徒然帳
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2006年05月25日(木) |
.....氷帝パラレル/4-2(テニスの王子様) |
「……………………なんでリョーマがここに居やがるんだ?」 目覚めた景吾の第一声がこれだった。 すっきりとした感覚で機嫌良く目覚めた景吾は、ソファーに沈んですやすやと眠りこけているリョーマを見て疑問符を頭に浮かべた訳だが……不思議そうに首を巡らせて数瞬、ハッと気づいて焦りはじめた。 口元に手を押しあてたまま、無言になってしまった表情はどこか暗い。自分の部屋で眠っているリョーマの理由に思い至ったからである。 「…………寝過ごしたのか………」 樋口には起こすように言付けていた景吾だが、起こされなかったなら導き出される答えは一つ。樋口に起こされる前にリョーマが起きていたという事だ。 跡部家にいるなら誰もが景吾の現状一一一忙しい事を知っている。リョーマが景吾に気を遣って起こさなかったのは、直ぐにも看破できた。
リョーマの考えなど簡単だ。 疲れている俺と試合してもつまらない……という理由に違いない。 テニスに関して一一一というよりは、景吾とテニスする事に関して一一一異常なこだわりを持っているリョーマである。その理由を知っている景吾は苦笑した。 「………悪ぃな、リョーマ」 ぐりぐりと頭を撫でるが、二度寝にはいったリョーマは起きなかった。 これは当分、起きないだろう……。 窓の外を見れば雨は上がっていた。空もやや明るくなっている。時計は昼を過ぎていたが、一度眠りに入ったリョーマが後数時間は起きない事は、経験済みである。予想では起きるのは夕方になるだろう。 ここで叩き起こせば起きるに違いないが、景吾は起こす気はなかった。 「こっちも万全な体調で相手してもらわねーと、つまらねーからな」 景吾はニヤリと微笑んだ。 彼の性格が伺える表情である。
リョーマとテニスをするのは実に久しぶりになる景吾だ。もう数年も手合わせしていないが、海外で全米ジュニア4連続優勝という偉業を打ち立てたリョーマである。テニスプレイヤーならば、それがどんな意味であるかは想像がつく。 一一一一一強いに違いない。 (そりゃ、桁違いだろー) 生来の負けず嫌いが、リョーマを勝たせたのだ。 幼い頃の口癖は「景吾以外に負ける気はないから」である。 その後に「もちろん景吾にも負けるつもりはないけどね」と、いつでも強気な従兄弟であった。一一一その言葉通り、有言実行のリョーマはアメリカでは負け知らず。その実力を4連続優勝という形で示したのだから凄い。一一一賞賛ものだ。
今まで試合してトータルで12勝6引き分け9敗で、やや景吾がリードしているが、この先はどうなるかは判らない。一応、勝ちを持っていると言っても、それは数年前までのことだ。 時は常に流れ続けている。 勝ち続けていたから次も勝てるとは限らないのが常だ。
この数年でどのくらい強くなったのかは、お互いに知らない。単なる情報で全てを知る事は出来ない。実際に手合わせをしてみるまでは、判らないからこそ楽しみなのだ。 リョーマも景吾も相対するのを楽しみにしていた。 できれば調子のイイ時にしたいと思うのは、仕方ないだろう。
リョーマが景吾を起こさなかったのはそれ故。 ならば一一一一一と、景吾はソファーで寝てしまったリョーマを自分のベッドに運んで、寝かせた。まだ肌寒い季節である。風邪でもひかれたら一一一一後が大変だ。
「お互い全力でやらなきゃ意味ねーからな」
景吾は静かに笑いをこぼした。
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