観能雑感
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2004年12月10日(金) 銕仙会定期公演

銕仙会定期公演 宝生能楽堂 PM6:00〜

 何かと慌しい上に元々少ない体力で生きているので、金曜日ともなると疲れたのを通り越して気持ちが悪い。観賞に適した状態とは程遠いが、今日此処に来られる事自体諦めかけていたので、ただ座しているつもりで席に着く。中正面最後列脇正面寄り。

能『巻絹』出端之伝 神楽留
シテ 鵜沢 久
シテツレ 谷本 健吾
ワキ 村瀬 純
アイ 吉住 講
笛 一噌 庸二(噌) 小鼓 幸 正昭(清) 大鼓 亀井 忠雄(葛) 太鼓 助川 治(観)
地頭 浅見 真州

 危惧したとおり開始直後に睡魔に襲われ半覚醒状態に。シテの登場あたりで何とか持ち直すも、疲労には逆らえず、ぼんやりと観る。シテ、鳥の子色に金糸で草花が織り込まれた長絹、正面が箔で横が水色地に花文様の縫箔腰巻が僅かに覗き、爽やかな配色が早春を感じさせる。面は増女。神がかった巫女という強さと神威を感じさせる登場。しかしその後が意外に平板。構えは美しいがハコビはつま先の上げが少ないせいかべったりとした印象。神楽は段が進むにつれて高まる恍惚感に乏しく、盛り上がりに欠けた。曲の印象は笛に寄るところが大きいと改めて感じる。正中に立った時のシテがほんの一瞬、まぶしいくらいの神々しさに包まれた。手にした枝を捨てる所作は橋掛かりで。憑依が解けたのがはっきり解る。
 地謡、荒さとバラつきが目立つ。
 期待していたが、今一歩。しかし次も観てみたいと思わせる役者であることは確か。

狂言『福の神』
シテ 野村 萬
アド 野村 万禄
小アド 野村 扇丞

 万禄師、扇丞師は良い点よりも悪いところが目に付いてしまう。萬師は声がかすれ気味。肩が前に落ちて、構えにますます力がなくなっている。何よりも、どうしてもこの曲に祝言性よりは不気味さを感じてしまい、どうにも好きになれないのであった。

能 『大会』
シテ 岡田 麗史
ツレ 馬野 正基
ワキ 森 常好
アイ 野村 与十郎、野村 扇丞、野村 祐丞、野村 万禄
笛 藤田 次郎(噌) 小鼓 森澤 勇司(清) 大鼓 佃 良勝(高) 太鼓 小寺 佐七(観)
地頭 浅井 文義

 もともとあった吐き気に偏頭痛が加わり、正に座っているだけの状態。
 前シテは黒頭に兜巾、面は怪士。山伏の出立だがあからさまに怪しい。間狂言は木葉天狗が4人出る銕仙会独自の演出。狂言方の物着をシテ方が手伝う珍しい場面が見られた。大小前に一畳大を前後二つ並べ、椅子を置く。枠組みに布が巻かれて先ごろ観た宝生流のものよりずっと華やか。天狗達は椅子を取りか囲むように控えて後シテの登場まで舞台に残る。シテの面は釈迦。下に大癋見をかけるため、顔全体を覆いつくす大振りなもの。面というよりはマスクと言った方が近い。意図的なものか、金色の塗装が安っぽく、いかにも贋物的。早笛で帝釈天が登場。舞働は橋掛かりまで使うが、シテよりもツレの方が小柄なためか、いま一歩迫力に欠ける。法力には勝てず、天狗はよろよろと退散する。
 見た目は派手だが、この曲の持つ哀愁は宝生流の方が出ていたように感じた。

 本年度最後の定例会、先代銕之亟師が他界して数年経つが、銕仙会の会としての方向性がますます曖昧になってきたように感じる。異なる背景を持つ役者が揃った多様性を維持しつつ、共通した色を維持する事の難しさを思う。観客として、その行く末を見続けていきたい。


こぎつね丸