| 2006年05月29日(月) | .....不動峰物語り4（テニスパラレル） |
「何よ、あんたたち！ 放して！！」
「おいおい、そんなに騒ぐなって。そっちが約束したんだろ？ そいつらを全員倒したら………あんたがデートしてくれるって」
「やっぱり杏ちゃん」
「あれ？ 橘妹じゃん」
ひょんな事から青学の桃城と追いかけっこしてしまった神尾は、公園から聞こえた悲鳴にやってきて、目を剥き驚いた。同じ学校の……という括りでは現せない部長の妹が、見知らぬ二人に捕まっていたからだ。
杏に好意を寄せている神尾は正直、焦った。
（た、助けなくちゃ………！！）
そうは思うが、相手の言い分にも一利ある。
タンカを切ったのは杏の方であると知ったからだ。
「何でそんなタンカ切ったの？」
思わず神尾が聞いた。
「だってコイツら、ストリートテニスを……」
「一一一一弱者のたまり場ってか」
ジャージを着た二人組のちょっと顔がよさ気なナンパ野郎の方が、挑発しまくった。それにカチンときた杏が感情に任せて殴ろうとしたが、失敗一一一一腕を掴まれて再び捕われてしまった。
（ああ………杏ちゃん）
気が強すぎる所は素敵だが、もうちょっと空気を読んで欲しいと、切実に思った神尾である。そのまま連れ去られでもしたらどーなるのか、考えて欲しい……。
（しかし放っておくわけには………）
神尾が考えたのは、テニスで賭をしたならばテニスで返上する。
勝って賭を無効にする事だった。
青学の桃城と神尾の即席ダブルスは、やはりというか通用しなかった。
たった一人の相手一一一樺地と呼ばれた大きな少年（中学生に見えない……）彼によって翻弄されていたが、………試合は興味を失ったもう一人の少年の静止によって中断された。
「やめろ、もういい樺地……」
打ち返そうとした大きな少年が、その声にピタリと止まった。
座り込んでいた偉そうな少年が、立ち上がり桃城に視線を上げた。
「今日は負けておいてやるよ、キサマ名前は？」
「青学２年、桃城武。ヨロシク！ ……そういうアンタは？」
「氷帝学園３年、跡部景吾」
「待てよっ 不動峰中２年、神尾だーっ！」
「てめえにゃ、聞いてねぇだろ」
跡部という少年の視線はどこまでも人を見下したものであった。
無視された神尾が食って掛かるが、彼は歯牙にもかけなかった。
その瞳がものを言う一一一弱いヤツには用はねぇ……と。
やっぱり可愛いあの子の目の前でけんもほろろにされた事は、男としてショックだったのだろう……。彼の執念は一種、凄かった。
（ヤロウ………）
絶対につよくなってやる……！
そして跡部をぶっ潰す！！
実力差を思い知らされた神尾が、この日を境に猛特訓にのめり込むのは余談である。
二人の氷帝テニス部が立ち去り、桃城が買い出しの途中であったのを思い出して慌てて帰っていった後………ストリートテニス場に、小柄な少年が現れ杏に苦笑した。
「杏先輩は女の子なんだから、もうちょっと考えなきゃ駄目じゃん」
学校で見るクールな表情とは違って、幼い表情に見えるのは、彼の服装が私服だからだろう。年相応のラフな姿は、メチャクチャ可愛かった。
「あ！ リョーマ君！！」
「げげっ！」
喜ぶ杏と、引き攣る神尾。
対照的な二人の側に、リョーマは歩いて来た。
「な、なんで会長がここに……………」
だらだらと滝のように汗を流す神尾だ。
目の前の少年の恐ろしさを一一一一身をもって知っているからこその反応といえよう。心の中では「ヤバい……」「マズイ……」がぐるぐるとエンドレスで回っている。
彼の内心を（確実に）知っているだろうリョーマは、彼にとっては悪魔の微笑み一一一一一見ている人には天使の微笑みに見える、表情を浮かべて近付いて来た。
「………………部活は自主休憩？」
「い……いや……違う……ガットの張り替えでちょっと…………す、すぐに部活に戻ろうとしたんだけど……と、途中でっ……！！」
「……………青学の桃城とダブルスしちゃった一一一と」
「………………（真っ青、気絶寸前）」
「しかも氷帝の連中とね……」
「�逼逼鼻帖帖帖帖帖帖帖帖帖帖帖帖帖帖帖帖�
「………………。」
「うがほげらぁーっ！！」
ジッと見つめる威圧感バリバリの視線に耐えきれず、神尾は奇声をあげて、その場一一一一リョーマの前から逃げるように一一一一脱走していった。
神尾、高速退場一一一。
周囲で見ていたストリートテニスの面々が、あっけにとられていた。
（（（（（（（なんなんだ、あの態度………）））））））
「うわー……さすが神尾君。速いわね」
「フン。リミッター外さなかったのは誉めてあげるよ。まぁ……１試合にも満たなかったから出番ナシで助かったんだろうけど一一一一一追加訓練の必要アリだね」
「あらあら、厳しいコーチさんね」
先程のあの傲岸不遜な氷帝に負けず劣らずの態度のリョーマに、神尾の不自然なまでの態度の理由を見た一同である。
（（（（（（（アイツ……気の毒に……）））））））
こんな人物の下にいるのは大変だろう。
あの態度から色んな想像をした面々であったが、行き着く答えは一つである。
（（（（（（（合掌）））））））
一週間後一一一一
「都大会の組み合わせが決まったね」
「ああ……」
組み合わせ表を前に橘が黙り込む。
リョーマは頬杖をつきながら楽しそうに笑っていた。
「同じブロックに氷帝ね、一一これはまぁいい。ただＢブロックに山吹がいるのが難点だね」
「はい。シングルス強化で跳ね上がった実力は、確実に氷帝レギュラーを上回っています。ダブルスは敵ではないでしょうが、シングルスの二人は要注意です」
「千石か一一一一」
橘が思案顔になる。
山吹を支える選手の彼は、ジュニア選抜に選ばれたほどの実力の持ち主である。あの全国区の青学の手塚と並び称されるほどだ。
「そこに加入した阿久津という選手は、態度は最悪ですが、身体能力は千石以上だそうです一一一部内で行なわれた試合でも全勝で、他の部員を黙らせたそうですが、その反面、暴力沙汰をいくつか起こして問題になっていますね」
「………？ それでも選手でいられるのか？？」
「顧問がなんとか揉み消したようですよ。彼の能力いかんでは全国が狙えるかどうかが、かかっているみたいですから、その線で校長やＰＴＡを黙らせたみたいですね」
「荒技だな」
そう橘は言うが、荒技を使っているのは不動峰も同じである。
向こうが阿久津ならこちらには一一一越前リョーマがいる。
「ふーん……阿久津ね……」
不動峰の切り札一一一いや、核弾頭。
越前リョーマは何やら含み笑いをこっそりと浮かべた。
その表情を見ていたのは副会長のみ。
やれやれ……と、肩をすくめて眼鏡フレームを押し上げた。
「一一一一嵐がきそうですね」
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