風のひとり言
kaze



 感謝

次男、女房とともに近所の公園に行った。
寒さが増してきた最近では、珍しくポカポカする陽気である。
うっすらと汗をかきながら、子供とボール遊びに興じていた。
そうしながらも、こうした子供と触れ合う時間がまた短くなってしまう。
そんな生活が目前に控えていることを考えてしまう。
一抹の寂しさを感じながらも、
この子を育てていくことが、親としての責務であることを忘れてはならない。
そう己に言い聞かせながら、子供の笑顔を眺めていた。

遠くで2人の子供を遊ばせる母親を見かけた。
次男の幼稚園での友達らしい。
母親の元に歩み寄る妻と、友達に駆け寄る次男。
気が付けば一人離れて、ポツンと立っていた。

風に流されて、母親同士の会話が聞こえてくる。
「旦那さん、今日はお休みなの?」
「えぇまぁ。今月一杯までプー太郎なの」
「え?」
「4月に会社を辞めてから、今失業保険をもらっているの」

自分が今失業中であることは、幼稚園関係の母親たちには有名らしい。
もっとも雨が降れば車で送って行ったりしていたものだから、
当然の如く「旦那さん最近よく見かけるよね」と話題になっていたそうだ。
そんな折、女房はいつも「今プー太郎なの」と話したそうだ。
最初それを聞いたとき、女房の無神経さに少々腹を立てたこともあった。
が、よくよく考えてみると、何に対して無神経なのか?何が腹立たしいのか?
その根源となるものが理解出来なかった。
ただ言えるのは、おそらくは一家の主としてのちっぽけなプライドなのだろう。
役にも立たないプライドを傷つけられたと、早合点したのかもしれない。
女房の言い分は「家にいるのは事実だし、失業中も事実」
至極あたりまえの答えである。
それを隠したいと思う方がよっぽどおかしいし、
何か後ろめたいものを抱えているような感じにもなってしまう。

母親同士の会話は続く。
「でもいいじゃない。こうして子供と触れ合う時間が持てるってことはいい事だよ」
「そう。長女たちが小さい頃は、ほとんど顔をあわせる時間がなかったし、
 出張続きで家にいなかったもんだから、子供たちもなつかなくてね。
 でも、こんな機会にこうして時間を持てた事は、次男にとっては良かったと思うよ」
「うちもなかなか顔をあわせられないからね。そんな時間が持てればいいんだけど」

聞けばほとんどの母親が同じ事を言うらしい。
勿論子供にとって、そういったふれあう時間があるということは大切なことである。
然しながら、世間の多くの父親が、仕事に追われ、時間に追われ、
家族との団欒の時間が少なくなってきているのが現状だ。
「うらやましい」と思う気持ちは当然だろう。
しかしその本音はと言えば、
「この不景気に失業なんて大変ね」
「これからどうしていくのかしら」
「うちの旦那じゃなくて良かった」
あたりが、普通の感覚であるようにも思える。
むしろ、自分の旦那がこうした状況下に置かれたとしたら、
あくまでも想像ではあるが、尻を引っぱたいてでも職探しをさせ、
嫌味の一つ二つも出てくるかもしれない。

おそらくはそんな反応をする方が多いであろう中にあり、
女房は何一つ文句言わず、むしろ次男との時間を持てた事を喜んでいる。
こうして時間が出来たことについて、素直に受け止めてくれているようだ。
そんな女房。
普段口の悪い女房ではあるが、頭が下がる思いである。
面と向かってはなかなか言えないが、こればかりは本当に感謝したい気持ちでいる。




2003年12月13日(土)
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