観能雑感
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2006年09月09日(土) 第4回 條風会

第4回 條風会 十四世喜多六平太記念能楽堂 PM1:00〜

 喜多流の、若手と言い切るには経験を積んでおり、中堅と言うにはまだまだ早い方々の主催する会。今回初めて足を運ぶ。
 正面席は約半数が指定席。中正面の後列に座っていると、ここは自分たちの席だと主張する70代とおぼしき御婦人二人組み登場。間違っているのはそちらでしょうとばかり自信満々に見せるチケットにはでかでかと「正面」の二文字。正面席は向こうであると指し示し、ここは中正面で自由席である旨告げると笑い交じりに「ごめんなさいねぇ」。人を立たせておいてこれか。そして前列の人は激しく前のめり。あああ。場内ほぼ満席で盛況。

仕舞
『楊貴妃』  友枝 雄人
『阿漕』  狩野 了一

能『三輪』
シテ 金子 敬一郎
ワキ 殿田 謙吉
アイ 山本 泰太郎 (実際は則俊)
笛 松田 弘之(森) 小鼓 森澤 勇司(清) 大鼓 佃 良勝(高) 太鼓 大川 典良(春)
地頭  塩津 哲生

 名ノリ笛、吹き始めた途端に秋の空気に包まれた。前シテ、面は深井。よく稽古してあることは明白で、立ち姿など誠に端麗。しかしこれと言った瑕もないがまた心引かれるところもなく、淡々と進行。
 アイの代演に関する告知なし。泰太郎師はこのところ休演続きだが、ご病気なのだろうか。気懸り。
 後シテは白長絹に緋大口、金の梨打烏帽子。面は増だろうか。装束は変っても受ける印象が前シテと然程変らないのが残念。
 神楽は弊ではなく扇で舞われた。松田師の神楽を玄人会の能で聴くのは今回が初めて。人里離れた山中で明らかに人とは異なる存在と共有する、玄妙かつある種の熱感をともなった空間で、しばしの間時を忘れた。シテの面の微笑みは、神々しくもありまた蠱惑的でもあり。日常とはまったく別の次元に誘われてしまった。良い囃子は確実にシテを後押しする。脱帽。
 首尾よく整っていることと、観る者に訴えかける何かを持つことは別の問題。この方にはぜひ後者になっていただきたいと願っている。

狂言 『萩大名』
シテ 山本 則重
アド 山本 則秀、山本 則俊

 若い役者がシテということで興味深く観る。物覚えは激しく悪いが生真面目で品の良い大名ぶり。生活感溢れる発言が実感を伴って聞こえるのがよい。太郎冠者がいなくなってしまった後の狼狽ぶりが可笑しくも哀れで、気の毒になってきた。上演頻度の高い曲だが、何度観ても面白い。

仕舞 
『歌占』  塩津 哲生

 地謡の不揃い加減、許容範囲外。

能 『船弁慶』真之伝
シテ 内田 成信
子方 内田 貴成
ワキ 森 常好
ワキツレ 舘田 善博、森 常太郎
アイ 山本 則孝
笛 一噌 幸弘(噌) 小鼓 観世 新九郎(観) 大鼓 國川 純(高) 太鼓 小寺 真佐人(観)
地頭 友枝 昭世

 子方が本当に小さな子で、太刀を佩いた武者姿で橋掛りを歩んで来る姿に場内からどよめきが起こる。疲れのためか、前場は所々でウトウトしてしまった。前シテは悲しみの中にも色香が滲み出て良い風情。
 後シテは白の法被肩上に半切。面の種類ははっきりとは解らない。豪快な早笛で登場。松田師の笛がうねりならば、幸弘師のそれは張り詰めていて直線的であり、対照的。知盛が舟に近づくと、子方が実に勢い良く太刀を抜き払い、敵をじっと見据えて構える。闘志が漲っていて演劇的な効果大。
 前シテ後シテも造形しやすい類ではないかと思われるが、後シテにもう少々怪しさがあってもよかったのではないかと思う。
 いつも思うのだが、小書が付く場合、常とどう異なるのかをチラシの曲解説に書き加えてもらえるとありがたい。特にこの曲のように、小書が多く、むしろ小書なしで上演される場合の方が少ない曲だと尚更である。
 この曲が実際に能楽堂で観た能の300番目となった。やはり「乱」続きは達成不可。

 演能中に携帯電話の画面を見る人がちらほら。もちろんその後も電源は切らず。この種の行為は50代以上の人によるものが多い。留守番電話の応答メッセージのようなものが流れる場面があり、呆れるばかり。携帯電話の電源を切るように促す場内アナウンスに従う気は毛頭ないのだろう。迷惑な話である。


こぎつね丸