観能雑感
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2006年08月17日(木) 第11回世界バレエフェスティバル 全幕特別プロ 『ジゼル』 

第11回世界バレエフェスティバル 全幕特別プロ 世界バレエフェスティバル30周年記念公演 『ジゼル』 東京文化会館 PM6:30〜

 コジョカルとルグリの公演も気になれども、世紀のダンスール・ノーブルをぜひ今のうちに観ておかねばならぬと思い、この日を選択。どちらも観られるならば言うことなしだが、そうもいかないので。
 当日は休暇を取って、プライス・コレクションを観てから会場へ。雨が降っており座れるところを求めて歩き回るのも気が引け、ロビーに立ったままひたすら開場時間を待つ。2時間以上立ちっぱなしのところにこの状況は辛かった。3階中央上手最後列に着席。

『ジゼル』
ジゼル  ディアナ・ヴィシニョーワ
アルブレヒト  ウラジーミル・マラーホフ
ヒラリオン  木村 和夫
バチルド姫  井脇 幸江
公爵  後藤 晴雄
ジゼルの母  橘 静子
ペザントの踊り(パ・ド・ユイット) 小出 領子‐古川 和則、高村 順子‐中島 周、長谷川 智佳子‐平野 玲、佐伯 知香‐大嶋 正樹、浜野 香織、西村 真由美、乾 友子、高木 綾、奈良 春夏、田中 結子
ミルタ  大島 由賀子
ドゥ・ウィリ  西村 真由美‐乾 友子

指揮  アレクサンドル・ソトニコフ
演奏  東京フィルハーモニー交響楽団

 オケの出だし、ピッチがやや不揃いだと感じられ、これから大丈夫かと危惧するが、持ち直す。
 現在最も著名なダンサーの一人であるマラーホフ、十数年前から常にトップクラスの人気と実力を誇る彼を実際の舞台で観るのは、今回が初めて。登場した時からその「王子力」に圧倒される。実際の王子稼業(?)は何かと困難が付きまとうが、物語世界の王子のイメージそのものが眼前に現れたよう。そして限りなくバランスの良い体型にも瞠目。身長は然程高くはないが、ウエストの位置が高く、脚は確実に全身の半分以上を占めていると思われ、そして驚く程まっすぐ。脚を伸ばして歩く所謂バレエ歩きが、これほどまでに優雅なダンサーを他に知らない。踊りはクセが全くなく優美で軽やか。大きな跳躍をしても音がほとんどしない。彼の踊りに対する賞賛の声を数々耳にしてきたが、実際にこの目で観て納得。目が離せない。
 ヴィシニョーワは最初少々動きが重く見え、決して悪くはないがマラーホフとのバランスは今ひとつかと思いつつ、ジゼルが狂乱してからは鬼気迫る迫力。結果的に、彼女はアルブレヒトから裏切られたことになるが、彼女の気持ちは彼に対してではなく、ひたすら自分の中に向かう。そして相手に対する怒りではなく今起こっている事態への絶望となって、ついに彼女の命そのものが消える。健気ではあるが、相手がどう思うかではなく、自分の感情のみに拘泥しているところは恋に恋しているようにも見え、幼さを感じる。
 そんなジゼルが相手をきちんと見るのは皮肉にも死してウィリーになってから。ミルタとアルブレヒトの間に割って入る姿は毅然としていて、アルブレヒトの代わりに踊る姿は何とか彼を守りたいとの決意が表れていた。アダージオは、二人がやっと本当に心を通わせる様を描いていて、悲しくも美しく、苦しくなる。アルブレヒトのヴァリエーションはコンクールでも良く踊られ、テクニックを披露するものであるが、物語の中ではウィリーたちに無理やり踊らされている場面でもある。その両方を見事に表現していて感心とやるせなさが同時に起こる。結局、朝の訪れとともにウィリー達は去り、アルブレヒトは助かるが、同時にジゼルとの永遠の別れでもある。一人残された悲しみのうちに、終曲。
 東京バレエ団の群舞、第一幕は男性人の踊りが冴え、第ニ幕ではヒラリオンを取殺す時のウィリーたちの結束力が圧巻。
 ニ幕の二人の踊りは一切隙がなく、観る方も緊張感を持って観た。ミルタ役の好演もあり、充実した舞台となった。カーテンコールが数多く繰り返されたのは、決して表面的なものではない、心からの感動と賞賛ゆえだったと思う。今日この場所にいられる事を感謝した、素晴らしい舞台だった。

 今年で30周年を迎えた世界バレエフェスティバル。3年に1回という頻度も理想的であるし、一民間団体が、今や世界中のダンサーが目標にし、観客も心待ちにする催しを企画し、維持してきたという事実に敬意を表さずにはいられない。

 

 


こぎつね丸