徒然帳
目次|過去|未来
2006年05月31日(水) |
.....不動峰物語り6(テニスパラレル) |
「橘さん……まだ試合しているみたいですね」 「この後このコートで、オレ達と氷帝との試合があるんだが……」
不動峰中の試合は青学とルドルフの試合の後である。 そろそろいい時間になった頃に来た不動峰の面々は、いまだにダブルスを行なっている試合に、驚いていた。 「アイツら(青学)は、そんなに弱くはなかったと思ってたが……」 訝し気な橘の元に、様子を見て来た神尾が走って来た。 「橘さん! 信じらんねぇ。青学ダブルス1が、5-6と後がなくなってます」 「!」 「あのやっかいな大石・菊丸ペアが!?」 青学の声援が響く中、コートでは動けなくなった菊丸と、一人でその穴をうめようとしている大石の疲弊した戦いがなされていた。 「おいおい……青学、ぼろぼろじゃんか」 「……ブツブツ……こんな所で終わられても困るんだよね……俺達に勝っておいて………だいたいさー………」 「翻弄されてるな……ルドルフにはあの大石を惑わせるようなブレーンがいるとか? あの……ベンチコーチのヤツがそうなのか……?」 「一一一一っていってもたいしたこと無いじゃん」 考え込む橘の真後ろ、すぐ近くで静かな声がした。 驚いて振り向けば、帽子を被ったリョーマが立っていた。 ガクラン姿はハッキリいって、試合会場では目立っている。浮いている。しかし不動峰のテニス部コーチ兼切り札である彼が、さすがに不動峰のジャージを着るわけにはいかないだろう。隠してるのだからガクラン姿でいるのは仕方がない。が……やはり違和感ありまくりだ。 「……………いいのか? 俺達との側にいて」 「他校の偵察と思われてるからへーきだよ。実際、偵察してるし」 「………………。」 あくまでも越前リョーマがいう偵察とは、自分の所のメンバーのことである。試合をするメンバーを見るのは、今後の特訓の参考にする為である一一一。 橘の隣では、リョーマの出現に神尾が顔色を悪くしていた。 「………青学の試合どころじゃねー………」 「越前君が見てくれるなら…他なんてどーでもいいよ……」 神妙な神尾に対して、無表情だがノリノリの伊武という珍しい姿の二人をよそに、橘が気にするのは別の事である。 「………副会長はどこに?」 いつでもどこでもリョーマの背後にいるイメージが強い副会長である。視界に見えないとなんだか気になってしまい、つい橘は聞いてしまった。 「どこかで撮影してると思うけどナイショね」 「………………………。」 やっぱりいるのか……。 軽い溜息ものである。 わかってはいるが、今ではパシリ同然の副会長が、不動峰では当たり前になりつつあった。それもこれも越前リョーマだからだ。いくら彼でもここまではしないだろう……ひとえに命令するのがカリスマと呼ばれている越前リョーマだからである。 かくいう橘もパシリの1人だ。 いやいや、彼1人ではない。不動峰全校生徒一一一のみならず、教師陣までもが、越前リョーマのパシリとなっているのが現実なのだから一一。 最強の1年生は、今日も傍若無人であるが、容認してしまえるのは実力があるからだ。 あの日。テニス部全員がたった1人の人物に破れさってから……絶対服従してでも彼に近付きたいと思った橘のとった行動は、後に不動峰中の伝説を作ることとなる。
「リミッター封印だから、忘れないでよ」 「わかってるさ」 「当然だよね……カス相手に本気になるの馬鹿らしいし……やっぱり本命の時に奥の手をだすのが、カッコイイんだよね………」 「………………うう」 三者三様の受け応えである。 これから強豪・氷帝学園と戦うという事に、彼等にプレッシャーという文字はなかった(別の意味でプレッシャーがかかっているが……)
青学の試合後、氷帝学園対不動峰戦が行なわれたが一一一一一そこにあったのは、誰も予想しなかった意外な場面である。 氷帝学園名物の声援はなく、一方的といえる試合展開がくりだされていた。
『ダブルス2。6-4ゲームセット! ウォンバイ不動峰、石田・桜井!!』 『ダブルス1。6-1 ウォンバイ不動峰、伊武・神尾!!』
立続けに連勝をもぎ取った不動峰に会場は揺れた。
「氷帝がダブルス2連敗! シード1だぞ!!」 「不動峰って、すげぇじゃん!!」
騒ぎを他所に、不動峰は冷静である。 っていうか……ぶっちゃけそれどころじゃなかったりする。
「ふん。跡部のやろう、どこにいやがる」 「…………越前君がみていてくれるから、はりきちゃったよ……」 「う! …………それを言うな伊武……思い出しちまったじゃねーかよ」 「ああ……楽しみだな……越前君の特訓……あのギリギリ感がイイよね……」 「……………(思い出して真っ青)」
アブナイ発言と、テンション急降下の二人組一一一彼等を、会場の片隅で見ている小柄な制服姿があった。 その隣にはやはりというか、眼鏡の副会長だ。二人ともガクラン姿なので、見た目には不動峰の生徒とは思われない事間違いナシだろう……むしろ、何処かの学校の偵察している生徒としか捕らえられない。 事実、周囲の人間は「氷帝の偵察だな」としか思っていないようだ。 様々な中学校のテニス部が見守っている試合だ。 関連づけるほうが難しいだろう一一。
「約束は守ってるようだね」 「3割の力にする為の枷、一一一一計30キロの重り入りを隠す為にジャージ姿だとは誰も思わないでしょうね。特に橘さんは息一つ、乱してませんから……」 攻撃に出始めた橘の動きは、重りを30キロも付けているとは思えないほどの身軽さである。元々、身体能力が高い彼は、他の部員とはひと味チガウ。 「さすがは部長」 「本来の調子にはまだ遠いですが、この分でしたら全国大会までには間に合うでしょう。…………もちろん会長との手合わせ必須ですが……」 「………………まぁね」 そうこうする内に橘戦は終わってしまった。 あっさり15分。 リョーマ的には「まあまぁ」である。
「……………そろそろ本格的に特訓、始めようか」 個人個人の能力アップ。 それと同時進行でのダブルスとシングルスに別れての特訓を考えていた。 「そうですね。今日の出場で彼の事が明るみに出てしまいましたから、今後は橘さんにマークが付くのは間違いないでしょう。………予定通りですが」 「うん」
きっと全国区プレーヤーなら筒抜けだろう。 橘桔平一一一九州地区2強と知られる有名人である。 同じレベルなら話に聞いたことがあるかも知れないし、彼を知らなくともこの氷帝戦で、不動峰はちょっとだけ有名になった。調べればあっけなく判ってしまう事うけあいだ。 「おやおや、さっそく神尾君は鬱憤を晴らしてるみたいですね」 「……おー」 見れば跡部景吾にわざとらしく近付いている神尾と伊武の姿があった。 遠めからでも判る表情に、副会長とリョーマは呆れ顔である。 伊武を連れての事に、神尾の跡部に対する執念は根が深いことを伺わせる。 「杏先輩の前で恥じかかされたのがよっぽど嫌だったんだねー」 「ほほう。好きな子には………っていうやつですね」 「うわー……嬉しそうに見下してるよ神尾さん」 「会心の一撃ですね」
大波乱と言われる都大会1日目が終わった。 けれどこれが序章であることを知るものは二人だけである。
ちなみに二人の会話はとことん軽いものであった。
「関東大会の切符は貰ったから後はどーでもいいよね」 「青学と氷帝に目くらましになってもらうんですね」 「そう一一一一楽しみは最後までって言うデショ」
目次|過去|未来
bzen
|