観能雑感
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| 2003年01月01日(水) |
2002年度個人的ベスト3 |
2002年度個人的ベスト3
こういう順位付けにあまり意味があるとは思っていないのだが、印象に残ったものを数を制限して列挙する事をあえて試みてみたい。ちなみに2002年に私が観た能は54番である。
第1位 「雲林院」 6月5日(水) 国立能楽堂定例公演 シテ 浅見 真州 (観世流) ワキが留める夢幻能というのを初めて観た。在原業平の幻影が橋掛りで袖を被いて本舞台を振り返りつつ幕入り。ワキの宝生閑師は消え行く幻を追い求めるかのように立ち上がり、夢から覚めやらぬ態で静かに留拍子を踏んだ。春の夜の夢を垣間見たような気分。後シテの装束は萌黄の濃淡でまとめられており、烏帽子にも同系色の房飾りのようなものが付けられていた。舞台が満開の桜が咲き誇る庭園である事を考えると、この選択は何と効果的であることか。後シテの一声「月やあらぬ〜」を聞いた途端、「昔男現る!!!」という思いにさせられた。達者な囃子方にも恵まれ、序ノ舞は正に至福の時間。曲趣を考慮した装束選びの趣味雄の良さ、舞台そのものの完成度と、能の魅力を堪能した一番。
第2位 「右近」 4月14日(日) 宝生会月並能 シテ 佐野 萌 宝生流に開眼した一番。地頭は近藤乾之助師。脇能としては珍しくワキは勅使ではなく花見目当ての神職。宝生欣哉師が幕を離れた瞬間、都見物を楽しもうという風流な男性の華やかさのようなものがほのかに香り立つようで目を奪われた。待ち謡をする風情も女神の出現を心待ちにする艶な焦燥を醸し出す。遂に女神登場。中ノ舞を舞うのだが、「こんなに楽しい中ノ舞は初めて!」と思った。可愛らしいのだ。桜の枝をくぐり抜けながら舞戯れているかのよう。目が離せなかった。不慣れな為か聴き難かった宝生流の地謡の魅力にも気付かされた。いろいろな面で収穫の多かった一番。
第3位 「卒都婆小町」 12月6日(金) 橋の会 シテ 友枝 昭世(喜多流) 「三輪」 12月7日(土) 国立能楽堂特別研鑚公演 シテ 片山 九郎右衛門(観世流) こちらは優劣付け難く2番挙げる。「卒都婆小町」はシテの力量、囃子の見事さ、地謡の表現力と三者が極めて高いレベルで拮抗したというところで選出。特に囃子は今年聴いた中でベストだった。シテが小町から深草少将へ変貌する様は、異なる気が身体を被って行くのが目に見えるようであった。 「三輪」はやはり片山師が素晴らしかった。小柄な身体にみっしりと充満した質量を感じる。前シテのただならぬ風情に後シテの神々しさの中にある愛らしさ。関西方面での舞台が主なので観る回数が限られてしまうのが残念。不思議な熱感を伴った神楽も面白かった。
これら以外にも三川泉師の「天鼓 呼出」、「百万」、河村隆司師の「隅田川」、浅見真州師の「梅枝」等も印象深かった。
2002年は今だかつてないくらい能楽関係者がワイドショー、週刊誌を賑わせた年だったと思うが、そのいずれもが実際の舞台と関係のない事であったのが残念である。とは言え中には社団法人の運営に関する不正がらみの記事もあり、心中穏やかではない。己の芸を磨く事と組織の運営は別問題である。こういうところに宗家制度が抱える問題の萌芽があると思えるのだが。宗家制度というものの在り方を真剣に問い直す時期に来ているのかもしれない。
2002年度ベスト3とはかけ離れた話題になってしまったが、見所に座るものとしての願いはただひとつ。一番でも多く良い舞台が観たい。これに尽きる。来年も演者と観客の幸福な出会いが数多く訪れる事を願って…。
こぎつね丸
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