観能雑感

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観能雑感
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2004年11月28日(日)

宝生会秋の別会　第2日

宝生会秋の別会　第2日　宝生能楽堂　PM12:00～

　豪華出演者と内容で当然観に行く。ほぼ満席状態。中正面後列正面席寄りに着席。
　諸事情で時間が経過してからの記述。ごく簡単に。

能『俊寛』
シテ　今井　泰男
シテツレ　今井　泰行、大友　順
ワキ　森　常好
アイ　山本　則孝
笛　藤田　大五郎（噌）　小鼓　観世　豊純（観）　大鼓　内田　輝幸（葛）
地頭　近藤　乾之助

　現役最高齢のシテ方だが、その事実を知らなければ80歳を越えているとは思えないしっかりとした足取り。出はそれほど零落した雰囲気は漂わせず、むしろ淡々としていた。地謡が秀逸で本日最高の出来。水を酒に見立てて三人で酌み交わし、ささやかな宴を張っている場面では、言葉のひとつひとつに無限のイメージが喚起された。正中に下居し、顔を上げ目付け柱方向に視線を遣る姿に、俊寛はこのとき都の季節の移ろいをまざまざと脳裏に描いていたのだと確信する。ほんの一時、幻想の中に満ち足りた空気が流れた。
　赦免使の到着後、自分が大赦から外されていることを知った俊寛を襲ったのはまず怒りであり、それは絶望に変わり、ついには自失へと陥っていく。舟に追いすがるところは必死の嘆願ではなく、弱々しさが先に立つ。自分の置かれた状況を把握しきれていないような、感覚を遮蔽したような姿だった。真の恐怖はこの後襲ってくるのだろう。
　切迫した状況に置かれた人間の心理劇をあっさりと描いていて、こういう表現もありえるのだと思った。

狂言『入間川』（大蔵流）
シテ　山本　東次郎
アド　山本則重、山本　則直

　都での訴訟を終えた東国の大名が入間川で土地の豪族と「入間様」（反対言葉）のやり取りを楽しむ。興に乗り持ち物を全て与えるが、最後に取り返して去って行く。
　旅の途中の様々な景色を織り込むのだが、富士山が見えるあたりではまさにその雄大な姿を目にしているような感覚に襲われる。演者の力。
　川を前に、深いから別の瀬を渡るように言われても、入間様だからとかまわず入り、溺れかける大名の姿が可笑しい。則直師の入間某の後姿が雄弁に心理状況を語っていて、それを見ているだけでも面白い。着物や太刀を与えた後、最後に入間様ではない言葉で本心を語れと命じ、某がその通りにするや入間様を適用し、すべてを取り返して去って行く大名。言葉遊びくらいではこのような褒美を与える訳には行かないということだろうか。世間の風はかくも冷たいのであった。

仕舞
『松風』　　影山　三池子
『山姥』キリ　　前田　親子

能『遊行柳』
シテ　髙橋　章
ワキ　宝生　閑
ワキツレ　大日方　寛、御厨　誠吾
アイ　遠藤　博義
笛　一噌　幸弘（噌）　小鼓　北村　治（大）　大鼓　柿原　崇志（高）　太鼓　大江　輝夫（春）
地頭　三川　泉

　柳の老木の精が遊行上人の前に現れ、非情の草木も成仏できる念仏の巧力を称え、報謝の舞を舞い、消えてゆく。観世小次郎信光の晩年の作。世阿弥の『西行桜』をモチーフにしたと言われている。
　幕内からの呼掛けはこの方らしく周到。しかしその後どうも舞台そのものから気がそれ、自分の思考の沼に沈みがちになる。どうしたことか。ひとつにこの作品自体に力がないことが上げられる。全体としてとってつけた感が否めず、柳の老木の精という趣は感じれども、それが登場する必然性が薄いところが求心力を削ぐ一因にもなっているように思う。前シテの面は三光尉。
　後シテは茶の狩衣に緑の大口で、柳の精であることを体現した色合せ。面は宝生流独特の舞尉。クセは中国の故事、清水寺縁起、源氏物語へと、柳という言葉が連想させるものを次々と連ねて行く。面白くはあるが、散漫な印象はぬぐえない。舞は言うまでもなく美しいが、それ以上のものではなかった。そのままあっさりと終了。未消化な思いが残る。
　深い情趣を描き出すには今一歩だったのは、幸弘師の笛の音が情感を訴えかけるには淡白だったからか。

仕舞
『鳥追』　　寺井　良雄
『松虫』　　佐野　萌

能『七人猩々』
シテ　宝生　英照
シテツレ　金森　秀祥、山内　崇生、水上　優、澤田　宏司、辰巳　孝弥、渡邊　茂人
ワキ　宝生　欣哉
笛　一噌　庸二（噌）　小鼓　観世　新九郎（観）　大鼓　安福　光雄（高）　太鼓　金春　國和（春）
地頭　佐野　萌

　文字通り猩々が７人登場。この曲でワキが持つ扇はいつ見ても心惹かれる。
　正先に酒壷の作り物と一畳台が置かれる。壷は少々形が歪んでいた。
　橋掛かりに赤い装束を付けた猩々が勢揃いすると壮観。中に1名だけ扇を開いて持っていて、後にシテであると判明するのだが、そもそもそういう型なのだろうか。疑問。本舞台にシテとツレ2名。橋掛かりに4名。乱の部分はシテのみが舞う。波に戯れるという軽やかさや祝言味をあまり感じることなく終了。残念。

　この『七人猩々』が実際に舞台で観る200番目の能（素人会を除く）。奇しくも100番目も『猩々乱』であった。お祝いしてもらっているようで、やはり嬉しいものである。こうなったら300番目も「和合之舞」や「双之舞」の小書が付いた『猩々』と行きたいところ。

付記：後に『猩々』では乱を舞う場合、扇を開いたまま登場することを知る。さらにしばらくして、某日記に拙文の猩々についてコメントされているのを目にしたが、要は自分の知っていることを伝えたかったが「書き込みもメールも受け付けない日記だったので放っておいた」とのこと。自分の日記なので好きなようにするまでである。放っておいていただきましょう（笑）。

こぎつね丸