| 2006年05月30日(火) | .....不動峰物語り5（テニスパラレル） |
今年の都大会は荒れ模様である。
青学の死角ナシの強さに続き、こちら４回戦の試合をしている不動峰が、話題になっていた。
「いったいどうなってんだ不動峰中」
「本当に都大会初出場なのか」
ざわめくのも無理はない。
ダークホースの出現に、大方の予想が大外れになってしまったからだ。
「何だよ青学、来てたのか」
「おう、次は氷帝学園とだな」
山吹中の千石と話し込んでいた青学の桃城をみつけた神尾は、意気揚々と話に割り込んで来た。気づいた桃城が不敵な笑みで返した。
「この前の公園のときの恨みを晴らすチャンスだな」
「ウルセー！ 氷帝の跡部とお前らんトコのマムシにゃ、倍にして借りをかえしてやるぜ」
「威勢イイなぁー」
「…………………ブツブツブツ………」
神尾の後ろにいるボヤキの伊武は、相変わらず無表情でブツブツと何やら呟いていて無気味だ。個性溢れる不動峰のメンバーに、見ていた千石はたらりと冷や汗を流した。
（ウチの所も個性的だけど、コイツら負けず劣らずだな……）
そういえば………。
青学も、噂の氷帝個性的メンバーが揃いぶみだったと、考える。
テニス部はどうも変なヤツばかりが集まっている。強ければ強い所は、輪をかけて個性的な面子が揃っている。最強とうたわれる立海大もアクが強い。
「全国大会となるとそりゃ、凄そう……」
「は？ 千石さん。何んか言ったッスか？！」
「なにブツブツ言ってんだ、コイツ……」
意味不明な独り言を繰り返す千石に胡乱な眼差しを送っていると、不動峰の部長が呼ぶ。
「深司、神尾。そろそろ行くぞ」
「はい、橘さん」
遠くから見ても貫禄ありまくりの中学生。
不動峰中テニス部長の橘の一声に、アクの強そうな二人が素直に従っただけでも彼が、ただ者ではないことが伺える。
（橘……どこかで………）
千石の興味を大いに引きながら、不動峰集団は去っていった。
「へー……あれが氷帝か」
試合をしているテニスコートをぐるりと氷帝の生徒が囲んでいて、他の学校の生徒は近付けない。鳴りやまない氷帝コールの中を突っ切る勇気は、ないだろう。
少し離れた場所から、この異様な試合風景を見て、リョーマが呆れていた。
「………煩い」
「流石は２００人もの部員を抱えているテニス部一一一一という所でしょう。まさに団体戦できてますね。……対戦相手は可哀想ですが、あれも一種の戦略ですから」
リョーマの横で副会長はあくまでも冷静に分析をしている。
カタカタと手持ちのノートパソコンを打ち込みながら言う。
「ああ……会長。あれがレギュラーですよ。ほら、氷帝のトップ。部長の跡部景吾と、その下僕の樺地崇弘一一一一で、試合に出ているロン毛がレギュラーの宍戸亮」
「……………」
なにげにサラリと酷いことをいう副会長である。
時々、腹黒さを垣間見せる副会長を無視してリョーマが、示された方を見た。
どうやら氷帝戦の試合は、呆気無く終わったようだ。
あっさりと勝ちを決めて余裕なのか、人さし指でラケットのバランスをとって歩いている少年がいた。その姿に「キャー」とか「さすがです！」とか、黄色い声が（テニス部員なので男からだが……）飛んでいる。ストリートテニス場にいたキザ男とウドの大木コンビも見えた。
「キザな方が、部長？」
「ええ」
「………強い？」
「彼も全国区ですからね」
同じ全国区である橘を思い浮かべて、リョーマが無言になった。
しばらく遠くを見つめる目は、どこか遠い。
聞こえていないような状態のリョーマに気にすること無く、副会長の話しは続く。
「ちなみに氷帝には副部長はいないそうです。なんでも２番目に意味はないと言うのが顧問の持論で、トップ＝部長の図式で、完全実力主義制一一一負ければ容赦なく入れ替えられてしまうそうです。これは人数が多い利点ですね」
「切磋琢磨するね、それは」
その点、不動峰は部員がギリギリという欠点をもっている。
リョーマが補欠で登録されているが、それでも人数的には厳しい。
と、勢いよくリョーマが振り向いた。
「…………副会長」
「遠慮します」
「……………………………。」
「……………………………」
即答だった。
「………………まだ何も言ってないんだけど…」
「そんなものは状況と会話の流れから推測できます」
「……………むぅ……」
「ただでさえ忙しいのに、これ以上何をさせる気ですか。しかも私は一一一一一一紛れもなく、どうしようもない、運動音痴ですから一一一」
「……………………………そりゃ、残念」
不動峰中の部員数が増える事はなかった……。
「ところで橘さん。次は氷帝ですが……やっぱり、リミッターは封印ですか……？」
神尾が気になることを聞く。
あのストリートテニス以来、氷帝には並々ならぬ意欲を燃やしている神尾は、見下された事を根にもっていた。あれから打倒！跡部を掲げて、連日特訓に耐えているのだ。気になる所だろう。
出来れば全力でブチ倒したい一一一そう思い続けている神尾だった。
「いや、それは却下された」
「一一一うぐっ！！」
「あーあ……やっぱりな」
「フフフ………徹底的なトコも素敵だよ……さすがはS仲間だよね……フフッ」
「予想はしてたけどな」
「そうそう。きっと全国まで伏とく気だぜ」
橘の言葉にショックを受けているのは神尾だけだ。
他のメンバーはしたり顔で頷いている。
会長一一越前リョーマ一一一が、どう思われているかが判る場面であろう。
橘も仕方なさそうに、苦笑している。
「一一ま、あきらめろ。アイツの命令は絶対だからな」
「�逼鼻帖帖�
「それに氷帝はベストメンバーが揃うのは関東大会からだぞ。お前のお目当ての跡部は都大会には出場しないだろ。あそこは部員層が厚いから、試合経験をなるべくさせるように、そうした指導がなされてるって話だ」
「………くそ……」
舌打ちをする神尾は、本当に悔しそうだった。
しかしその異常なまでの執着心が、向上心となっているのだから、止め様にも止められない。ボヤキの伊武のボヤキが集中力を高めるのと一緒である。
そんな燃える神尾の前に一一一一
「いいね。その情熱をいかして特訓のレベル上げようか一一一」
「！！！！！！」
小柄な悪魔一一一もとい、テニス部臨時コーチが現れた。
背後には副会長がノートパソコン片手に立っている姿は、どこぞのデータ眼鏡を彷佛させてくれる。いきなりの会長の登場に、神尾が声にならない悲鳴を上げた。
「よぉ、越前。お前も来てたのか」
「うん。一応、他校の偵察と一一一」
ちらりとリョーマは神尾を見ながら言う。
「あんた達のレベル確認を………ね。そろそろ新しい特訓を始めようと思ってたから、その為の視察に来たんだ。試合を見た方が弱点とか強化点が判りやすいからね。ちなみにめぼしい他校の試合撮影を他の役員にも頼んであるから、敵校の調査もふまえて後でレクチャーするね」
「「「「「「……………………………」」」」」
「個人的な情報は新聞部に協力してもらってるから、もう少ししたら詳しいことまで判ると思うよ」
「「「「「「………………………………………………。」」」」」
権力乱用……。
そんな言葉が全員の脳裏に浮かび上がるも、彼にそんなこと言える勇気があるはずもなく、ただ黙っているしかなかった。
「………副会長も大変だな」
「慣れましたから」
哀愁漂う一言である。
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