観能雑感
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2005年04月15日(金) 第4回緑桜会 こころみの会 ―能の囃子を楽しもう―

第4回緑桜会 こころみの会 ―能の囃子を楽しもう― PM4:00〜 梅若能楽学院会館

 囃子好きとしては興味深い番組構成。気になってはいたものの、27日の国立定例公演に行くつもりだったのでこちらは諦めていたが、チケット入手に失敗したためこちらを手配。勿論両方とも行くのが理想的ではあるが、労働者の身ではそうもいかない。
 3:30開場のはずが、約10分前に到着すると、すでに入場できるようになっていた。全席自由のためか、大分前から並んでいた方がいたようである。見所は大分埋まっていて、正面席のボックスになっている部分の手前に置かれた補助席に着席。階のほぼ正面。定席より目線が高くなり、未だかつて味わったことのない良好な視界。しかし、床が傾斜しているのと椅子が固く、安定も悪い事等、いいことばかりではなかった。空調の真下で大分冷えてしまったし。それでも、自分としては良席であった。満員で盛況。

 まず、会主である山村庸子師の挨拶があった。自分が観客だったら観たい会、長い間能を観ている人にも、初めて観る人にも楽しんでもらえる会を企画したくて始めたとのこと。ご本人が玄人になるきっかけは、小鼓の稽古だったとか。

能の囃子
大倉 源次郎、亀井 広忠、助川 治、松田 弘之

 源次郎師が司会で、各楽器を紹介していく。まずは大鼓と小鼓。微かな関西アクセントでゆったりと話す源次郎師はオヤジテイスト満載。一方広忠師は気真面目な人柄が滲み出る。大鼓が大別するとドンとチョンの2種類の音しかないのに対し、小鼓は4種類の音が出て「繊細なんです」とのこと。調緒を閉めたり緩めたりして音を出してくれたので、その変化の仕方が判った。大鼓が組み立てるのに15分かかる一方、小鼓は約1分。手早くばらして再び組み立てる源次郎師、胴を見せて「向こう側が見えます」と言った後、「だからってどうってことないんですが」と付け加えたのが個人的には受けた。最後に二人が背中合わせに座って「波頭」(だったか?)の部分を実演。掛け声を聞いていれば相手の出方が解る、ということの証明。
 続いて松田師と助川師が登場。笛の解説は一番時間が短かったような気がする。源次郎の「難聴になったりしますか?」という問いかけに力強く「します!」と応えた松田師。私のような超ダメダメが吹いていても耳が痛くなるのだから、当然だろう。ヒシギと、能管はノドが入っているため音律が一定ではないことを示すために指を一本ずつ上げて吹いてみせた。
 太鼓は押さえる音の「ツクツク」と響かせる音の「テケテケ」(だったか?)の2種類の音で構成。助川師曰く、「我を通せる」そうである。二人で「祈り」を実演。
 最後にシテ方も登場し、全員で出囃子の「下り端」、「大ベシ」、「早笛」を実演。充実していた。

一調
『放下僧』小唄  角当 直隆  大鼓 亀井 広忠
『船弁慶』  小田切 康陽  太鼓 助川 治
『夜討曽我』  山崎 正道 小鼓 大倉 源次郎

 一調が玄人の間では重く扱われる理由を計らずも実感。謡に魅力がないと聴いていて面白くない。囃子方との力量の差が顕著で、双方の力が拮抗するには至らず。

一謡一管
『班女』クセ  梅若 六郎  笛 松田 弘之

 こちらは双方見事に拮抗。六郎師の作り出す世界に対して、対抗するのではなく、あくまでも引き立たせるようにあしらう松田師の笛。班女の空虚な心の内と冷たい秋の風を感じた。

舞囃子
『融』酌之舞  山村 庸子
笛 松田 弘之(森) 小鼓 大倉 源次郎(大) 大鼓 亀井 広忠(葛) 太鼓 助川 治(観)

 ワキの待謡いからトメまで。これだけでも聴きに来た価値があると言い切れる充実度。囃子方全員、音に魂がこもっていた。あらゆる音楽に、この「魂」の部分は重要なのだとこの頃特にそう思う。

乱囃子
『高砂』  亀井 広忠
笛 山村 庸子 小鼓 梅若 六郎 大鼓 山中 迓晶 太鼓 山崎 正道
地謡 大倉 源次郎、 助川 治、松田 弘之

 笑いの要素を一切排除した、真剣勝負の乱囃子だった。配役は会主の挨拶の際に発表されて、六郎師の名前が出ると場内から拍手が出た。六郎師の小鼓の腕前は有名だが、他の囃子の方々も大健闘で、大鼓が良い音を出し続けていたのには感心。笛も苦しそうだったけれど、最後までしっかり吹き切った。見事。音程が松田師のそれと一緒で、同系統の師に師事なさっていたと思われる。広忠師、足拍子は舞台が傾くのではないのかと思われるほどしっかりと踏み、気合を前面に露呈した奮闘ぶり。なんとなく、大鼓の演奏ぶりと重なるなぁとふと思った。

 時にはこういう趣向も悪くない。楽しい時間だった。


こぎつね丸