観能雑感
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観世会定期能 観世能楽堂 AM11:00〜
東京で片山九郎右衛門師の舞台を観ることができる数少ない機会であり、当然逃せない。電話でチケットを確保し、現金書留で送金する際消費税分の400円を入れ忘れるという失態をやらかし、連絡を頂戴してしまった。当日残金を渡し、チケットを受け取る。反省。この消費税分という端数、昨年まではなかったように記憶している。現金書留での送金は送料に重量が加味されるので、硬貨が必要だとその分高くつく。それでなくとも現金書留での送金は割高。何とかならないものだろうか。 中正面後列、ガラスで仕切られた関係者席の前方に着席。見所は8割程度の入り。今日も襲ってくる眠気との格闘を余儀なくされた。睡眠が十分だったとは言えないが、なぜこれほどまでにと困惑。
能 『鉢木』 シテ 観世 清和 シテツレ 関根 知孝 ワキ 森 常好 ワキツレ 舘田 善博(番組に記載なし) アイ 野村 扇丞、山下 浩一郎 笛 一噌 仙幸(噌) 小鼓 亀井 俊一(葛) 大鼓 亀井 忠雄(葛) 地頭 野村 四郎
ワキの名ノリで情景が立ち上がってこず、以降物語に入り込めなかった。シテ、貧しくとも手放さなかった鉢木を火にくべる間際の、思い入れが伝わってこず、ワキの前に赴いて火にあたれと促すところは尊大で、ありがたく思えといわんばかりであった。後シテ、鞭を表す杖を捨てる所作が驚くほどに乱暴。ただ時間だけが流れていった。
狂言 『佐渡狐』 シテ 野村 萬 アド 野村 扇丞、小笠原 匡
シテが登場する前の二人のやり取り、間が十分に取られておらず、落ち着かない。萬師が言葉を発しただけで雰囲気が引き締まる。佐渡の百姓のずれた回答に思わずよろける所作のタイミングと表情が絶妙で笑いを誘う。間の大切さを意識した時間だった。
能 『蝉丸』 替之型 琵琶之会釈 蝉丸 片山 九郎右衛門 逆髪 片山 清司 ワキ 殿田 謙吉 ワキツレ 大日方 寛、御厨 誠吾(番組に記載なし) アイ 小笠原 匡 笛 杉 市和(森) 小鼓 曽和 正博(幸) 大鼓 亀井 広忠(葛) 地頭 坂井 音重
通常シテは逆髪だが、今回は両シテ扱いなのだろうか。 籠に乗る態で橋掛りを歩んでくる九郎右衛門師の姿が誠に可憐。中縹の狩衣、秘色の指貫、出家後の姿のためにあらかじめ下に着込んでいる薄色の水衣の裾が僅かにのぞいている。かさねの色目のごとくに調和し、洗練された装束の色合わせに嘆息。若々しさと気品が見事に溶け合っていた。謡はこちらの心に直に響いてくる。ワキ、ワキツレの道行が秀逸で、雨降る山中の情景と苦しい心中を描き出した。 逆髪は唐織片脱ぎ、両側を垂らした鬘、面は増だろうか。不明。登場時の謡は逆髪という存在を強烈に印象づける大切なところだが、いまひとつ引き締まらない。狂乱と聡明、皇女でありながら人々の情けにすがって生きるという両極を体現する女性の姿が浮き上がってこない。以降、眠気も手伝って、散漫な印象。残念。こうしてみると、逆髪は難しい役なのだと思う。 九郎右衛門師は足の状態がよろしくないようで、若干痛々しかった。
仕舞 『雨月』キリ 角 寛次郎 『春栄』 浅見 重好 『葛城』キリ 藤波 重好 『春日龍神』 観世 芳宏
能 『乱』 シテ 藤波 重孝 ワキ 高井 松男 笛 松田 弘之(森) 小鼓 鵜澤 速雄(高) 大鼓 安福 光雄(高) 太鼓 三島 元太郎
高井師の身体全体がギクシャクしているのは、最近共通した印象。どうしたのだろうか。 シテは登場時には硬さが感じられたが、舞が進むにつれて落ち着いてきた模様。水面をゆらゆらと漂っているような滑らかさがなく、物足りない。 松田師の笛の利点のひとつは、妖しさが表現できることだと思っている。いつもの浜辺にいつもの空、いつもの星、でも何かが違うという雰囲気が、猩々の登場する下リ端に相応しいものとなっている。今日はこの方としては平凡な出来だったが、乱の独特な旋律と拍子を堪能した。
今回休憩時間中に初めて2階の稽古舞台に上がってみた。靴を脱がなければならないので狭い出入り口は大混雑。食事らしい食事をするわけではないので早々に退散した。
こぎつね丸
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