観能雑感
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2003年05月21日(水) 私的本棚 ―能楽関係書籍一覧―

私的本棚 ―能楽関係書籍一覧―

いつかやらねばと思っていたがつい延び延びに…。蟄居状態の今だからこそ出来る事もあろうかと発起。順序は曖昧ながらもほぼ購入順。雑誌等は別途記載。随時追加予定。


1. 『能楽手帳』 権藤芳一 駸々堂 1979年11月15日 初版 1993年4月25日 12刷 1300円
今から9年前、「能とは何ぞや?」と思ったときにまず購入したのがこの本。曲のあらすじだけでなく、みどころ、代表的な扮装、季節、各流儀の小書等が見開きで掲載されている。巻末に用語解説付き。掲載130曲の中に金剛流のみの「雪」が含まれているのは京都在住の筆者ならでは。最初に手に取った本がこれで良かったと思う。

2. 『能のデザイン』 増田庄造 平凡社カラー新書 1976年12月8日 初版 1993年7月26日第6刷 850円
コンパクトながらカラー写真が豊富。タイトル通り装束、面に焦点が当てられている。欄外に代表的な出立のイラストがあり便利。

3. 『林望が能を読む』 林望 集英社文庫 1996年 第1刷 680円
書誌学者であり自身も謡の稽古をしていた筆者による曲の印象を述べたものと言ったらよいだろうか。日本古典文学の専門家ならではの豊富な知識による裏付けがあり面白いが、自説すべてに賛成できるわけではない。扱っている曲はかなり広範。

4. 『花伝書(風姿花伝)』 川瀬一馬注 講談社文庫 1972年3月15日 第1刷 1992年12月4日 第29刷 380円
購入したのは随分前だが部分的に目を通すのみで、完読したのは比較的最近。父観阿弥の理論に世阿弥の解釈を加えた伝書的性格のもの。能楽に興味を持つ者なら一度は読んでおくのが理想的。

5. 『お能の見方』 白洲正子 吉越立雄 新潮社 とんぼの本 1993年7月20日 発行 1994年3月5日 4刷 1400円
コンパクトながらカラー写真が豊富。幼少期から能に慣れ親しんだ筆者ならではの、肩肘張らない文章がいい。当時は個々の能楽師の事などまったく知らなかったが、最も印象に残っていた写真が観世寿夫師であることを後に知り、感慨深いものがあった。

6. 『能は生きている』 林望 集英社文庫 1997年12月20日 第1刷 620円
『林望が能を読む』より収録作品が少なく、曲のなかの一点に焦点を当てて自説を述べる。全てに賛同できるわけではないが、示唆に富む。

7. 『ようこそ能の世界へ 観世銕之亟能がたり』 暮しの手帖社 2000年7月25日 2400円
「暮しの手帖」の連載分に加筆しての単行本化。銕之亟師本人は完成を見る事無く他界したらしい。装丁が美しい。舞台での様子だけでなく、装束、面の写真も多い。平易な語り口で能に対する著者の想いが綴られている。兄である寿夫師の事を語った部分は、短いながらも印象的。

8. 『世阿弥の能』 堂本正樹 新潮選書 1997年7月25日 発行 1000円
劇作家としての世阿弥を読み解く1冊。創作当時の世阿弥の境遇と作風に関係を見出そうという試みであるが、牽強付会に過ぎると感じられる面も多い。あたかもフロイトのごとく全てを性的に解釈しようとするのは無理がある。

9. 『観世寿夫 世阿弥を読む』 観世寿夫著 荻原達子編 平凡社 2001年10月17日 初版第1刷 1300円
既に発売されている全集から世阿弥に関する文章を抜粋。書店で偶然見かけて購入したのだが、その筆力に圧倒されて休み時間も利用して読みふけった。ちょうど能に対して新たに興味が湧いてきたところであり、この本によりさらに助長された。多忙な筆者がこれだけの文筆作品を残していた事に驚嘆。能に興味がある人だけでなく、若い能楽師にも読んでもらいたいと思う1冊。現在、これだけ熱く冷徹に能を思う能楽師がどれほどいるのだろうか。

10. 『女性芸能の源流―傀儡子・曲舞・白拍子』 脇田 晴子 角川選書 2001年10月31日 1200円
能に取り入れられた先行芸能についての一冊。能を観る上で新たな視点を与えられた。掲載されている能の写真はほとんど著者自ら演じたものだそうだが、つい算盤勘定したくなる私は下世話な貧乏人である。

11. 『華の碑文 世阿弥元清』 杉本苑子 中公文庫 1977年8月10日 初版 1998年6月15日 17版 743円
弟の目を通して見た世阿弥の一生。時流に翻弄されながらも能を追求し続ける姿が優美かつ力強い筆致で描かれる。美化されがち(と思っているのは私だけか?)な稚児趣味が持つ性的虐待という側面を容赦なく描写している点に注目。特に印象に残っている場面は将軍義教に冷遇されている世阿弥がかの人から厚遇されている音阿弥に向かって語るところ。人としては実子が可愛いが、後継者としては不満。おまえ(音阿弥)は人間としては嫌いだが後継者としては適任…というような内容だったと思う。芸とその継承に対する冷徹なまでの強い意思が淡々と表現されており、戦慄を覚えた。

12. 『能楽ハンドブック 改訂版』 戸井田道三監修 小林保治編 三省堂 1993年6月10日 初版第1刷 1500円
能についてほとんど全てを網羅していると言っていい一冊。全体的な把握はこれ一冊で事足りる。現行曲全てのあらすじが記載されている点が特に秀逸。便利。

13. 『宝生流謡の辞典』 宝生宗家閲 佐藤芳彦著 わんや書店 1967年6月10日 初版 1999年8月1日 14版 1200円
何故か所有。謡についての参考資料として購入したのだが、完読したのは購入時より大分経ってから。コンパクトに良くまとまっていると思う。

14. 『日本文学コレクション 謡曲選』 松田 存 他編 翰林書房 1997年6月1日 第1刷 2000円
詞章を読みたいと思い購入。26曲収録。持ち運びできる大きさなので便利。

15. 『心より心に伝ふる花』 観世寿夫 白水Uブックス 1991年7月20日 第1刷 1996年9月10日 第3刷 980円
 ほとんど『観世寿夫 世阿弥を読む』に収録されている文章だが、若干例外あり。巻末の夫人によるあとがきは著者が他界して間もない内に書かれたためか、闘病の様子が臨場感を持って迫って来る。病院のベットで自ら松風を勤めている写真を見て、一筋涙を流したというくだりは胸を突いた。

16. 『お能 老木の花』 白洲正子 講談社文芸文庫 第1刷 2001年8月2日 第12刷 1050円
著者のデビュー作である「お能」の他、二世梅若実に取材した「梅若実聞書」、友枝喜久夫についての「老木の花」と盛りだくさん。能における型が大切だという主張は多いに頷ける。演者が曲に対していかに深遠なる理解があっても、見所側に何の感興も起こす事ができなければ無意味なのだ。

17. 『能・歌舞伎役者たち』 塚本 康彦 朝日選書 1994年8月25日 第1刷 1100円
著者は文学部教授。歌舞伎役者4名、能楽師3名についての私的評論と言えようか。帯に観世寿夫の名前があり、これに惹かれて購入したのだが、歌舞伎役者に対する考察が存外面白かった。私は特に歌舞伎を賞玩する者ではないが、玉三郎、団十郎に対する指摘は鋭く、なる程と思わせた。能楽師は他に初代金剛巌、橋岡久馬を取り上げている。

18. 『能楽展望 堀上謙評論・随想集』 堀上謙 たちばな出版 2002年1月18日 初版第1刷 3200円 
長年能楽界を見つめてきた著者の文章をまとめて出版したもの。購入した時、ちょうどイズミモトヤの宗家問題等がワイドショーで騒がれ出した頃で、この件におけるリアルタイムの文章もあり、印象に残っている。勿論、それ以外に様々な問題提起がなされており、興味深い。

19. 『新潮日本古典集成 謡曲集 上中下』 伊藤正義 校注 1998年10月25日 発行 2000年12月20日 5刷 各 3000円、3200円、3900円
やはりまとまった形で詞章を読みたいと思い、思い切って購入。同類他社のものと比較検討した上で、これに決定。注が丁寧で本分とは別に各曲解題がある。詞章にあわせた舞台上の動きが併記してある。底本は光悦本。

20. 『ZEAMI 中世の芸術と文化 01 特集 世阿弥とその時代』 松岡心平 編集 森話社 2002年1月28日 初版第1刷 2400円
論文、対談、誌と盛りだくさんな内容。年2回発行だそうだが、02号は出たのだろうか。未だに完読してはいないのだが、内容は濃い。

21. 『新日本古典文学大系 謡曲百番』 岩波書店 西野春雄 校注1998年3月27日 第1刷発行 4700円
新潮社の謡曲集にない曲が若干入っていたので購入。ほとんどは重なる。一冊にまとまっている分解説は少なめだが不足という事はない。本が大きく重いので読み難いのが難点か。定本は車屋本。

22. 『勁き花 八世銕之亟遺稿集』 社団法人銕仙会 編集・発行 2002年6月30日
八世銕之亟師の三回忌追善能の際、観客に配布された。A5版で同人界における小説本を彷彿とさせるシンプルな装丁でいかにも手作りというのがいい。機関誌「鉄仙」等に書かれた文章の集積なので、編集作業は大変だったろうと思うが、このようにまとまった形で師の文章が読めるものは他になく、貴重。1000円で販売されているようである。

23. 『能を彩る扇の世界』 檜書店 1994年8月20日 初版発行 2002年5月15日 第6刷 2200円
能で使用される代表的な扇の解説、流儀ごとの特色、製造方法までを網羅。カラー写真が豊富。

24. 『近代能楽緒家列傳』 穂高光晴 能楽出版社 1998年7月20日 発行 6500円
古書店で入手したので定価よりは安く、5700円くらいだったか。気にはなっていたのだが、かなり高額なので躊躇したが思い切って購入。幸流小鼓方と大学教授という二足の草鞋を履き続け、昨年秋に他界した筆者が見た能楽界人間図鑑。職能、流儀ごとに掲載されており、冒頭の流儀史概観がよくまとまっていて役に立つ。あくまでも個人な対人評価なので全面的に信用しようとは思わないが、貴重な書であることは事実。笑えるエピソードあり、どろどろとした争いありで能楽界もいろいろあるのだなぁと慨嘆。評論家に対する意見はかなり辛辣。人物評の最後に付け加えられた「小鼓は私が教えた」という一文が微笑ましい。

25. 『観世三代記 秘すれば花 −歴史の襞に隠れた一族−』 秋山ともみ 彩図社 平成13年7月30日 第一刷 952円
とある旧家から発見された家系図から着想を得た小説。三代記と銘打たれてはいるが、観阿弥に関する記述が半分以上。世阿弥は妙に影が薄く、元雅の方が目立っている。観阿弥の出自から座を持つまでの経緯は伝奇的で面白い。元重は観世座とは利害が対立する存在として扱われており、登場場面はほとんどないが悪役的。文庫で700ページを越える大作だが、求心力に欠け、休み休み読了。驚きの結末が待っている。

26. 『能を彩る文様の世界』 野村四郎・北村哲郎 檜書店 1997年2月20日 初版 2001年3月10日 2刷 2300円
能装束に用いられる代表的な文様をそれらが使用される曲、装束の種類と供に紹介。能を離れて文様そのものの成立ちについて解説した文章もあり、写真も多く楽しい一冊。

27. 『能と狂言』 創刊号 能楽学会 株式会社ぺりかん社 2003年4月15日発行 2000円
発売以降、購入をためらっているうちに見かけなくなり入手を諦めていたがその年の秋に偶然発見。能楽協会の発足と供に刊行。学会にはいわゆる研究者だけでなく能楽師、他の分野の専門家も名を連ねており、掲載された文章は論文以外にもいろいろある。まだ拾い読みの段階だが持っていて損はない。

28. 能楽博士があなたの質問にこたえる『能・狂言なんでも質問箱』 山崎 有一郎・葛西 聖司 檜書店 2003年9月8日 第1刷 1800円
横浜能楽堂の企画した講演を文章化したもの。さらさらと読めるが山崎氏の豊富な知識と人脈ならではの内容で面白い。氏が中正面で観るのを好まれるのは同じ中正面愛好家(?)としてちょっと嬉しかった。

『対訳でたのしむ』シリーズ 檜書店 各500円
観世流詞章全文が掲載。袖本よりも安価で、曲の解説、扮装の説明等情報も多い。既刊の全てを持っているわけではなく、必要に応じて購入。

『新・能楽ジャーナル』 たちばな出版 隔月間 480円
復刊第2号から購読。編集長は堀上謙氏。批評が中心。筆者の独自性が現れた批評で、新たな視点を与えられる事も多く、面白い。編集人たちが行う評談は能楽界の気になる事を取り上げ毎回興味深い。

『能楽タイムズ』 能楽書林 月刊紙 400円
昨年初めより購読。長年に渡って刊行。能楽界のニュース、評論、対談、公演案内等を掲載。能楽専門誌における老舗的存在。

『DEN』 DEN編集室 隔月刊誌 743円 1999年7月1日 創刊 編集人 児玉 信他
批評は一切載せないという編集方針。対談、インタヴュー、演能情報等を掲載。面白そうだったら買うことにしていたが、ここ最近は毎号購入しているような気がする。しかし上記2誌を定期購読しているのに対して、こちらは見かけたら購入という受身の姿勢。何がなんでも読みたいとは思わない。対談は互いを賞揚しあってやや気色悪いと感じることも。


番外
『萬斎でござる』 野村萬斎 朝日新聞社 1999年2月5日 第1刷 1999年12月10日 第3刷
1700円
購入時はまだ著者に対して興味があった。実際に能楽堂に足を運ぶようになる前の事である。幼少時から執筆当時における現在までを自ら振り返った自伝とも言える内容。和泉流の宗家が非公認である事を知ったのは、思えばこの本だった。現在、著者に対する興味はゼロどころかマイナスである。


こぎつね丸