観能雑感

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観能雑感
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2005年03月13日(日)

宝生会　月並能

宝生会　月並能　宝生能楽堂　PM1：00～

　近藤乾之助師のシテが観られるということで、当然チケット入手。
　とにかく心身ともに疲労が溜まっており、コリからくる偏頭痛が酷い。
　見所は8割程度の入り。中正面前列に着席。目付柱によって笛方の姿が完全に隠される。哀しい。
　隣の方は勢いよく足を組み替えたり、前に投げ出したりを繰り返し、その振動が全部こちらに伝わってくる。そしてなぜか番組や袖本をポケットから出したり入れたりを繰り返し、そのたびにガサガサと音が鳴り響く。舞が始まると正面席の空席へ移動。そしてまた戻ってくる。ここまで周囲への配慮なしに振舞えるのはなんだかすごい。真似したいとは全く思わないが。

　時間が経過してからの記述であり、また気力減退のため、ごく簡単に。

能　『西王母』
シテ　今井　泰行
子方　今井　花
ワキ　野口　敦弘
ワキツレ　野口　能弘、野口　琢弘
アイ　住吉　講
笛　松田　弘之（森）　小鼓　幸　正昭（清）　大鼓　上條　芳暉（葛）　太鼓　助川　治（観）
地頭　髙橋　章

　狂言口開で開始。続く真之来序でワキ方が登場。この真ノ来序を聴くだけでも来た甲斐があったと思える笛の素晴らしさ。
　一声でシテ登場。唐織着流しで面は増。観世流ではツレを伴うのだが、宝生流ではシテのみであった。上歌終了後、ワキとの問答になるがここで立て続けに絶句。興冷めてしまうのは否めない。全体的に力強さに欠け、本性が女仙の最高位に位置する西王母だとは思えず。能の演技において、内側から発する力の重要さを改めて思う。
　子方を先頭に、下り端で後シテ登場。黒垂に天冠、緋大口に長絹。飾り太刀が凛々しくも華やか。子方は王母の侍女で、観世流では前場と同じくツレが勤める。緊張しつつも今自分がやるべきことを正しく行うのだ、という意志が感じられて健気。中ノ舞、華やぎがなく、どこか恐る恐るな感じ。
　曲趣とは反対に、侘しい気持ちになってしまった。

狂言　『柑子』
シテ　野村　万蔵
アド　野村　萬

　逆の配役で観たことあり。短いけれど、それだけに面白く見せるには熟練が必要なのだと感じる。あっさりと終了。

能　『小塩』
シテ　近藤　乾之助　（佐野　萌代演）
ワキ　工藤　和哉
アイ　小笠原　匡
笛　藤田　大五郎（噌）　小鼓　幸　清次郎（清）　大鼓　佃　良勝（高）　太鼓　観世　元伯（観）
地頭　寺井　良雄

　ロビーの張り紙で乾之助師の休演を知る。起こりうる事態であると想定してはいたものの、やはり残念。1月に続いて佐野萌師のシテで観ることに。奇しくも大鼓、小鼓は1月と同じ。
　舞台と距離が近いせいか、謡が聞き取れ有難い。次第を謡う時の訳ありな様子が良いと思いつつ、体調の悪さからか前場はウトウトとして過してしまった。残念。
　後場は宝生流では通常出さない車の作り物が常座に置かれた。装束の配色は1月の時と同系色だったような気がしたが、うろ覚え。シテ謡も地もしみじみとした情感があり、宝生流ならではの良さを味わう。序ノ舞、若者ではなく、それなりに年を経た男の郷愁だけではない複雑な想いを感じながら観た。当時の40代というのは老の始まりと言っていいだろうし、業平という人物が背負ったさまざまな重み、というものをあれこれ考えながら観た。大五郎師の笛、やや苦しそうで音量も少なめ、ところどころ不安定ではあるが、この美しさはどうであろう。舞の終わり辺りで、我知らず目頭が熱くなった。
　春の夜の夢物語であるという余韻を残して終曲。今回の方が格段に良い出来。地謡はこの人員では大健闘だと思われる。
　改めて、大五郎師の凄さを思う。自分ごときでは語り尽くせないが、このご高齢で文字通り演奏活動の第一線に立ち続けておられるのは、世界的に見ても正に偉業である。それも体力的な負担の大きい管楽器で。ヒシギも見事に鳴った。この姿、音に触れられる幸せに感謝したい。

能　『草薙』
シテ　渡邊　荀之助
シテツレ　渡邊　茂人
ワキ　安田　登
アイ　野村　扇丞
笛　寺井　久八郎（森）　小鼓　曽和　正博（幸）　大鼓　柿原　光博（高）　太鼓　三島　卓（春）
地頭　三川　淳雄

　あまり印象に残らず。宝生流固有の曲だが、すでに観たことがあり、またそうそう何度も観たいと思わせる曲でもないように思う。演者によってはそれなりに魅せることも可能なのかもしれないが。
後シテの面は神体だろうか。

　本日の番組、それぞれ桃、桜、橘が登場。移ろっていく春を感じさせる植物とその登場順序で、良い趣向。

こぎつね丸