徒然帳
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2006年06月05日(月) |
.....不動峰物語り11(テニスパラレル) |
青学VS氷帝のシングルス1。 頂上決戦と後に呼ばれる試合に、ぞくぞくと他の中学が集まってきた。 「おい見ろよ、奴ら……………」 「第3シード、千葉県代表、六角中ーっ!!」 「いや、それだけじゃねぇ!! 各校がぞくぞくとこのコートに集結してるぞ!!」 「あ、ああ……」 「王者、立海第付属も来ている!!」 ざわめく周囲をよそに、試合が終わった強豪校が、青学と氷帝の試合会場に足を運んでくる。それだけ見逃せない試合という事なのか……ダントツの注目度である。 それぞれ思惑はあるだろうが……この両校を意識しているのは確かだ。
「凄いねー」 「全国区同士の戦いですからこれからもっと、観客は増えるでしょう」 「ふぅん……見物だね……………っていうか、あの登場シーンだけでも凄いよ。絶対に真似できないパフォーマンスだね」 リョーマが呆れた。 ぐるりとコートを囲んだ氷帝のテニス部の『名物、氷帝コール』が、跡部の指揮の元繰り出されている。ド派手な演出に少々、リョーマは辟易している。 「あんなの相手にしたくない……」 「でも実力はありますよ?」 「………………むぅ」 悩みどころだ。 バッとジャージを高らかに脱ぎ捨てて、跡部はポーズまで決めている。 それを見た観客……いやいや、氷帝軍団が歓声に湧いた。 対戦相手の手塚は慣れっこなようで、気にしたふうもない。 (………………オレが気にしすぎ?) 周囲を見れば、他校もあまり驚いてなさげだ。
リョーマが真剣に悩む。 ちょっと手を出してみたかったが、アレをされたら堪らない。 ヤル気急降下、テンションだだ滑りになること受け合いだ。どうせなら気分良くテニスしたい一一一一が、モットーのリョーマである。プレイ中なら気にならないだろうが……これを最初にヤラレると、かなり精神がヤバイ事になるだろう。 「………………ああゆうものだと割り切れば良いのでは?」 「……………………。」 渋い表情のリョーマであった。 よっぽど嫌なのだろう。
そうこうするうちに、試合は開始された。 跡部のサーブで始まった試合は、息をつかせぬものだった。 共に身体能力がズバ抜けているのが解る一一一一パワーもテクニックも上級である。今までの試合と比べられないほどに、二人の試合は高度なものであった。 誰もが二人の試合に釘付けになって目が放せないでいた。
しばらく無言だったが、リョーマが小さく呟いた。 聞こえるか聞こえないかのギリギリの声に反応したのは、当然副会長であった。 「………………この試合、長引くよ」 確信に満ちた声である。 視線を前に向けたまま、リョーマは言った。 「あの手塚って人、肩に負担をかけるようなフォームしている……。敵はそれに気がついているし、悪い事に本人は気づいていない…………無意識だと思う。」 「そういえば青学の手塚は1年の時に部内の問題で腕を負傷したのがきっかけで、ヒジを痛めてしまったというデータがありましたね。でも治療を続けていたとう情報もありますし、完治してなかったのでしょうか?」 副会長が手塚のデータを引き出しながら、疑問を浮かべた。 「一応、完治しているとの医者の診断書はありますが……」 「なんで診断書のデータがそこにあるのかは聞かないけど一一一そうじゃないよ。完治した場所じゃなくて、ヒジを庇う為に、肩に負担がかかっているってこと。長時間続けるなら危ないね」 「……………………。」 疑う余地はない。 テニスに関しては、リョーマの言い分に嘘はない。 眼力ではあの跡部と張るほどなのだ一一一越前リョーマは。 「無論、長引かせるんだろーね。あのキザ男は」 「一一一一一真剣勝負ですからね。どちらにとっても」 「そう、青学の部長さん………俺の予想ならこの試合を降りることはない………って目をしてる。この試合で決着をつけるつもりなら一一一一いや、もう覚悟してる。彼は持久戦に挑むことに決めたようだね」
揺るがない意志がそこにはあった。 跡部の仕掛けた罠に、手塚はあえて挑むつもりだ。
「さすがは部長対決一一一」
一方、一一一一不動峰VS糸車 ストレートで下して不動峰は勝ち抜けた。 勿論、リョーマ厳命の『3割』での勝利である。
「橘さん。まだ青学と氷帝の試合は決着が着いてないそうです!」 「………長引いているんだな」 「何でもタイブレーク突入したけど、決着ついてないとか………通りがかりの連中が噂してます!」 「…………ふぅん………長いのがイイってわけでもないよね………」 「どうします? 部長」 「やぱっり、気になりますよね……」 そんなに長引いているのなら、2回戦は持ち越しになるだろうと、橘は予想した。シングルス3で棄権になったなら試合の構成上、控え選手の対決になるからだ。 「向うには会長と副会長が行ってるのか……」 自分達の試合は他の生徒会役員が撮影していたのを知っている。手を抜いても楽勝と、御墨付きをリョーマに貰ったので、なおさら彼がこの試合を見る事はない。
次の試合を見越して立海大一一一一を偵察するだろうと思っていた橘だったが、前日にリョーマは何故か「必要ない」と言い切った。 あそこは要の部長が急病で倒れたために、それを補う為の団結力と実力が急上昇中途という当然の評価であったが、リョーマだけは首を振らなかった。 (……………。) もしかしたらわざと負けるかも知れないという予想がある。 2回戦の山吹に勝てば、その案もありえる。 全国大会までは、リョーマは不動峰の実力を、とことん温存する気なのを橘は知っている。その理由も……。押し黙っってしまった橘を、部員は不思議そうに見ていた。
「橘さん?」 神尾が呼ぶと、橘は少しばかり苦笑を浮かべた。 「……いや、悪い。そうだな見てみるか。青学と氷帝の補欠が誰なのかは興味あるからな」 橘の一言で、不動峰が動く。 青学と氷帝の試合会場へと足を向けたのだった。
『ゲームセット。ウォンバイ氷帝学園、跡部!! ゲームカウント7-6!!』 部長同士の頂上決戦の軍配は、氷帝学園に上がった。 これで2勝2敗一一一1無効試合。
予想もしてなかった事態に、会場は興奮気味に荒れた。 もっとも一部の人間は、予想通り一一一。
観戦スタンドのこちら。 不動峰の偵察部隊(笑)一一会長と副会長は、いたって冷静である。
「………同じレベルで戦える相手がいるってのはイイね」 リョーマは独り言のように呟いた。 「この試合はお互いに最高のものとなったはずだよ。実力差があったら絶対にできない試合内容一一一一一いつでもあるようなものじゃないからね。跡部も手塚も悔いはないはずだよ。まぁ……あるとしたら跡部の方だろうし……」 「手塚が棄権するか否かって場面がありましたが、その時の彼の表情は不本意そうでした。…………最初は肩を壊す気満々に見えましたが、途中から如実に変化してましたね」 「うん。誰だって最高の試合ができるのなら一一一そうなる」
最初から何の拘わりもなく、戦いたい一一一。 無二の試合なら尚更だ。
「羨ましい……」 リョーマは目を細めて、寂しそうな口調で言った。 そこに込められた感情がどれほどなのか一一一誰も知らない。
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