徒然帳
目次|過去|未来
2006年05月26日(金) |
.....不動峰物語り1(テニスパラレル) |
地区予選大会。 青春学園と不動峰との決勝戦では、青春学園に軍配が上がった。 コートの中央では試合に出なかった部長同士が握手を交わしていた。 「不動峰は二度やられるつもりはない。都大会で会おう」 「ああ」 今回の大会は二枠が都大会へ出場ができる事になっている。 青春学園に破れた不動峰は準優勝なので、当然、出場できる。 不動峰は無名校であるのであまり注目されていないが、彼等が嵐を巻き起こすのは数カ月後である。
一一一一試合後、不動峰は学校に戻っていた。 勿論、練習の為である。 テニス部として再活動しはじめて、まだ半年。 実力は中の上レベル。 次の都大会を勝ち抜くには今のままでは無理であるという自覚が部員達にはあった。特に全国区プレイヤーである部長の橘は言われなくともだ。これでは全国大会など夢のまた夢一一一一これからぞくぞく出場してくるだろう強豪に勝には、不動峰はもっと努力が必要だった。
だが幸運は、彼等を見捨てていない。 大きな希望が二つ。不動峰にはもたらされている。
「首尾はどうだった?」 練習を繰り返していたテニス部の動きが、凍ったように止まった。 フェンス越しから良く知る声に、指導していた橘が振り返ると、そこには不動峰中学校では知る人ぞ知る、小柄な生徒が立っていた。すでに全校生徒が知る有名人である。 「一一一一越前」 「地区大会、ごくろーさま」
ねぎらうのは不動峰中学1年生にして生徒会長となった越前リョーマである。 並みいる立候補をバッタバッタと倒して当選した期待の星。彼が会長になってからはトラブル続きだった校内の問題が激減したという伝説を持つ少年である。 誰もが彼には一目置いている。 そして一一一一テニス部にとっては、越前リョーマはなくてはならない存在であった。
「予定通りいった?」 「ああ、一一一一予定通り準優勝で都大会に通過したぞ」 橘の言葉にリョーマの口元がつり上がる。してやったりの表情だ。 「全てお前の予定どおりに進んでいる。………だが準優勝になる為に深司にワザと負けさせたのは、苦労したぞ。アイツはキレやすいからな」 青春学園ではシングルス2で出てきたのは、データテニスをする事で有名な乾であった。どちらもプレイ中にブツブツと喋っているので、さぞかし見てる方は気力が削られただろう。 伊武深司のぼやきは仲間ですら苦労しているモノなのだ。 「へぇー……それは見物だったろうね。でもそこを上手く引っぱれるのは橘先輩だけだし」 「ふぅ……。サックリ切りやがって。まぁ、いい。実力を隠すのも計略の一つだからな。今のウチでは相手にポンポンと手の内を晒すようなマネをしたら終わりだ。五割で勝てるならそれに越した事はない」 「そうだね。でも出来れば3割で倒せるようになってくれなくちゃ」 「…………………。」 さらりと、天使の笑顔でリョーマは鬼のようなことを言う。いや、鬼だ。 ぶっちゃけヤレ(3割以下で勝ち進め)と言っているのだ。 あまりの課題に橘が絶句してしまった。 そりゃそうだ。 今よりももっと力を抜いて勝ち抜けと言っているようなもの。 その言葉の裏にあるものを全員が理解した。 一一一一一地獄の特訓が待っていると。
二人の会話を聞いていた部員達が、一斉にドン引きした。 「…………おいおい。無茶だろ、それ」 「つまりはもっとシゴクって事? 死ぬんじゃねーのか俺達……」 「………ふーん……そーきたか……やっぱり越前クンはSだよ……それもドS。……ふふ……同じSだから解るよ……イイよね、Sは」 「……っつうか、鬼だ」 一人だけよく解らないコメントをしているが、大むね一緒。 『アンタ、俺達を殺す気か???!!』一一一一である。
文句を垂れ流しているテニス部部員にリョーマがニタリと笑った。 凶悪な悪魔の笑みに、全員の背筋から寒気が這い上がる。彼がこの笑みを浮かべる時は、決まってろくでもない。一一一テニス部限定で、不幸が待っているのだ。 動じる事が少ないといわれている橘の頬に汗が流れた。
彼の命令は絶対なのだ。 不動峰を強くする為にテニス部は、全米4連続優勝者というとてつもない実力を持っていた越前リョーマに白羽の矢を立てた。偶然にも知ってしまったチャンスを逃すほど橘は愚かではない。 理由があってテニス部に在籍していないリョーマを、努力と根性で担ぎだし、コーチしてもらう為に、取り引きまでした。
条件一一一命令には絶対服従一一一一というのを呑み込んで。
それもこれも強くなるためである。 事実、リョーマの命令に従ってみたら実力が格段に跳ね上がった。 だだし死にそうになるという注釈つきだが……。
未だに発展途上であるテニス部の面々が、リョーマの手から逃れるのは遠い夢である。越前リョーマを本気にさせる事が出来たのは、不動峰では橘ただ一人。それでもリョーマの圧勝で、実力は遠く及ばない。 試合にリョーマが出れば1発だろうが、それでは意味がないことを彼等、テニス部の面々は知っている。 不動峰中学校として優勝を目指しているのだから。
鬼コーチこと、越前リョーマは爽やかに笑った。
「そんなに期待されたら応えなくちゃね一一一一ほら、ちゃーんと特別訓練を個人の限界ギリちょんレベルで作っておいてあげたから、頑張りなよね。……っつうか、死ぬ気で頑張れ」
(((((ひぃぃぃいいいいいいー!!))))
こうして不動峰は着々と強くなってゆくのである。 一一一一越前リョーマの思惑のままに。
目次|過去|未来
bzen
|