観能雑感
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2005年04月10日(日) 宝生流 月並能 

宝生流 月並能  宝生能楽堂 PM1:00〜

 稀曲が出るので出かける。もっとも、宝生の月並は観ない会の方が少ないくらいなのだが。
 急激に温かくなって、桜はあっという間に咲き、風の強い日が続いたこともあって、見る間に散ってしまった。今やすっかり葉桜である。しつこくないところが桜の良さだと思う。
 見所は7割程度の入り。中正面後列脇正面寄りに着席。

 気力減退でごく簡単な記述に止める。花粉の影響か、とにかくだるい。

能 『嵐山』
シテ 波吉 雅之
前ツレ 和久 荘太郎
後ツレ 辰巳 大二郎、辰巳 孝弥
ワキ 野口 敦弘
ワキツレ 野口 能弘、野口 琢弘
アイ 三宅 右矩
笛 一噌 庸二(噌) 小鼓 住駒 匡彦(幸) 大鼓 大倉 三忠(大) 太鼓 桜井 均(春)
地頭 三川 泉

 桜の季節にぴったりの曲。正先に出した一畳台には桜木が二本立っている。実際の季節の運行に合った曲を観るのも、楽しいものである。前シテ、ツレの同吟は今ひとつ噛合わない。荘太郎師はカマエが大分腰高だと思う。シテは杉箒を下に下ろし、ツレは肩に担いでいるが、斜め横から見ると見事に平行に並んでいて、造形的な調和を感じる。ツレの縷水衣の緑が桜葉のそれを連想させる。
 アイは末社の神。ハコビ、カマエが不安定で腰がぶれる。面をかけているためか、声もくぐもり勝ち。鍛錬を期待したい。
 下り端で後ツレの木守、勝手明神が登場。天女ノ舞を相舞。謂わば露払いの役目の二人に続いて蔵王権現登場。赤頭、面は大飛出。三神は一体であることを示す直接的な所作があって、面白い。一畳台の上での飛返りがあり、豪快。満開の桜を脳裏に描きつつ楽しめば良い曲ながら、どこか咲き残した感もあり。地謡は手堅かった。

狂言 『瓜盗人』
シテ 三宅 右近
アド 前田 晃一

 瓜泥棒に手を焼いている畑主は、自らが案山子となって見張っていると、いつものように訪れた盗人は、それと気付かず案山子を罪人に見立て、地獄に追い落とすふりをして一人楽しむが、正体を現した畑主に追われる。舞台では初見の曲。
 脇座あたりに出した案山子の作り物、鬘桶に水衣を着せ、嘘吹(だと思われた)の面を乗せる。盗人は生活のためとは言いつつ、盗みそのものが楽しくなっているようで、人の業の深さをふと思う。畑主が自ら案山子に化けるが、見事に人の気配を消していて、感心。そうとは知らず戯れる盗人は、滑稽でありつつも、己の罪を案山子に肩代わりさせたいようにも見え、複雑な思い。実は重い主題が隠されている曲なのかもしれない。

能 『胡蝶』
シテ 小林 与志郎
ワキ 安田 登
アイ 高澤 祐介
笛 藤田 朝太郎(噌) 小鼓 住駒 幸英(幸) 大鼓 大倉 正之助(大) 太鼓 大江 照夫(春)
地頭 三川 淳雄

 中堅以上が勤めるのは稀な曲。能一番として玄人会に出る機会は少ない。
 正先に梅木の作り物。一気に季節が逆転する。
 幕内からの呼びかけ、可憐な胡蝶の精としては逞し過ぎる気がした。これ以降、半覚醒状態になり勝ちになってしまったが、下居姿は引き締まり、小面をかけているのも手伝って、可憐さが漂っていた。
 後シテ、緋大口、紫地花菱亀甲文様に胡蝶が配された長絹。蝶を取り付けた天冠はこの曲のみに使用するもの。舞には残念ながらあまり惹きつけられなかった。太鼓入り中ノ舞に、破ノ舞も加わる。結縁することで念願かなって梅花に戯れること叶った蝶は、静かに消えて行き、終曲。
 このように可憐で儚い存在を表現するのは、実は相当難しいのではなかろうか。
能 『大蛇』
シテ 佐野 萌
子方 前田 尚孝(代演 佐野 幹)
ツレ 野月 聡
ワキ 森 常好
ワキツレ 殿田 謙吉、森 常太郎、則久 英志、梅村 昌功
アイ 三宅 近成
笛 一噌 幸弘(噌) 小鼓 坂田 正博(大) 大鼓 柿原 弘和(高) 太鼓 徳田 宗久(観)
地頭 近藤 乾之助

 素盞嗚尊の八岐大蛇退治が主題。宝生、金剛、喜多流のみ現行曲。観世小次郎信光作。ワキ方の習い事。
 大小前に藁家の作り物が置かれる。透冠(?)のワキが素盞嗚尊。従者を従えて出雲にやって来るが、粗末な藁谷から何やら嘆く声が聞こえて来る。作り物の中から声だけが響いてくるのは怪しげで効果的。引き回しが外されると脚摩乳、手摩乳の夫婦に子方勤める櫛稲田姫が座っている。八岐大蛇に姫を捧げねばならない運命を嘆く脚摩乳に、素盞嗚尊は大蛇退治を約束し、その代わりに姫を所望する。
 中入してアイの末社の神登場。やはりカマエに問題ありで、言葉がくぐもり、耳に入ってこない。続いて正先に酒槽、脇座に一畳台が置かれ、輿に乗った態で櫛稲田姫登場。厚板、法被、半切姿のワキが続く。古事記では素盞嗚尊は櫛稲田姫を櫛に変え、自らのミズラに挿すが、本曲中では姫は酒の表面に姿を映す態で登場する。早笛で八岐大蛇登場。法被、半切、白頭に龍戴。面は竜神か。早笛、いつもよりも眺めに奏された。大小前でぐるぐる廻るような特徴的な型あり。大蛇は力尽き、尊が勝利して終曲。
 地は丁寧だが、あまりにも音量が不足していて、囃子が入るとほとんど言葉が聞き取れない。前列で観ていれば少しは状況が違ったのかもしれないが。後場は太鼓が加わり、それがバランスを欠いた音量で(無駄に力んでいるとしか思えなかった)、その傾向を加速させた。ただでさえ馴染みの薄い曲だけに、この状況は厳しかった。曲自体は、このような稀曲に有り勝ちな、そう何度も観たいと思わせるものではなかった。しかし、一見の価値あり。

 相変わらず携帯の着信音が鳴り響いた。ついうっかりが致命的になることを認識すべきである。

 今年の花粉症、例年になく咳が多いのが辛い。飛散が終るのは何時になるのか。


こぎつね丸