観能雑感

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観能雑感
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2006年11月12日(日)

宝生会　月並能　

宝生会　月並能　PM1：00～　宝生能楽堂

　残念ながら中正面最前列に座することになり、観辛かった。
　諸事情で大分時間が経過してからの記述のため、ごく簡単に。

能　『春栄』
シテ　當山　孝道
子方　佐野　幹
ツレ　渡邊　茂人
ワキ　高井　松男
間　野村　扇丞
笛　藤田　次郎（噌）　小鼓　観世　新九郎（観）　大鼓　内田　輝幸（葛）
地頭　近藤　乾之助

　家次に偽られて兄に後姿を見せる春栄を後ろから手を伸ばして捉まえる兄種直、この能には珍しい直截的な一連の動作に稚児趣味を思わせるエロティシズムが揺曳し、他の曲にはなかなか見られない風情。続く古歌を引いてのやり取りも風雅。直後の地謡が兄弟二人がそれぞれを思いやるがゆえにすれ違う心情を吐露するが、心情に強く訴えかけてきて胸が詰まった。男舞は典型的な祝言の舞いで達拝掛り。シテ以下終始緊張感の保たれた舞台で、何と言っても地謡が秀逸。

狂言　『魚説法』
シテ　野村　万蔵
アド　小笠原　匡

　淡々と危なげなく進行。そもそも淡々とした曲なのでそれでいいと思う。

能　『玉葛』
シテ　今井　泰男
ワキ　殿田　謙吉
間　小笠原　匡
笛　中谷　明（森）　小鼓　北村　治（大）　大鼓　亀井　実（葛）
地頭　佐野　萌

　諸国一見の僧が初瀬寺に詣でると小舟に乗って女が現れ、玉鬘であることを示唆しつつ消える。僧の読経に導かれ姿を見せた玉鬘は在りし日の妄執に心を乱すが、成仏したと見えるや僧は夢から覚める。金春禅竹作。今回初見。
　前シテの面は節木増。後シテは十寸髪。左側の髪を片に垂らした鬘に唐織片脱ぎ。女性の霊がカケリを舞う珍しい構成であるが、男性達の想いに翻弄され続けた玉鬘の、心に秘めた苛立ちが表出したように見えた。数々の恋愛遍歴ゆえの妄執とは言え、自ら望んだことではなく、それ故に成仏を妨げられるとは気の毒としか言いようがないが、人の心を惑わすというそのこと自体が仏教的罪なのだろう。理不尽さゆえにもたらされる救済が主眼のような気がする。
　番組には玉鬘が光源氏と夕顔の娘と記載してあったが、頭中将の間違いであろう。
　

能　『車僧』
シテ　水上　輝和
ワキ　安田　登
間　吉住　講
笛　寺井　久八郎（森）　小鼓　鵜澤　洋太郎（大）　大鼓　柿原　弘和（高）　太鼓　金春　國和（春）
地頭　髙橋　章

　安田師がいかにもふてぶてしい様子で、一筋縄ではいかないある種の奇僧を好演。前場は引き締まった問答で見応えがあったが、後場は尻すぼみの感が否めず。そうと解っていなかったらこれが大ベシだとは気付かないような笛。これでは天狗も失速してしまう。

こぎつね丸