徒然帳
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2006年06月04日(日) |
.....不動峰物語り10(テニスパラレル) |
「えぇーと………」 リョーマは困っていた。 ただ、ただ困り果てていた。 「………なんでこうなったのか……」 むうっ…と考えてみるが思い付かない。 いつの間にかこうなっていたと、いうしかないのだ。 まったくもって不可思議な事に……リョーマにはとんと覚えがなかった。
どんなって、こうだ。 見覚えのないクセッ毛頭の少年が、リョーマに抱きついていた。 抱き枕よろしくしがみついていて、身動きが全くもって取れない事に、リョーマはちょっとだけ泣きたくなった。 「わ、ワケわかンないし………うぐっ……」 ズシッと、重くなった圧力にリョーマは呻く。 1人分の体重がこんなに重いとは思わなかったリョーマである。 (……………くそっ……重い……) なんとか自分の身体の上に乗っているモノを、落とそうと頑張ってみた。リョーマいわく少年・A(名前を知らないから)を振り落とす為に身体を揺すってみた。だがどんな仕組みなのか、しっかりとへばりついてて離れない。 業を煮やしたリョーマがキレて、怒鳴ってみたが効果なし。起きる気配もなかった。ちょっと問題あるかもしれないが、噛みついてもみたのだ……。 しかし、敵はしぶとかった。 すやすやと眠りこける姿に、本気で怒りが湧いた。
腰をガッチリホールドされているリョーマの姿は少しばかり間抜けである。人通りの離れた木陰にいるからいいものの、絶対に人には見られたくない姿であった。 そもそもお目当ては関東大会の第一試合、青学VS氷帝の因縁の対決を見るためだった。 現場に早く着きすぎて、ちょっと……いやうっかり眠ってしまったのは自分の所為である。だが……誰が想像できようと言うのか。目が覚めたら見知らぬ人間に抱きつかれていただなんて……。 しかも相手の少年は氷帝のジャージを着ている。 慌てて少年・Aを起こそうとしたのだが、叩いてもかじってもダメだったので、お手上げとばかりにリョーマは深い溜息を洩らしていた。 「………ホントにどーすんのさ、コレ」 きっと試合は始まっているだろう……。 (まぁ、レギュラーがこんなとこに居るわけないだろーからいいけどさ……) 引っ付かれているだけも暑いのに、晴天の眩しさが一段と強くなってきた空模様に眉を顰めたリョーマは、そろそろ移動したいと切に願った一一一一。
「おい、裕太。青学はどこだーね?」 「柳沢先輩、あっちから声が……」
その願いが通じたのかどうかはしらないが……、二人の少年が自分達の方にやってきた。 (この姿を見られるのは恥ずかしいけど、このままは嫌だ……) ちょっぴし涙目のリョーマは、現れた助けに複雑な感謝をした。 「うわっ…うっ!」 ちょうど少年・Aの足に、転ぶようなかたりで彼等は現れた。 ぶつかった衝撃だろう、ムクリと少年・Aが起き上がる。 「スミマ……!」 「………………………」 寝ぼけ眼で、反応は鈍いが、リョーマにとってはチャンスであった。 「た、助かっ………」 「あー……。ぐーーー………」 「おい……ちょっと、一一一ぐはっ!!」 そろりと逃げようとしたリョーマを抱きしめて、再び少年・Aは寝はじめる。 普通は気づくだろう。 いや、気づいているだろ。 「アンタ絶対、起きてんだろッーーー!!!」 リョーマの叫びは切実だ。 「ちょっと、アンタ達! 見てないで助けてくれっ!!」 「え?」 「一一一いや、お前……氷帝の人間じゃないのか……?」 裕太の疑問ももっともである。 少年・Aとリョーマは実に仲良さそうに見えたからだ。 ……っつうか、抱きしめられてるんだから、そう思わないほうが展開的におかしい。 「違うってッ!!」 目を丸くしてリョーマは思いっきり否定した。 だいたいリョーマは制服姿(ガクラン)である。それだけでもブレザーの氷帝とは大違いだ。 「寝込みを襲われてこうなった、だけだー!!」 それもどうかと思う……。 裕太の心のツッコミであった。
「…………はぁ……」 スタンド席に座り込んで溜息を吐く珍しいリョーマの姿に、副会長が打ち込んでいるパソコンから顔を上げて振り向いた。 「ずいぶんお疲れのようですね」 「…………はぁ」 ズバリ見たままの感想を言う副会長に、視線だけでリョーマは答えた。 今は何も聞かないでくれ……と。 何やらあったらしい一一一。 待ち合わせ場所に時間になっても来なかったので、副会長は試合会場へ1人で向かった。もちろん偵察のためである。リョーマが来なくても副会長の仕事は決まっている。青学と氷帝のデータ採取である。 リョーマの命令の元、優先順位が厳命されていたからだ。 そうでなければいかに副会長といえども、こんなことは絶対にしないと断言する。 これ以上聞くのは不味いと感じた副会長は、リョーマの機嫌が急降下する前に話題を転換した。へたに踏んでやぶ蛇にはなりたくはないのは、副会長でも一緒だ。
「結構、おもしろかったですよ。ダブルス2試合とも曲者揃いでしたからね一一一撮影のほうはバッチリですから後で楽しんで下さい」 「………くそっ…………ナマが一番、面白いのに……」 その場で見るのと見ないのとでは面白味が違う。 撮影したものでは一方的な視点からでしか見れないが、その場所にいればテニスプレイヤーとして、色々な点から見えるから問題点も浮き彫りになり易いのだ。 それがどんなに違うかは、リョーマは知っていた。 欲をいえば対戦すればもっとよく見える一一一。 実際に練習試合をしてみたい所だったが、実力を伏せている不動峰では、それは今のところ却下案となっている。案を提示した本人が破るわけにはいかないので、今のところは大人しくしているリョーマであった。(と言っても阿久津とかに手を出しているのだが……) 「一一で、シングルスは面白いかな?」 不機嫌を押し殺して、リョーマは目先の試合に意識を集中した。 この目で見るのがリョーマの仕事だからだ。 「シングルス3は、氷帝・樺地崇弘VS青学・河村隆一一一一この二人ならパワー勝負になるところでしょうが……厄介なのは氷帝の樺地は対戦相手によってプレースタイルが変わるプレーヤーですから単なるパワー勝負とは言えないでしょう」 「5位決定戦でのアレか………」 不動峰中生徒会は実に優秀であった。 5位決定戦の試合はちゃんと偵察済である。ビデオ撮影された対ルドルフ戦を見たが、そこには樺地の驚異的な能力が映されていた。 「一一一一アレをされると大抵の相手は驚愕して、そのままドツボになるかもね」 「かもねじゃなくて、なりますよ。自分相手が敵となるワケですからね一一快心の一撃をそのまま返されるだけではなく、パワーを上乗せして返されるから厄介ですよ」 副会長は、事前の調査で氷帝の樺地には要チェックが付けている。 だがリョーマの評価はそれほどではない。 むしろ………。 「どっちかって言えば、オレはあの部長さんを推薦するけど」 過去の跡部圭吾の情報を集めた結果である一一一。 リョーマは樺地よりも跡部を警戒した。 「ちなみの青学の部長さんも、…本調子なら要注意だね」 「………………。」 クイッと眼鏡を押し上げた副会長は、再びパソコンを打ち始めた。
「両者試合続行不可能により………シングルス3、無効試合!!」 高らかに宣言された。 相手の技をコピーする習性を利用して、片手の波動球という負担が大きい技に挑んだ河村と、それを受けて立った樺地の勝負は、お互いの腕がラケットを持てなくなった事によって、中止となった。 パワー勝負に見えた試合は、河村の自己犠牲を厭わない戦法により、同点一一一一それによりシングルス2の試合が始まろうとしていた。
「次は注目株ですよ。天才と天然対決とでも言いますか……」 「天才は判るけど……天然って、なに?」 「フフフ……見ればわかります。あれが天然プレーヤーの芥川慈郎ですよ。会長」 コート内に寝ぼけ眼の少年がいた。 「………………………………………………………………。」 消える魔球を打つ天才・不二周助の技にはしゃぐ少年がいた。 あの、自分を押しつぶした少年だ。 「…………………………………アノヤロウ」 ボソリと呟いた声は、限り無く低かった。 機嫌の悪さの理由が判明した瞬間である。 リョーマの怒りの鉾先は、完璧にたった1人に注がれている。 確かに両名とも試合会場にはいなかっただけに、真実味があった。あのぼんやりとした氷帝の選手が、リョーマに何かするかして、地雷を踏んだのであろう…。 何をしたんだか。 知りたくはない一一一一。
不二に遊ばれて負けた芥川を見て、リョーマがぼそりと呟いたのを、隣にいた副会長だけが聞いた。 「………ザマアミロ………」 「…………………。」 不機嫌オーラをまき散らすリョーマを、必死で見ない振りする副会長であった。 (あの天然、本当に何してくれたんだー?!)
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