観能雑感
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宝生会 月並能 宝生能楽堂 PM1:00〜
今月も喜多流の自主公演に行くつもりだったが、先月見た後考え直してこちらに変更。両方行くに越した事はないのだが、万年手元不如意の身としては、やむを得ない。 公演日まで2週間を切っていたので、電話でチケットを取る事にしたのだが、繋がった後先方は「はい」と言うのみ。名乗るべきなのでは?11月の月並のチケットが欲しい旨伝えると「今ですか?」との返答。これでは迷惑がられているようだ。席をが決まると、料金、支払い方法等の説明もなく電話を切ろうとする。宝生会は先払いである事を知っているためこちらから確認。銀行振り込みにしたい旨伝えるとそうしてくれと言うのみ。念の為口座番号を尋ねると待たされる事およそ3分以上5分以内。HP上でのチケット予約を利用していたので、口座番号は自分で確認できる。いっそ訊かなければ良かったと後悔する。しかし、誰がそんなに待たされる事を予想したであろうか。良い対応を期待しているわけではないが、これでは初めてチケットを買おうという人は混乱するのではなかろうか。素人弟子のみを相手にするのではなく、本当に能の普及を考えているのならこういう時の応対は大切だと思うのだが…。宝生会はチケットを郵送する際手書きで一筆添えられていて好印象だったので、残念。チケットはわざわざ速達で郵送され、恐縮した。 会場は6〜7割の入り。空席が目立つ。隣の席の方の体臭が結構気になる。三番立てなので、なかなか厳しい。
能 「放下僧」 シテ 亀井 保雄 シテツレ 亀井 雄二 ワキ 鏑木 岑男 間 野村 与十郎 笛 一噌 庸二(噌) 小鼓 幸 正昭(幸清) 原岡 一之(高)
兄弟が親の敵を討つ現在物だが、シテの芸尽くしが主眼。直面物はほとんど観た事がないので新鮮。 弟であるツレの謡が声こそ違えど子方のそれと似ている。何故?そういう心得なのだろうか。 兄弟の敵であるワキの鏑木師、やはり運足が困難なようで、痛々しい。下居するのも大変そう。ワキの供人が放下と放下僧に扮した兄弟を、主人の命に背いて招いてしまう。その際主人の名前を明かしてしまい、あわててごまかすも、兄弟に知られてしまう。橋掛りでの所作がしばらく続くのだが、嵐窓から御簾を上げてかなり長い時間舞台を見ている人影があり、気になる。アイの法被が動物柄で可愛い。 いくつか問答をした後、曲舞、鞨鼓、小歌と芸尽くしなのだが、その芸にどうも華やぎがない。なんとか隙をねらって敵を討とうとしているのだからそれでいいのかもしれないが、面白くない。大小が冴えなかった事も一因か。「面白の花の都や」の小歌が始まるとワキは切戸口から退場。緊急事態か?と思ったが、これで討たれる事を表しているのだ。室町時代の芸能の雰囲気を伝えるこの小歌、素朴でどことなく懐かしい。兄弟で残された笠を刺し貫いて、仇討ち完了。 後見が正座椅子を使用するのを初めて見た。
狂言 「佐渡狐」(和泉流) シテ 野村 祐丞 アド 増田 秋雄、炭 哲男
佐渡に狐はいるか否かを越後の百姓と佐渡の百姓が争い、狐はいると主張した佐渡の百姓の嘘が最終的にばれる。 アドのお二人は初見。石川県在住のよう。 最初から最後まで淡々としたまま終了。佐渡の百姓は勢いで狐はいると主張するが、本当はいない事を知っていて、奏者に賄賂を渡して味方してもらう。この設定は、当時島と本土という両者の間にある種の差別が存在し、それゆえ佐渡の百姓の無謀な主張に繋がるのかもしれないと思った。新潟の者にはたとえ些細な事でも負けたくないという事なのだろう。 結局鳴き声について尋ねられて、嘘がばれてしまい終了。賭けた刀を取られてしまう。あまり笑わなかった。笑う笑わないの境界は何によって決められるのだろう。今回の場合メリハリがなかった所為か。
能 「葛城」 シテ 當山 孝道 ワキ 宝生 欣哉 ワキツレ 則久 英志、野口 能弘(番組に記載なく推測) アイ 荒井 亮吉 笛 松田 弘之(森) 住駒 幸英(幸) 安福 光雄(高) 松本 章(金)
雪景色の中女神が舞う、私の好きな曲だが、舞台で観るのは初めて。 松田師、ヒシギがあまり鳴らなかった。珍しい。 欣哉師、実はあまり山伏装束が似合わないのではないかと個人的には思っている。大した問題ではないのだが。キレの良い謡は相変わらず。 幕内からの呼びかけに続いてシテ登場。雪のため笠が白くなっている。陰になって面は不明。 シテは雪に降られて難儀でしょうと、自宅に山伏達を招き入れる。笠を取ったところを見ると、面は曲見に見えたが深井かもしれない。「しもと」についてのやり取りは、シテが立ったまま行われ、若い欣哉師を年長の女性が諭しているように見える。ワキがもっと年長者だったら違って見えるはずで、これも味わいのうちだろう。火を焚く所作から、クセ、問答と淀みなく進行。ワキに正体を仄めかし、縛めを解いて欲しいと頼み、笛に送られて中入。この笛が神韻と響き、雪の降る中ゆっくりと消え失せて行く様を連想させる。こういうさり気ないところにも松田師の手腕を感じる。 アイ語り、なぜか下を向きがち。やはり正面を向いたほうがいいと思う。 葛を付けた天冠に黒垂、白長絹に緋大口の後シテ登場。面は増。前場からの感じていたのだが、シテが終始面をくもらせ勝ちなのは、己の容貌の醜さ(と自分では信じている)を恥じている葛城の女神を意識しての意図的なものなのだろうか。序ノ舞でもそれはかわらず、痛々しさまで感じる。思えば役の行者は強引にこの女神に橋を懸けさせ、一晩で完成しなかったからと言って葛で縛するのはほとんど言い掛りに等しい。女神であるのに山伏に助けを請わねばならないのはなんだが憐れである。縛めが解けても己の容貌を恥じるのは変わらず、夜が明けぬうちにと消えて行く。 宝生流で序ノ舞を観るのはこれが初めて。抑制された中にしっかり芯があるのを感じる。納得のいく序ノ舞を観たのは久し振り。 後見は舞台で胡座をかいていた。高齢のため致し方ないのかもしれないが、興ざめ。正座椅子の方がまだ良い。さらに途中で足を組み変えるのを見るとその感はいや増す。
能 「紅葉狩」 シテ 佐野 萌 ツレ 東川 尚史、小林 晋也、 山内 隆男 ワキ 宝生 閑 ワキツレ 森 常好、大日方 寛、御厨 誠吾(番組に記載なく推測) オモアイ 橋下 勝利 アドアイ 山下 浩一郎 笛 寺井 久八郎(森) 小鼓 宮増 純三(観) 大鼓 大倉 三忠(大) 太鼓 徳田 宗久(観)
当初シテは近藤乾之助師が予定されていたが、療養中のため事前に変更。病状はどうなのだろう。気になる。地頭は宗家の予定だったが、こちらも当たり前のように欠勤。 一畳台と紅葉の山の作り物が出される。その後まずシテとシテツレが登場。シテも着流し姿。シテはツレとは明らかに雰囲気が異なり、妖艶でさえある。シテは若女、ツレは小面。こうして並べて見ると、小面にもいろいろあるのだなぁと気付かされる。シテのカマエが前後左右に均等の力で引っ張られているがごとく緊張を保って安定しているのに対し、ツレ3人はいかにも腰高で不安定。押したらよろめきそう。下居してからもシテはしっかり美しく座っているのに対し、ツレはやはり不安定。ツレより遥かに年長のシテの方が力強く見える。 ワキ、ワキツレ登場。武士に扮する閑師、烏帽子に肩脱ぎで弓を持ち、旅僧や山伏とは全く異なる雰囲気。狩の途中、上臈がいると知って馬を下りて迂回しているところを女に呼び止められる。先を急ごうとするワキの袖を掴んで引きとめるシテ。舞台上ではシテが脇の袖に僅かに扇で触れるだけなのだが、それだけでも確かに媚態を感じる。その後二人は見詰め合いながら位置を変え、シテのいた脇座にワキはじりじりと退いていく。ただこれだけの動作に上臈の色香に抗えない男の様が見事に描きだされる。女は酒を勧め、舞いを舞うのだが、この中ノ舞が良かった。宝生流は「内に篭る」のを是とするそうで、動きは非常に少ない。サユウでも腕は僅かに動かされるだけである。しかしそこには強い芯のようなものが感じられ、目が離せない。この頃続けて観た喜多流は型は明瞭だがどこか空虚に感じられ、対照的。肉体と内面の在り方について考えさせられる。 ふと気付くとワキは目を閉じ前のめりになって、左手は扇を持ち腕枕をして寝ている風。相当に辛い姿勢であるはずなのに、そんな事は微塵も感じさせず、ぐっすり眠っているようにしか見えない。 中ノ舞が突如急ノ舞に転じて事態は一転、シテは作り物の中に消える。他流では急ノ舞はもっと激しく動いて緩急がしっかりつくのだろうが、これはこれで良し。 アドアイの末社の神が夢の中でワキにシテの正体を教え、刀を託す。この間もワキはずっと先の姿勢のまま。すごい。山下師、初めて見るが、声がよく出ていた。 夢から覚めたワキは鬼に変じたシテと対決。歌舞伎のような立ち回りを期待する人には物足りないのかもしれないが、能ならではの息詰まる対決。はっきりと刀で差す動きがあり、シテは切戸から退場。ワキが留拍子を踏み終曲。 これまで見た事のなかった閑師の新たな魅力を発見。芝居気のある人なので、こういう役も見事にこなすのだろう。カッコ良かった。惚れ直しました。
三番とも地謡が安定していて、流儀のもつ底力を感じる。最初はとっつき難かった宝生の能だが、慣れるにしたがってその魅力に気付くようになった。
こぎつね丸
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