観能雑感

アクセス解析

body{margin:0;}.NIN{padding: 0;margin: 0;position: absolute;width:100%;height:100%;background-color:black;color:white;}

観能雑感
INDEX｜past｜will

2004年09月26日(日)

宝生会　秋の別会能　第1日

宝生会　秋の別会能　第1日　　宝生能楽堂　PM12:00～

　変わった番組構成は別会ならでは。見所の入りは別会にしては少々寂しい。中正面最後列脇正面寄りに着席。
　諸事情により、簡単な記述に留める。

能　『張良』
シテ　近藤　乾之助
シテツレ　辰巳　満次郎
ワキ　宝生　欣哉
アイ　小笠原　匡
笛　藤田　大五郎（噌）　小鼓　住駒　幸英（幸）　大鼓　亀井　実（葛）　太鼓　金春　惣右衛門（春）
地頭　今井　泰男

　劉邦の軍師である張良が黄石公から兵法の奥義を伝授される場面を描いた作品。二昔前に某週刊少年漫画紙上で読んだものが、今でも妙に印象に残っている。シテの動きは少なく、脇方の重習い。
　前場、シテは揚幕前に姿を表すのみ。脇座にいるワキと距離を隔てて向かい合い、緊迫した空気が流れる。ごく短い時間で役柄の存在感を表すのはさすが。
　後場は大小前に一畳大を置く。一声で鉢巻も凛々しく颯爽と登場したワキに続き、大ベシでシテ登場。笛と太鼓が一際光り、これまで聴いた中で最も重厚かつわくわくさせるような力に満ちていた。一畳台のシテにワキが寄り添い、後見がその間から沓を投げる。脇正面ギリギリ、目付け柱から約30cmのあたりに落下。見事。ワキは川の流れに揉まれつつ、この沓を取りに行く様子を見せるのだが、身体を反らして回転する姿は部分的にモダンバレエであった。欣哉師、身体の軸がぶれず、切れのある動きを見せる。間髪入れずシテツレである龍が登場。ただでさえ大柄の満次郎師が龍戴を付けているので、小柄な欣哉師とますます身長差が顕著となる。悪役感が程よく漂い、ワキを応援する気持ちが高まるのであった。龍は菩薩である事が明らかになり、張良を守護することを誓い、退場。大団円を迎える。ワキツレ、橋掛かりを退場していく際、ドスドスと足音がしたが、これはどうなのだろう。
　場面転換が鮮やかで、よくまとまった面白い曲だった。
　大五郎師、本日はヒシギの音も冴えて、体調が良い様子。ただ感嘆するのみ。

狂言　『舟渡聟』（和泉流）
シテ　野村　萬
アド　野村　扇丞、野村祐丞

　面白い曲のはずなのだが、ちっとも楽しめない。萬師が熱演すればするほど、空回りしていくような印象。何故かとずっと考えながら見ていたが、原因は扇丞師にあった。上手くは表現できないのだけれど、役を演じている扇丞師本人という姿しか浮かび上がってこないのである。演じている本人と役とが乖離してしまっていて、見る側としては何とも落ち着かない気分にさせられる。まさに船頭になっている萬師と馴染まないのは当然かもしれない。一生懸命なのは見て取れる。しかし、プロなのだからそれだけではだめなのだ。

仕舞
『生田敦盛』　　後藤　裕子
『富士太鼓』　　内田　芳子
『三井寺』道行　　細野　ひろみ

能　『江口』
シテ　小倉　敏克
ツレ　波吉　雅之、小倉　健太郎
ワキ　工藤　和哉
ワキツレ　大日方　寛、則久　英志
アイ　野村　与十郎
笛　一噌　仙幸（噌）　小鼓　鵜澤　速雄（大）　大鼓　亀井　忠雄（葛）
地頭　三川　泉

　たおやかで神秘的な様子のシテ。脇正面寄りで観ていたので、登場後ほとんど後姿を見ている状態。初めて面（節木増）が正面から目に入った時、その無垢と諦観が同居した表情に魅せられてしまった。
　舟の作り物はシテ柱斜め前に出される。地頭三川泉師、副地髙橋章師という豪華な布陣で地謡がクセを謡い始める。繊細な息遣いと美しい詞章を供に味わった。続く序ノ舞、充実した囃子に乗せて舞うシテの姿に、浄土とは、何もかも諦めたときにこそ辿り着けるのかもしれないと、ぼんやり考える。遊女という世の汚濁に身を浸さざるをえない境遇にあり、無常を嘆き常世を求め、それすら諦めたときに初めて、浄土へ至る道が開けるのかもしれない。たとえ求めるものが救いであったとしても、それは執心を持つことである。救いさえ諦めたその時に、やっと安穏を得られるのだろう。
　劇的にではなく、ふと気付いたら普賢菩薩となって、江口の遊女は静かに昇天していった。

　非常に残念だったのは、無神経な途中入場が多かったこと。素晴らしいクセの謡い出しうっとりとするのも束の間、ドアを開ける音も高く、係員が先導して観客を案内してきたのを見て愕然とする。序ノ舞開始直後にも同じく係員の案内でかなりの人数がざわめきつつ途中入場。外にモニターがあるのだから、係員は途中入場のタイミングをコントロールするべきである。そもそも途中入場自体、規制されてしかるべきものなのではないか。

仕舞
『清経』キリ　　三川　淳雄
『鵜之段』　　三川　泉

能　『夜討曽我』
シテ　宝生　和英
十郎　佐野　登、　団三郎　武田　孝史、　鬼王　佐野　由於、　古屋　野月　聡、五郎丸　小倉　伸二郎、立衆　東川　尚史、亀井　雄二、高橋　憲正、和久　荘太郎
アイ　吉住　講
笛　中谷　明（森）　小鼓　亀井　俊一（幸）　大鼓　上條　芳暉（葛）
地頭　佐野　萌

　曽我兄弟が仇討を果たす前後を描いた現在能。今回初見。シテは曽我五郎。
　前場は富士の裾野の狩場に潜入した兄弟が腹心の家臣を説き伏せ、母の下へ形見を運ばせる様子が中心。緊迫した場面だが、とくに共感できるわけでもないので、なんとなく観ている。和英師、いろいろ未熟なのだろうが、気合というか、意気込みだけは感じるのであった。それはとても大切なことだと思う。精進してもらいたい。
　間狂言は和泉流で小書が付かないので、鎌倉殿の家来という設定。大藤内ではない。
　後場では既に兄の十郎は討たれており、五郎が鎌倉方の武士と奮戦する様が描かれる。橋掛かりに並んだ立衆、小倉伸二郎師の鉢巻がややずり下がって目に被さっているのが少々気になる。見目良い方が女装する（女物の着物を被くだけなのだが）設定なのは、何とはなしに嬉しいのであった。結局五郎はこの女装した御所五郎丸に捕まり、鎌倉へ引き立てられて行く。詞章はめでたいとしているが、五郎からしたらめでたいどころの話ではないのではないかと思う。

　2日連続の観能は疲れる。自分には不向きだと思う。それにしても、見所の空気の弛緩具合には寂寥感を抱いてしまった。

こぎつね丸