観能雑感
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銕仙会定期公演 宝生能楽堂 PM6:00〜
いろいろ不調。頭痛肩こりに胃痛、持病による痛みが加わる。何とか職場を早めに出ることができて、今回は開演前に到着。8〜9割程度の入り。中正面後列正面席寄りに着席。
能 『草紙洗小町』 シテ 鵜沢 久 ツレ 紀 貫之 鵜沢 郁雄 壬生忠岑 馬野 正基 河内躬恒 谷本 健吾 官女 浅見 滋一、長山 桂三 子方 小早川 康充 ワキ 宝生 欣哉 アイ 吉住 講 笛 一噌 庸二(噌) 小鼓 幸 清次郎(清) 大鼓 國川 純(高) 地頭 野村 四郎
珍しく老女でない小町を扱った曲。宮中での歌合せの相手が小町だと判った大伴黒主は、小町の歌を盗み聞きし、万葉集に書き入れる。歌合せ当日、黒主は紀貫之が読み上げたその歌を古歌であると申し立てる。突きつけられた草紙の墨跡が新しいことから、これは新たに書き入れられたものだと反論する小町。しかし、受け入れられず、退出しようとしたところ呼び止められれ、草紙を洗うと、その歌だけが消える。皆に嘘が露見したことを恥じ、黒主は自害しようとするが、小町に呼び止められ、帝から許しを得る。小町は勧められるまま舞を舞い、歌道の徳と御世を寿ぐ。時代の異なる歌人を集結させた宮廷絵巻。作者不詳。本日初見。 ワキの黒主が登場。年が明けてから欣哉師を初めて見る。立ち姿が端正なのは相変わらず。ただ立ってそこにいるだけで魅了されてしまう。水色の長絹に白大口、風折烏帽子。シテが橋掛りに登場、明朗で芯のある謡。小柄なためか、愛らしさが際立つ。面は若女。思慮深さと知性を感じさせる表情。ワキは常座で耳を傾ける態。若干橋掛り寄りの足に体重をかけて立っているだけなのだが、全身を耳にして聞き入っている、その緊張感がこちらにも伝わってくる。能の演技の奥深さを感じるのは、こんな時。ワキの姿には、絶対に小町を追い落としてやるという強い決意が漲っていて、不思議とそれが嫌悪感を伴わない。 後場、子方扮する帝を先頭に、歌合せに参加する面々が登場。シテは金の唐織の大壷折、緋の紋大口。こちらにも金の文様入り。貫之は狩衣、忠岑、躬恒は長絹、宮女はシテと同じく唐織壷折に緋大口。ワキは名前のとおり黒の狩衣。残念ながら、目付柱にワキの姿が完全に隠されてしまった。黒主の主張に反論する小町。その口調は感情的ではなく、あくまでも冷静。この後、疲労のせいか眠気が襲ってきて、しばらく茫漠とした時間が過ぎていった。一度は退けられるも、草紙を洗いたいという願いが聞き入れられる。シテはここで唐織を脱ぎ、白摺箔と大口姿に。紋大口にしたのはこのためかと納得。小柄なシテに上下とも賑やかな文様入りは少々煩いと感じていたので。ここでシテと地謡により洗い物尽しが歌われ、それにあわせてシテが舞う。問題が全て片付いた後、物着で紫長絹を付ける。これも下の緋大口と同じく春草文様入りで、やはり少々煩い組合せ。中ノ舞は報謝の舞のはずなのだが、不思議と憂愁に満ちていた。笛の音が余計にそう感じさせたのかもしれない。四方丸く収まって、めでたしめでたしで終曲。 宮女の一人、おそらく浅見滋一師の方だと思うのだが、下居姿が非常に気になった。首から下全体が傾き、立てた膝をもぞもぞ動かす。見苦しい。下居の辛さは容易に想像できるが、それを美しくこなしてこそのプロであろう。 庸二師は大分息が弱くなった様子。長く伸ばした音の最後が、若干下がってしまう。 シテは健闘したと思う。どこと言って綻びがあるわけではないが、もうひとつ訴求力に乏しい。良い能とは、本当に難しいものである。しかし、また観たいと思わせる役者である。 全体的に、やや消化不良な印象。
狂言 『鎌腹』 シテ 野村 万蔵 アド 野村 扇丞 小アド 小笠原 匡
万蔵襲名後の与十郎師を観るのは本日初めて。 冗漫さを感じてあまり好きになれない曲なのだが、万蔵師が醸し出した、普段気弱な男が勢いだけで口がすべり、それによって招いた事態の収拾を何とか計ろうとしている、何もかもダメな感じが曲趣と合っていて、これまで観た中では一番面白かった。留めもほのぼのした空気が漂い、すっきりと終曲。
能 『小鍛冶』黒頭 シテ 浅見 真州 ワキ 森 常好 アイ 山下 浩一郎 笛 一噌 幸弘(噌) 小鼓 鵜沢 洋太郎(大) 大鼓 柿原 弘和(高) 太鼓 観世 元伯(観) 地頭 若松 健史
日曜日は白頭だったが、本日は黒頭である。 道成と宗近の問答の最中に、携帯電話の着信音が鳴り響く。迷惑。 幕内からの呼び掛けは重々しい。白の雲文様入り縫箔に、絽の紅水衣。喝食鬘に喝食の面。日曜日の前シテが十代後半だとしたら、こちらは二十台半ばくらいか。手に稲穂を持つ。体の使い方は見事の一言だが、あまりに端正で神性の内に潜む獣性には欠けた印象。シテは囃子事なしで中入。ワキは中入せず。アイは宗近の下人。 後シテは一端揚幕前に立ち、再び幕入りし、早笛で登場。一ノ松あたりで欄干に片足をかける。白地に黒と金の鋭角的な模様を配した半切、白の厚板。黒頭に白い刺し毛が一際映える。面は牙飛出とのこと。狐戴はやっぱり可愛い。重量感を保ちつつ、颯爽とした動きはさすが。この小書に相応しい。雲に飛び乗る様子も軽やかに、体重を感じさせなかった。 洗練された身体技術を持つこの方ならではの、重厚かつ清々しい印象を残して終曲。 早笛、舞働は幸弘師の本領発揮といった感じ。 アイは宗近の下人であると思っていたため、日曜日は末社の神でちょっと驚いた。狂言方は同じ和泉流なので、シテ方の流儀の違いによるものなのであろう。同じ曲でも様々な形態があり、こんなところも能の面白さのひとつである。
こぎつね丸
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