観能雑感

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観能雑感
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2006年01月08日(日)

宝生会　月並能

宝生会　月並能

　宝生会では毎年確実に翁付脇能が観られるので、初会には是非訪れたいもの。翁のシテが毎回変るのもいい。昨年はチケット入手に失敗したので、今年は発売日に申し込んだ。
　中正面後列脇正面寄りに着席。

『翁』
シテ　波吉　和憲
千歳　佐野　玄宜
面箱　高野　和憲
三番叟　竹山　悠樹
笛　一噌　幸弘（噌）　小鼓　曽和　正博、住駒　俊介、幸　正佳（幸）　大鼓　佃　良勝（高）　大鼓　徳田　宗久（観）
地頭　髙橋　章

　面箱を先頭に翁が舞台入り。音もなく始まるので気付かずに話し続けている人々あり。開演時間になったら黙って座しているべきであろう。箱の紐をほどくのに、若干時間がかかったような気がした。波吉師の翁は勿論初役。後姿に緊張感と清々しさがあった。掲げた扇がやや下向きだったのが、めでたさに影さすようで少々残念。千歳も初役であろう。何よりも若々しさと清々しさ必要だと思われるが、どちらもあまり感じられず。
　三番叟も披きだった模様。掛け声が囃子のリズムと若干合っていなかったのが気になった。必死なのは観ていて解るが、それだけでは求心力を欠く。揉ノ段、鈴ノ段と、長く感じてしまった。今後の精進に期待したい。
　幸弘師の鋭くすっきりとした音色は、新春の空気に相応しかった。やはりこの方は情感等が必要でない曲に力を発揮する。

能　『鶴亀』
シテ　三川　淳雄
鶴　金井　賢郎
亀　朝倉　大輔
アイ　野村　万之介

　鶴と亀の舞は一段のみで終了。二人ともまだ中学生のはずだが既にかなりの長身。楽は伸びやかでゆったりとしており、新年の寿ぎに似つかわしい。

狂言　『末広かり』
シテ　野村　万作
アド　野村　満載、石田　幸雄

　非常に辛い時間だった。この曲における太郎冠者は、萬斎師にもっとも不向きなのではなかろうか。田舎者という設定が、すでに本人の雰囲気と正反対であるし、実際にそう見えない。すっぱから傘を末広かりだと言いくるめられているところも、信じているようにはとても見えない。役柄よりもまず本人が露呈するため、このような事態になるのだろう。ハコビの際、肩の線がぶれ、気になる。

能　『羽衣』バンシキ
シテ　三川　泉
ワキ　宝生　閑
ワキツレ　則久　英志、梅村　昌功
笛　藤田　大五郎（噌）　小鼓　鵜澤　速雄（大）　大鼓　國川　純（大）　太鼓　金春　國和（春）
地頭　今井　泰男

　ワキの登場後、若干ウトウトしていたのだが、幕内からの呼掛けの素晴らしさに瞬時に覚醒。決して威圧的ではないが、有無を言わせない強い意志が感じられた。そして気品がある。橋掛りに佇むのは高貴さ漂う玲瓏たる美女。なかなか衣を返してもらえず、「天の原」と謡っただけで、天に帰りたいという気持ちが苦しいほどに伝わってきて、早く返してやればいいのにとやきもきしてしまった。面は泣増だろうか。顔を歪めることなく、言葉少なにただ涙が頬を伝っているようだった。
　序之舞は初段オロシの後バンシキへ。転調後、笛の音の美しさがさらに増した。ひんやりと透き通った、それでいて強いその音にただただ聴き惚れるのみ。
　キリで橋掛りに立ち、天女は地上を慈しむように見下ろしつつ、遥か彼方に飛び去っていってしまった。
　新年から素晴らしい一番に出会えて嬉しい。泉師も大五郎師も本当に得難い存在である。泉師は今年はシテが多いようで、ご無理だけはなさらないで頂きたいと思う。大五郎師の姿が橋掛りにかかった時に、心を込めて拍手を送った。

能　『野守』
シテ　亀井　保雄
ワキ　宝生　欣哉
アイ　深田　博治
笛　中谷　明（森）　小鼓　住駒　匡彦（幸）　大鼓　亀井　実（葛）　太鼓　助川　治（観）
地頭　近藤　乾之助

　実質消化試合になってしまったのは前の一番が素晴らしかったためだけでは決してない。このシテの舞台は訴えかけてくるものがなく、弛緩した印象。それでも欣哉師のきりりとした姿と謡は楽しめた。下居姿の美しさには目を見張るものがある。

　狂言の後に休憩があると思った方多数。月並能では二番目終了後に休憩が入るのが常だが、翁が上演される初会では見直した方がいいのではないかと感じた。途中入退席される方の立てるドアの音がかなり耳障り。何か対策はないのか。
　ところで清酒「宝生」の味は、どんななのだろう。

こぎつね丸