観能雑感
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2006年01月07日(土) バレエ 『白鳥の湖』 

バレエ 『白鳥の湖』 新国立劇場 PM3:00〜

 TVで観たザハロワとウヴァーロフの踊りが素晴らしく、この二人が出る日のチケットを入手。プレーオーダーで申しこんで、第一希望の席が取れなかったのは初めて。同じ金額を出すならこの二人を観たいと思うのは当然だろう。
 どちらかというとモダン嗜好が強いためか、劇場でこのコールド・バレエの代表作を観るのは今回が初めて。座席は3階下手側。

『白鳥の湖』
全3幕4場

芸術監督 : 牧 阿佐美

振付 : マリウス・プティパ/レフ・イワーノフ
作曲 : ピョートル・チャイコフスキー
改訂振付 : コンスタンチン・セルゲーエフ
監修 : ナターリヤ・ドゥジンスカヤ

舞台美術・衣裳 : ヴャチェスラフ・オークネフ
照明 : 梶 孝三
舞台監督 : 森岡 肇
装置・衣裳製作 : ヴォズロジジェーニエ社

指揮 : 渡邊一正
管弦楽 : 東京交響楽団

オデット/オディール スヴェトラーナ・ザハロワ
ジークフリード王子 アンドレイ・ウヴァーロフ
ロートバルド 市川 透
王妃 鳥海 清子
道化 吉本 泰久

 第1幕第1場は宮廷の庭園での野外パーティーという雰囲気。衣装はルネサンス時代の服飾がモチーフになっているよう。王子役のウヴァーロフが登場した時は、それだけで思わず拍手。舞台上に僅かに姿が見えただけで、王子であるとしか言いようのない気品が漂っていた。ダンスール・ノーブルは、かくあるべきなのであろう。舞台端に佇み、マイムだけで周囲のにぎやかさとは裏腹な王子の憂鬱さを表現していた。。
 第2場、場面は夜の湖畔となり、オデット役のザハロワが登場する。ロシアの踊り手は皆腕の表情が豊かだが、長身で手足の長い彼女は殊更にそれが際立つ。腕そのものが意志を持って動いているのではないかと思えるくらい、白鳥の羽の繊細な動きを表現していた。王子に恐る恐る近寄るが、弓を持っているのに気付いて驚いて遠ざかるところは、心の動きがそのまま見えるようだった。音楽に対する感覚も良く、どんなに早い動きでも決して音から外れない。アダージオは、今この瞬間をかけがえのないものだと感じ、それを確かめ合っている二人の心の温かさが伝わってくるような、静謐さときらめきに満ちており、終ってしまうのが惜しいと思うくらいだった。
 第2幕は宮廷での舞踏会。王子のお妃選びのために催されてものだけれど、オデットのことで頭が一杯の王子は気もそぞろ。そこにロートバルトとオディールがやってくる。一人のダンサーが正反対の役を踊りこなさなければならない。ザハロワのオディールはあからさまに王子を誘惑するというよりは、そこにいるだけで、つい相手の方が引き寄せられてしまうと言った様子だった。
 第3幕、結果的に王子に裏切られたことを悲しむオデットのところへ王子が訪れる。落胆しつつも本当の気持ちを確かめ合う二人。しかしそこにロートバルトが現れる。力なく倒れ臥すオディールを背後に、王子は悪魔と対決し、勝利する。この作品には多くの版が存在して、悲劇のまま終るものもあるが、このセルゲーエフ版では二人は明るい朝の日差しに包まれて幕となる。

 主役二人の素晴らしさが際立っていた。正確なテクニックと登場人物の心の内を表現する力。恵まれた容姿。両者とも、私が常々見たいと思っている踊りを見せてくれた。クラシック作品は、こういう踊り手があってこそ、輝くのだと思う。
 オーケストラは、トランペットに少々瑕があった以外は、素朴だが誠実で悪くはなかった。主役はあくまでバレエである。

 懸案事項があって、心身ともに重かったのだけれど、舞台を観終わった後は大分元気になっていた。良き芸術の効用である。ああ、それにしてもザハロワの何と美しいことよ。寒風吹きす中に凛然と咲き誇るし白い花のようである。
 


こぎつね丸