観能雑感

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観能雑感
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2004年04月11日(日)

宝生会月並能

宝生会月並能　宝生能楽堂　PM1:00～

　4月は観世会別会だけに止めようかと思っていたのだが、今年に入ってからまだ松田師の笛を聴いていないという事実に耐え切れなくて、結局チケット購入。先月の粟谷能の会に行けなかったのは返す返すも残念。
　公演日の2週間くらいに申込んだのでチケットは当日受付で受け取ることに。名前と予約していた旨告げるが予想通り鈍い反応。リストが目に入ったので自分でこれですと指差すと「ああ、メールの方ね」との応え。なんとなく見下したような口調。招待客や素人弟子の方々が大事というのは解るけれど、本当に普及を考えているのだったらこういう場合の応対も大切なのではないか。あまり能楽堂に足を運んだことのない人ならば、より一層印象が悪くなると思うのだが。
　中正面最後列脇正面寄りに着席。視界良好。

能　『右近』
シテ　三川　淳雄
シテツレ　亀井　勇二、澤田　宏司
ワキ　高井　松男
アイ　山本　則孝
笛　松田　弘之（森）　森澤　勇司（清）　大鼓　大倉　正之助（大）　太皷　三島　卓（春）
地頭　三川　泉

　女性がシテの脇能という珍しい曲。世阿弥作だが信光の手が入っているらしい。華やかで春らしい楽しい曲なのだけれど、宝生流以外に現行曲にしている観世流、金剛流ではほとんど出ない。かつてはとっつき難いと感じていた宝生流の魅力に開眼した思い入れのある、好きな曲。
　お調べが聞こえてくると、これこれ、この音が聴きたかったのだと嬉しくなる。
　車の作り物が出され、シテ一行が登場。侍女を従えた上臈の花見の態で舞台が一気に華やぐ。業平の歌を引き、男女の微妙な駆け引きを匂わせつつ、実は桜場の神だと正体を告げる流れが面白い。
　後シテ、緋大口に長絹、天冠黒垂の女神の扮装が好きなので、それだけでも嬉しいのだが、高貴な佇まいがその喜びを更に増す。太皷入中ノ舞、以前佐野萌師のシテで観た時は可憐に舞い戯れるような印象だったが、淳雄師は美しくも威厳を放ち、ちょっと近寄りがたいような雰囲気を漂わせていた。笛は相変わらず魂のこもった演奏。三段目の「ヤーリヤーリヒウイヤラーリ」の最初の「ヤー」が私の手元にある森田流の譜より半拍分長い。
　地頭三川泉師、副地髙橋章師と豪華な地謡、しっとりと優美な世界を構築し、一夜限りの春の夜の夢を漂うことができた。

　開演して大分経過してから明らかに未就学児童のお孫さん二人を連れたご婦人が、同じ列の空席に着席。自分が座っている場所からはやや離れていたが、入ってきたときから袋をガサガサさせる音が尋常ではないくらい耳障りで、何をやっているのかとつい目をやると、巨大なお絵かき帳とクレヨンを出して弟の方に渡していたり、おにぎりとお茶を与えていたりと唖然とする光景が飛び込んで来る。見所は豪華BGM付き託児所なのか？本人も盛大に音を立てて紙袋を床に敷き靴を脱ぎ始めた。子供に公共の場でのマナーを教えるのは大人の役目だと思うが、その大人がこれではどうにもならない。舞台もろくろく目に入らない様子。それならば尚のことロビーにいるべきなのではないか。途中入場してきてさらにこの態度ではたまったものではない。否応なく気を散らされて無念。

狂言　『茶壷』（大蔵流）
シテ　山本　東次郎
アド　山本　則直、山本　則秀

　主人のために茶を買付けに行った帰り、飲みすぎて道端で眠りこけてしまう田舎者に則直師。この男にこっそり近づいて行く時の東次郎師、ちょうど柱に隠れて手だけしか見えない状態だったがその手の様子が実に整っていて、様式を身に付けた肉体は、たとえその一部だけしか見えなくとも斯様に美しいものかと思う。
　結局どちらも自分の茶壷だと言い張り目代の仲裁を頼む。すっぱが田舎者の説明をこっそり盗み聞きしている様子が可笑しくて、つい笑ってしまう。最後、二人同時に舞う時は、すっぱが遅れることでズレが生じるのだが、高速の動きをしつつ微妙にずれていて感心すると共に可笑しい。楽しかった。

能　『桜川』
シテ　小林　与志郎
子方　近藤　颯一郎
ワキ　宝生　閑
ワキツレ　則久　英志　御厨　誠吾（番組に記載なし）
笛　寺井　久八郎（森）　北村　治（大）　亀井　忠雄（葛）
地頭　今井　義男

　ワキツレの二名は記憶が曖昧で違うかもしれない。メモを残しておけばよかったと後悔。
　シテの謡が若干無骨な感じがするも、舞台は滞りなく進行。地頭今井師、副地近藤乾之助師の地謡がとにかく心地よく、半覚醒状態の内に舞台終了。子方はひたすら座り続け、最後に立ち上がるだけという辛い役所だが、立派に勤めていた。
　以前観世流で見た際は脇方が福王流で、ワキツレに茶屋が含まれていたが、今回の下懸り宝生流は僧のみ。詞章から判断すると他に里人が介在した痕跡があるが、矛盾を内包しつつもすっきり纏まっていて良いのではと思う。
　笛の最後のヒシギが中途半端なのは相変わらず。

能　『国栖』
シテ　寺井　良雄
子方　前田　尚孝
シテツレ　和久　荘太郎、辰巳　孝弥
ワキ　森　常好
ワキツレ　森　常太郎、梅村　昌功（番組に記載なし）
アイ　山本　泰太郎、山本　則重
笛　一噌　幸弘（噌）　小鼓　幸　正昭（清）　大鼓　上條　芳暉（葛）　太皷　小寺　佐七（観）
地頭　佐野　萌

　ワキツレはやはり記憶が曖昧。
　子方扮する清見原天皇が舟の中に隠れる際、これまで見たものでは完全に舟を覆いかぶせるやり方だったが、今日はワキ柱を利用して斜めに立てかけ、その陰に身を置いていた。子方さんが大きかったからだろうか。
　追手と対峙した時の尉のとぼけ振りが秀逸。これ以上狼藉を働くと一族を呼び寄せるぞとあたりを見回した時は、ここが深山なのだと俄に実感した。
　後シテツレの天女、若々しく清々しい舞振り。蔵王権現は威厳に満ち、格好良かった。
　幸弘師、笛を二管持っていたようだったけれど、何故？

　本日の三番は桜つながり。初番と二番目は直接桜と関係しており三番目の舞台は吉野。言わずと知れた桜の名所である。そして初番と二番は茨城つながり。初番のワキは鹿島の神職で桜川は茨城県に実在する川。見事。

　一日を通していろいろな場所で袋をガザガサさせる音が耳についた。不快感を通り越して空しくなってしまった。

こぎつね丸