生きているモノにはとことん甘い弟ならば……。



ぶち、ぶち、ぶち……


しかし一一一
握られた花は次々と無惨にちぎられてゆく。
葉のもう1つの一面。
夢中になったモノ、事柄に対しては妥協しないという一面ゆえに。
夢中になればどこまでも非情に無情になれてしまう事を、ハオは知っていた。

葉らしいといえば、らしい。
流石は自身の片割れでもあるのか。
純粋に近い葉の怖い所をいったい何人の仲間が知っている事かと、ハオは暗く嗤う。誰もが表面上のゆるい葉を見て甘いやら優しいというが、それはめんどくさがりという性分が葉の内面を見辛くしている為で、めんどくさがりをとっぱらってしまえば覚悟を決めた葉ほど怖いものはない。
恐ろしいほどに自分の意志を貫く強靱な魂の持ち主だ一一一非情であることが必要になれば、あっさりと非情になれてしまう。実に、怖い弟なのだから……。
(今まで味方だったのが、簡単に敵に回ってしまうなんてね)
それこそ選択次第である。
今まではそうであったに、すぎない。
仲間と共に道行く選択をしたまで一一一。

(けれど次の選択でひっくり返るかも知れない……)
それを他の人間は知らない。
いつもの葉なら大丈夫と、たった1つの一面しか見ない仲間達は葉の本質を理解出来ていない。いや、考えも付かないのだろう。

優しく甘い放っておけない、葉。
いつでも光の中にいるのだと信じている。

ああ、馬鹿だ。
本当に馬鹿ばっかりだ。
そんな単純なもんじゃないのは、シャーマンなら知っているはずだ。
まともなシャーマンなど存在しないということに。
力を持っている人間は、どこか壊れているということに。


そう……。
葉も、ある意味まともじゃない。
あの朝倉に生まれて教育されて、まともであるはずがない。それに輪をかけてハオの双子であるという意味は、麻倉にとって重く闇部に繋がる事でもあるのだから。
(まともでいられるはずがないんだ)
先年前から続く忌わしい世界の住人なんだから。


だからハオは葉に会いに来る。
自分を教えて、知ってもらう為に。
色々なものを与えて選択肢を増やす為に。

葉の、選択肢を自分に引き寄せる為に。
こちら側へ落とすために。



ぶち。ぶち。ぶち。
はら、はら、はら。

はらりと積もる淡く優しい色の花びらに、ハオがしゃがみ込んで一枚拾い上げる。柔らかい感触が指先に伝わり、つい先ほどまで瑞々しく咲き誇っていた事を証明していた。

「またなんとも懐かしいものだね」

花占いなんて、ほんと懐かしい。
遠い昔しにやったきりだが、用いたのは桜だったと記憶している。
昔は呪術用に用いる花は限られていたが、ハオは特に桜を使っていたのを記憶の片隅に思い出していた。今のようなお遊びのものではない。完全なる仕事用でだが。

葉の花占いは完全にお遊び用。
あの『スキ、キライ、スキ、キライ一一一一』で有名な花びらを千切ってゆくアレである。

無言で千切っている葉だが、ハオにはちゃんと心の声が聞こえていた。
千切るたびに繰り返す『スキ、キライ』。
足元には沢山の花びらが散らばって、目にも鮮やかな色彩の絨毯になっている。どのくらいの花を消費したのか一一一一たぶんこれからも消費するだろう葉を見て、まだまだ終らないと推測したハオは、目測で無惨に捨てられた花の名前を暇つぶしに挙げてみる。


露草、白粉花、秋桜、待宵草、松葉牡丹。
パンジー、ビオラ、石蕗。
この辺はありきたりだな。

おや?
これは金木犀か。こっちには女郎花、百日紅…。
……って、ちっちぇえな。
あ、この白いのお茶だ。

変わり種で、韮(にら)もあるよ……。
そこら辺の畑から盗んできたのかな?

シクラメンって鉢植えから?
この花、玄関先にあったやつ?

あ、今は葉は山茶花を千切って……捨てた。
うん。枚数そんなに無いからね。



結構な枚数だが、葉の熱は冷めないらしい。もくもくと花を千切って捨てている。季節的に秋の花中心だが、後は何があるのかと、ハオは葉のとなりを覗き込む。


「………………。」


うん。
時間がかかるね。
まだまだあったよ。

枇杷に彼岸花……彼岸花で花占いするのは葉だけだろう。
ちらりと再びストックの花に目をやり、ハオは溜め息をこぼした。

「菊って……」

仏花として有名な葉菊に、この時期青果店で売られる食用菊(パック入り)、菊花展で展示されていそうな一輪菊やら、大菊管物、厚物と植木鉢ごとスタンバイされているが、まぎれもなく隠居ジジイからかっぱらってきたモノに違い無い。
陶器の鉢に掠れた文字で葉明とおぼろげながら見えてしまったハオは手を合わす。きっと今頃、大切に育てていた鉢植えが無くなっているのに気付いた老人が涙していることだろう。御愁傷様。
これも葉を孫に持った運命だとあきらめるしかない。
熱が冷めるまでは、きっとどんなに止めても無駄だからだ。


ぶち、ぶち、ぶち、ぶち


「ねぇ、葉」
「んー?」
「結果が出たら教えてね」
「んー」
「占いの結果、楽しみにしているよ」
「んー……んんっ???」

ぶち

千切るのを止めた葉が至近距離にいたハオを見る。驚いたのは言われた意味に戸惑ったから。
琴線に触れたハオの言葉に、花占いに夢中になっていた葉は始めて意識を外側に向けた。

その事にうっそりとハオが笑う。





「だってそれ、僕との恋占いでしょ?」







好き、嫌い、好き………
葉の意識は揺れて戸惑い変化する。
ハオの思惑通りに、誰も知らないままに。

新たにできたハオという択肢があるのを、今は2人だけしか知らない。






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