観能雑感

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観能雑感
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2005年06月12日(日)

宝生会　月並能

宝生会　月並能　宝生能楽堂　PM1：00～

　髙橋章師のシテがあるので出かける。宝生の月並は行く会の方が多いのだけれど。
　見所は6～7割程度の入り。少々空席が目立つ。中正面後列正面席寄りへ着席。すぐ前の方が完全に前のめり状態で哀しい。

能　『加茂』
シテ　朝倉　俊樹
ツレ　小林　晋也
天女　小倉　伸二郎
ワキ　殿田　謙吉
ワキツレ　則久　英志、芳賀　俊嗣
アイ　三宅　近成
笛　一噌　隆之（噌）　小鼓　住駒　匡彦（幸）　大鼓　佃　良勝（高）　太鼓　小寺　佐七（観）
地頭　寺井　良雄

　前シテ、ツレはどちらも女性なので華やいだ印象。朝倉師、カマエもきれいだし謡も悪くはないが、どうも今ひとつ求心力に欠ける。アイの近成師、やはり身体そのものが甘いく、ブレる。後ツレの小倉伸二郎師、謡はいいが、舞がいまひとつ。天女という華やかさも不足気味。後シテが登場し、舞働の後、雷をそのものを表す足拍子を踏み、それぞれ在るべきところへ帰って終曲。
　悪くもなければ、良くもなくという態で淡々と時間が流れていった。

狂言　『蚊相撲』
シテ　三宅　右近
アド　三宅　近成、前田　晃一

　太郎冠者がつれてきた家来候補の顔を見て、驚く右近師の様子、言葉を発するまでのタイミングが絶妙。秘策を弄しつつも、結局蚊の精に負け、太郎冠者に八つ当たりし、蚊の精の真似をしながら去っていく大名、身勝手な行動ながら、無邪気で憎めず。こちらも淡々と時間が流れていった。

能　『草紙洗』
シテ　水上　輝和
子方　近藤　颯一郎
シテツレ　貫之　水上　優　立集　澤田　宏司、亀井　雄二、東川　尚史
ワキ　高井　松男
アイ　三宅　右近
笛　藤田　朝太郎　（噌）　小鼓　幸　清次郎（清）　大鼓　亀井　実
地頭　近藤　乾之助

　比較的最近観世流で観た曲。見た目上かなり差異があった。観世流ではワキ方から登場したのに対し、まず正中に鬘桶を出し、シテが座る。その後ワキ方が登場。小町の歌を盗み聞きするのは橋掛りで。一方観世流では橋掛りにいる小町の歌を、シテ柱付近でワキが聞く態。松井氏は、いかにも腹に一物あるという雰囲気を出していた。
　後場、子方の天皇を先頭に、シテ、ツレが登場。颯一郎君、随分背が伸びていて、驚く。観世流ではツレに侍女が含まれていたのに対し、こちらは全員男性。黒主が大鼓前あたりに座していた観世流に対し、こちらは正中。ツレが全員男性の方が、小町対黒主という対立構造が視覚上より鮮明になる。貫之を勤める水上優師、立ち姿、下居姿がすっきりとして、コトバも明瞭。見るからに有能そうといった態で、気持ちがいい。子方が、貫之に呼びかけるところ、小町と言ってしまうが、それ以外は立派だった。意外にと言っては失礼だが、水上輝和師の小町、謡が良く、毅然とした様子が身体から滲み出ていて好演。黒主の追及に堂々と対応する姿は美しかった。高井師は黒の狩衣がよく似合って、悪役の雰囲気全開。失意のまま退出しようとする小町だが、結局草紙を洗うことを許される。観世流では大壷折の唐織を脱いだが、今回はそのまま。洗い物づくしは、ほとんど下居状態。観世流では舞だった。自害しようとした黒主を小町が庇い、和解の後、小町の舞となるが、観世流では長絹を物儀したのにたいし、こちらは風折烏帽子をかける。女性の扮装としてはやや違和感あり。報謝の舞のはずなのだが、今ひとつ盛り上がらない。問題がすべて解決し、すっきりと終曲。
　地謡の出来は三番の中で最高。重厚でいて軽やかという、宝生の良さを味わった。舞台そのものも本日中一番。それぞれの役をそれぞれが健闘。

能　『須磨源氏』
シテ　髙橋　章
ワキ　宝生　閑
ワキツレ　梅村　昌功、大日方　寛
アイ　川路　雅義
笛　寺井　久八郎（森）　小鼓　北村　治（大）　大鼓　亀井　忠雄（葛）　太鼓　三島　元太郎（春）
地頭　三川　淳雄

　前シテ、訴えかけてくる力、存在感がなく、どうしたことかと思う。そのまま中入。後シテ、白緑地に木賊色の立湧文様、金箔で大きな模様入りの狩衣、紫指貫、垂纓初冠。面は中将。早舞、囃子がかなりちぐはぐで、ノリ良く、颯爽とした印象皆無。シテが気の毒になった。残念ながら、鬱屈した印象を終始与えたまま、終曲。期待していただけに残念。

　番組に早舞は盤渉でオクターヴ高い調子との記載があったが、これは誤り。オクターヴ高いというのは調性の変化を表す言葉ではないし（ハ長調の曲を通常よりオクターブ高い音で歌ったとしても、ハ長調であることに変わりはない）、例えば中ノ舞を常よりオクターヴ高く吹くのは不可能である。

　三番目が始まっても、断続的に声高に話していた高齢のご夫人2名あり。正面席の後列で、自分の席からは離れていて、声をかけるにはかなり大声を出さねばならず、何度も振り返って目で訴えるが全く効果なし。観る気がないなら、さっさと帰るべきである。
　

こぎつね丸