観能雑感

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観能雑感
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2005年10月06日(木)

能楽観世座　第7回公演　立会能　楊貴妃

能楽観世座　第7回公演　立会能　楊貴妃　観世能楽堂　PM6:30～

　宝生流と観世流でそれぞれ同じ曲を上演するという企画。両方観たいのは山々なれども、そうも言っていられない。
　当日は運良く定時で退社できた。中正面後列、目付柱のほぼ正面に着席。チケット購入時、観世座の公演では、なぜかチケット購入時に希望を伝えるのを忘れてしまう。そして先方も一切訊いてこない。周囲は研究者や評論家の方々がちらほら。

狂言　『悪坊』
シテ　山本　東次郎
アド　山本　泰太郎、山本　則重

　橋掛りを歩いてくる泰太郎師のハコビの美しさにみとれてしまった。身体がまったくぶれず、実に滑らか。東次郎師扮する悪坊の小袖の柄は奇抜と言ってもいいくらい派手で、バサラな雰囲気。悪坊が堅気でないことがひと目で解る。
　宿屋で寝こけてしまった悪坊の小袖や刀を奪って逃げていく僧の様子、起さないようにできるだけ静かに、物音を立てないようにしている息遣いまでが感じられた。
　ごくさり気ない所作が醸し出す雰囲気に、様式を獲得した身体がいかに見事であるかを感じた時間だった。

能　『楊貴妃』玉簾
シテ　髙橋　章
ワキ　森　常好
アイ　山本　東次郎
笛　松田　弘之（森）　小鼓　曽和　正博（幸）　大鼓　安福　健雄（高）
地頭　三川　泉

　玄宗が死んだ楊貴妃の魂魄探索に方士を差し向ける。方士は蓬莱国へ赴き、玉妃と呼ばれる楊貴妃と思しき人物と対面。彼女は玄宗と永遠の愛を誓い合った在りし日を偲び、方士に簪を托し、舞を舞う。やがて方士は帰途に着き、玉妃はひとり取り残される。金春禅竹作。今回初見。
　玉簾の小書が付くので、作り物の宮には三方に鬘帯が垂らされる。色は全て紅だけれども、一本一本模様の違う帯は見るも鮮やか。シテの姿は作り物から出てくるまでほとんど見えず、時折手が覗く程度。高貴な人物であるという演出効果が高く、また僅かに見える手が神秘性を増す。作り物の中から聴こえる声は深く物思いに沈んだ様子。紅大口、唐織大壷折、面は節木増だろうか。その時々であどけない少女のようにも、憂愁に包まれた美女にも見え、それを目で追っているだけでも飽きなかった。
　方士に渡した簪を返してもらい、物着アシライの後イロエ。サシコミ、ヒラキという基本動作に様々な情感や雰囲気が込められているのを感じる。再び簪を方士に渡し、位置を変えながらすれ違う二人。この瞬間に匂い立つような妖艶さと楊貴妃の孤独を感じた。去っていく方士を見送り、残った楊貴妃は一人涙して終曲。
　玉簾の小書が付くと曲全体が大きく変るらしいという程度の知識しかなかったため、序之舞が完全に省かれるのは予想外。少々ショックだった。この囃子方の面々では、尚更のこと。敢えて喩えるならば、メインディッシュを食べ始めようとフォークとナイフを手にした瞬間皿を下げられてしまったような気分。せっかく有料のパンフレットを作るのだったら、小書と常の形の違いに言及してくれてもいいのではないかと思ってしまった。二日目の観世流も小書付きの上演であることだし。ただ、舞を挟んでの別れよりも、この方が楊貴妃が一人取り残される孤独感が強調され、物語の流れとしては自然な気がした。
　個人的な印象ではあるが、地頭と副地頭に埋められない齟齬のようなものを感じた。私が田崎隆三師の謡がどうしても好きになれないという事が影響しているのかもしれない。調和の中の不調和が気になり、ガサガサした質の悪い紙のような感触の地謡だと思った。残念。

　隣の席の方は演能中靴を脱いでいて、それ以外にもツンとする臭いが漂い辛かった。靴を履いているべき場所で脱ぐのはマナー違反だと思う。
　

こぎつね丸