徒然帳
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2006年05月28日(日) |
.....不動峰物語り3(テニスパラレル) |
今日も生徒会は忙しい。 不動峰中学は「生徒の自主性を伸ばすこと」を基本とし、学校行事を生徒会を中心として生徒が行えるようにしている。勿論、そこには教師の協力は当然のごとくあるのだが、それはあくまでも補助的なものでしかない。生徒会が生徒の意見を取りまとめ、調整を行ない会議にかけた後、職員会議に提出するという仕組みで運営されている。教師陣から却下を喰らえば、またやり直しだ。再度、生徒会で会議にかけて………と、このように、一番忙しいのは生徒会である。
入学式・始業式、新入生歓迎会ときて、生徒会選挙が行なわれた。 その後、各部活動への予算委員会にて一悶着あり、やっとのことで片付けたと思いきや、中間テスト後に待っていたのは体育祭であった。 六月の初夏に始まる体育祭。 体育祭実行委員を選出して、現在は全校生徒が一丸となって準備に頑張っている。
今年の生徒会はヤリ手だ。 いつもはぐずぐずとする体育祭前の準備期間も、生徒会と実行委員との会議で発案された『特典』を設けたことにより、かつて無い計画が実行される事となった。 生徒達にやる気を起こさせるという案から出たもので一一一一準備期間にもっとも貢献したクラスのいる色組に『特別賞』が贈られることとなり一一、これには生徒が喜び湧いた。 今まで参加率が低く、サボりがちだった生徒も「おもしれーじゃん!」と進んで参加するようになり、準備期間のありえないほど高かったテンションを維持したまま、本番に続かせて見事、体育祭を成功させたのが数週間前だ。 普通の中学校であるのに、当日はどこぞのお祭りだ?! ……と、首をかしげるほどの見学人に見舞われた。口コミで今年の不動峰の体育祭は見物だという噂が広がり、中学校前に臨時の屋台が並んでど、見学者が溢れるほど盛況となった。 「おー…凄い人の波だ」 「フフフ……計算通りです。事前にPTAに根回ししておいた成果が現れてますね。屋台を設置したいと言う商店街の方と学校側の調整も上手くいきましたし…」 「近郊の中学校に噂をばらまいたのも、よかったかもね」 「そう言えば、PTAから多額の援助金出たんだって?」 「ええ、少し会長とお話をさせて頂く機会がありまして……。それよりも理事長が大幅な予算を組み直したと聞きましたが」 「あーうん。理事長室で一緒にお茶を呑んだんだけど、気前のイイ人だよね。さすが太っ腹ってカンジ?」 「フフフ……やりますね会長」 「いやいや、副会長ほどじゃないよ」 ………とは、某生徒会長様と副会長様の会話である。 周りで聞いていた生徒会役員達の意見は一致した。 ((((この二人に逆らっちゃいけない……))))
一一一この体育祭も伝説と称されたことは、明記しておこう。
「………相変わらず、忙しそうだな」 「あー……まぁね。ん、ちょっと待っててくれると助か……あれ? あ、こっちか……」 テニス部部長・橘は、リョーマに呼ばれて生徒会室にやってきた。 生徒会では現在、体育祭の後にせまった社会科見学にドコに行きたいかを、希望アンケートを実施して統計を済ませ、いくつかの希望をまとめて職員会議に出す資料を製作している所だった。 「ごめん、後ちょっとで終わるから座ってて!」 「………ああ。俺は構わねぇから」 「うん、ありがと」 橘の言葉に答えながらも手は凄い勢いでパソコンを叩き出す。周囲をみれば数名の役員が同じように忙しくパソコンを叩いたり、書類をめくったりしていた。けれど一番、忙しいのはやはり会長のリョーマに違いない。すべての事柄に目を通さなければいけないのは、どこでもトップの仕事だから仕方ないといえば仕方ない事である。 この有能すぎる生徒会長に期待を寄せるのは、なにも生徒だけではない。数々の実績が、教師陣に信頼される所以だろう。有言実行一一一リョーマは決して約束を破ることはなかった。 すなわち、無理なことは言わないということ。 自分で確実にできることしか言わないから失敗もないのだが……。 (そのできる範囲が越前は並じゃねぇんだよな……) 人よりも優秀であるために、リョーマに希望を寄せてしまうのだ。 誰も彼も一一一橘自身も。
不動峰のテニス部を全国優勝させるに、必要不可欠な力を越前リョーマは持っていた。越前自身がもつ力と、コーチとしての優秀な力と、一一一なによりも戦略に長けている所である。 協力を取り付けてからの彼は凄かった。
一から部員の基礎体力、能力を鍛え直すことを提案しながら、個人的な指導も行なわせて1ヶ月ほどだが、その効果は徐々に出てきている。スパルタだが無理難題は出すことはない。個人個人のギリギリの境界線付近まで見極めて訓練を課しているので、地獄のようだが………脱落するものは皆無だった。 目を見張るとはこのことだ。 それまで部員をコーチしていた橘ですらぐうの音もでない。当初、反発していた神尾達であったが、今ではテニス部は全員が、越前のシンパになってしまっていた。 (しかもついでだからって、女テニも面倒見てんだよな……) 妹の杏に聞いた時は、剛胆で知られる橘桔平でもあんぐりと、間抜け面を晒してしまったほどである。いくら女子テニス部が男子よりも更に人数が少ないとはいえ、忙しさを自分で増やして大丈夫なのかと………後日、心配のあまりリョーマの元を訪れた橘だったが、あっさりいなされてしまう。 「あー……まぁ……大丈夫」となんとも頼りない言葉だが、有言実行であるリョーマが言ったのだ。心配に及ばない。ちゃんと手抜きをしない所が、彼であった。
「ん、ごめんね」 一段落ついたのだろう。リョーマが生徒会室の片隅で座って待っていた橘の前にやってきて、コーヒーを渡しながら疲れた笑みを洩らした。 「じゃ、さっそくだけど……都大会の対策について話すね」 「2週間後だな」 コーヒーを一口飲んで、橘は腕を組んだ。 まだ部員のレベルは発展途上の最中である。都大会を勝ち抜くためには、数人が実力を出すしかないだろう。……が、目の前の存在がそれを許さないと知っている橘は、溜息を噛み殺すしかない。 「えーっと、大戦相手次第だけど……青学と、ついでに山吹に当ったら橘以外はリミッター外していいよ。それ以外は3割で戦うこと」 「……………? 山吹……?」 「そう、副会長調べでね。あそこは今年、シングルス強化したらしーんだけど、その人物が問題児でキレると何するか判らないんだって。下手に挑発して怪我させられるのはねー……」 「………。」 いつのまに。 橘は初めて聞いた他校の情報に、冷や汗を流した。 (流石は越前シンパ……!) 既に生徒会は越前リョーマの手中にあるといってよい。あの融通が聞かない副会長を一一一顎で使ってしまっているその姿に橘は戦慄した。そんな橘の内心の動揺をよそに、リョーマはどこまでも淡々としていた。 「氷帝に関しては簡単だよね。あそこは全レギュラー投入は関東大会からだから、そのスキを突こうと思う。一番のネックであるアンタ……橘桔平の情報は生徒会の方で意図的にシャウトアットしてたから、周囲が気づくのは都大会後になるはず……その油断をついて3-0で蹴りつけといてね」 「……………そんなこともしてたのか……生徒会」 恐るべしだ。 「とりあえず全国大会までは戦力をオープンにしたくないからね。せっかくの権力だし、仕えるモンは使わないと勿体無いからさ」 「……………。」 「もし橘先輩がリミッター外すような場面になったら、一試合ぐらいなら負けてもいいから。結果的に関東大会に出場できればOKだから、判断はそっちに任せる」 「……………………。」 何も言うまい……。 決して越前リョーマを敵には回してはいけない……それを肝に命じた橘であった。
「都大会もそうだけど、関東大会もリミッター封印の方向だから」 「………………泣くな、アイツら……」
それの意味は、さらなるレベルアップの為の地獄の特訓がまっている。
「夏の合宿が楽しみだね一一一フフッ」 最後の含み笑いが気になる所だ。
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