観能雑感
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2005年10月08日(土) 第三回 塩津哲生の會

第三回 塩津哲生の會 PM2:00〜 喜多六平太記念能楽堂

 チケットを頂戴しての観能。ありがたや。座席はワキ正面後列中央で視界良好。ほぼ満席状態。

おはなし 馬場 あき子

 三輪山と三輪山信仰に関する大まかな説明。小書についても言及されていた。

仕舞 『春日龍神』  塩津 圭介

 昨年に比べると確かな成長が伺えて喜ばしい。と言いつつ、地謡の大島輝久師の秀麗な横顔を絶好の角度で拝見できたので、しばし目を喜ばせた。眼福。

狂言 『鐘の音』
シテ 野村 萬
アド 小笠原 匡

 脇正面に座しているためシテの姿はほとんど後ろ姿。そこに驚きや満足という様々な感情が滲み出ているのを感じる。シテが芸を見せることに主眼が置かれている曲であり、観る者の意識を逸らせない求心力はさすがであった。


能 『三輪』神遊
シテ 塩津 哲生
ワキ 宝生 閑
アイ 野村 万蔵
笛 一噌 仙幸(噌) 小鼓 北村 治(大) 大鼓 柿原 崇志(高) 太鼓 金春 惣右衛門(春)
地頭 粟谷 菊生

 前シテの装束の見事さにまず目を奪われる。パンフレットによると黒紅地の「若松に蔦文様」。地に紅緋や浅葱の色がよく映えていた。前後とも梅若六郎家所蔵の面を使用。前シテは深井。どちらかと言うと若々しく、品のあるきりっとした表情だった。謡い出しは、低く、ただならない秘密を宿している様子。後姿に本性を暗示させる強さが漂っていた。作り物の中に入って中入。
 脇正面なので装束を替えるために立ち働く後見とそのサポート役が立ち働く姿に自然に目が行ってしまう。無駄のない、計算された動作をしばし観察。あの狭い作り物の中で大口を着けるのは大変そう。ギリギリまで時間がかかったようで、少々心配になってしまった。
 後シテは紅大口に白袷狩衣を衣紋付け、腰帯、金の風折烏帽子という出立。狩衣の文様は金の「破れ七方老松」。面は萬媚。男装しているという印象で、三輪神そのものというよりは、巫女に憑依しているようだった。面は近寄り難い神秘性とふっくらとした柔らかさを併せ持っていた。謡い出しから前シテとは異なる次元の存在であるという印象。
 神楽は常の形よりも短かく三段。シテの舞の所作ひとつひとつが表現として確立していて、知らず知らずの内に注視してしまう。端ノ舞はかなり急で、橋掛りで翁特有の袖を被き扇を掲げる所作あり。再び本舞台に戻って留め。
 神楽が進むに連れて生じる高揚感を犠牲にして端ノ舞を挿入し、力強さを加味した演出と言えようか。これはこれで面白いが、常の形を凌駕するものではないと思う。
 塩津師は今充実した状態にあるのだと感じた。
 


こぎつね丸