観能雑感
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宝生流 月並能 宝生能楽堂 PM1:00〜
三川泉師のシテがあるので勿論出かける。見所は空席がちらほらある程度。初番からは満席にはならないのは常のこと。中正面後列脇正面寄りに着席。今回増設された最後列に初めて座った。持病による痛みあり。
能 『養老』 シテ 登坂 武雄 ツレ 小林 晋也 ワキ 工藤 和哉 ワキツレ 梅村 昌功、則久 英志 アイ 高野 和憲 笛 藤田 次郎(噌) 小鼓 幸 信吾(幸) 大鼓 内田 輝幸(葛) 太鼓 助川 治(観) 地頭 佐野 萌
前シテ、ツレの同吟、揃わず。シテの謡に力がなく、物語の世界が一向に立ち上がってこない。立ち姿がどこか所在無げで、養老の滝は見えてこず、ただただ能舞台が眼前にあるのみ。 後シテの登場、前シテと変わったのは装束のみといった態で、野趣溢れる山神には見えなかった。あまりの覇気のなさに驚く。神舞も颯爽とせず。地謡にも訴求力が欠け、大小も苦手な組み合わせ。ただ時間が過ぎていった。
狂言 『鐘の音』 シテ 野村 万作 アド 野村 万之介
主人は金の値のつもりで「ネ」と言うも、太郎冠者は鐘の「オト」だと理解。双方の認識のズレが混乱をもたらす話。今回初見。 見どころ(聴きどころ)はシテ演ずる鎌倉の各寺の鐘の擬音。いろいろな音色を再現しつつ、自分なりにこの鐘が一番と結論づけるのが面白い。帰宅後、当然主人からは叱責される。何とか機嫌を直してもらおうと謡う流れは、『末広がり』の展開と同様。主人にとっては全く予想外の太郎冠者の行動に、唖然として呟く一言、事情が判明し、「だったら最初からそう言えばいいのに」と漏らす太郎冠者の憮然とした一言、それぞれが自然でさり気なく可笑しい。上質の素材をあっさり調理した料理を味わうがごとき時間だったが、残念ながら見所が落ち着かず。
能 『三山』 シテ 三川 泉 ツレ 小倉 健太郎 ワキ 宝生 閑 ワキツレ 井藤 鉄男、大日方 寛 アイ 石田 幸雄 笛 寺井 義明(森) 小鼓 鵜澤 速雄(大) 大鼓 安福 健雄(高) 地頭 近藤 乾之助
畝傍山、耳無山、香久山の大和三山を一男二女に見立てた恋愛譚だが、恋そのものより、それによって生じた嫉妬心に焦点が当てられている。万葉集に依拠。宝生、金剛流のみ途絶えることなく演じ継ぎ、観世流では昭和60年に観世銕之亟師と横道萬里雄氏により復曲。 笛は事前に貰った番組では藤田朝太郎師だった。 開始からワキ方が登場し、名乗り始めるまですぐ後ろでポリエチレン袋をガサガサさせる音が継続。あまりに煩いので何度も振り返ってしまったが効果なし。その後もガサガサ、話し声など聞こえて来て、迷惑。 ワキ方の良忍聖一行が奈良に到着すると、どこからともなく女が現れ、橘公成と桂子、桜子の話をする。やがて女は名帳に自分も加えて欲しいと頼み、桂子と名乗って消えていく。 シテは幕内からの呼びかけの後登場するが、この第一声から物語の世界に引き込まれてしまった。謡の力の何と大きいことか。紅入ではあるが、押さえた色調の唐織着流しに、面は増。橋掛りを歩む姿はどこといって変哲のない女性の姿、しかしどこか怪しい。押さえていても奥底でしっかり主張する宝生ならではの地謡に、やはりこうでなくてはと喜んだのも束の間、とうとう眠気が押し寄せて来て前場は半覚醒状態のまま進行。音として安心できる状態になったのが眠気の元とは残念無念。下居したシテの姿が実に端正。 後場はまず狂女越の一声でツレの桜子が登場。唐織片脱ぎで、桜の枝を持つ。面は小面。シテは同じく片脱ぎで桂の枝を持ち、面は増髪。ツレのハコビがややひょこひょことし、腰がぶれるのに対し、泉師は頭の部分だけみていると、下半身はまったく動いていないごときである。腰の安定感というものが、若い世代とは確実に異なるのを感じつつ、今後に憂いを覚えた。桜子は桂子の妄執から逃れたいと成仏を願い、桂子は桜子を憎む気持ちが捨てきれず、成仏できない。シテのシオリは、つい先程まで平静さを保っていた人が、急に泣き出すがごときで胸を突かる痛々しさ。それでいて、面近くに添えられた手の指先までに可憐さが漲り、目を逸らさせない。二人が向き合いそれぞれ枝を翳して打ち合う「後妻打ち」の後、桂子の妄執も晴れ、二人連れ立って成仏する。 相手の心変わりも、若く美しい女の存在も、結局のところ自分自身ではどうにもできない問題であり、それゆえに桂子の嫉妬心はやり場のないものである。だからこそ、他者による救済が有効に機能したのだろうか。 シテ、地謡とも充実していて、ウトウトしてしまったのが悔やまれる。大小も安心して聴いていられる組合せ。速雄師はまたお痩せになられたようで、心配。
能 『土蜘蛛』 シテ 三川 淳雄 頼光 大友 順 小蝶 田崎 甫 トモ 今井 基 ワキ 高井 松男 ワキツレ 工藤 和哉、御厨 誠吾 アイ 竹山 悠樹 笛 内潟 慶三(森) 小鼓 大倉 源次郎(大) 大鼓 安福 光雄(高) 太鼓 大江 照夫(春) 地頭 今井 泰男
定例会ではまず出てこない曲であると思われる。珍しい。 事前の番組では笛は松田弘之師であった。 予想していた通り、地味に淡々と進行。投げる蜘蛛の糸も少なめ。淳雄師の謡は明瞭だった。後シテは赤頭、シカミ、厚板、側次肩上げ、半切。流儀の特徴ゆえか、面も切らず、斬組みもよく言えば重厚な態。あっさりと終了。 かつて観たのは金剛流で千筋之伝の小書付きだったため、シテの欄干越えに仏倒れ、投げる糸の量も非常に多く、とにかく派手だった。この曲に関してのみ言えば、派手なほうが舞台映えするように思われる。
見所の弛緩した雰囲気に、ふと哀しくなった。
こぎつね丸
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