観能雑感
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2002年07月17日(水) 国立能楽堂定例公演

国立能楽堂定例公演 PM6:30〜
 
既に1ヶ月近く経過しての観能記録。体調が不安定なため、見に行けただけでも良しとせねばならない状況が続いている。やれやれ。できるだけ時間をおかずに書く事を宗としているのだが、現状ではそうもいかない。

狂言「泣尼」
シテ 山本 則直
アド 山本 則俊、山本 東次郎

山本三兄弟による舞台はこれで二度目。期待に違わぬ面白さで大変満足。
東次郎師、がっちりとした体型にもかかわらず、小柄な老尼にしか見えない。ハコビ、カマエ、発声を工夫し、自分のものとしている。不自然さなし。この域に達するには、稽古、それしかないであろう。
則直師、やはり表情を作る事は一切ないが、つい笑ってしまう。せっかく連れて来た尼がすぐに寝入ってしまうのを何とか起こそうとするところなどは、最高におかしい。こういう舞台を観る事が出来るのは、本当に嬉しい。
既に恒例となってしまった身近なイタイ観客。今回はアメリカ人(と思われる)男性。席について開演を待っているとどうもフラッシュが光っている。何なんだと目を上げると舞台をカメラに収める人あり。開演前だから、良いのだろうかと思っているうちに、何と自分の右隣に着席。狂言の最中音高くブリーフケースのジッパーを開ける。左隣の男性が私の方を見るが、違う。私ではない。休憩時間中は時折じろじろとこちらを見る。なんなのだ。そして能の前場はほとんど寝ていた。ごそごそと身じろぎするのがかなり鬱陶しい。口臭が酷く、辟易する。今回視界がそれ程遮られなかった事を良しとするべきなのだろうか…。

能「夕顔」
シテ 山本 順之
ワキ 工藤 和哉
ワキツレ 梅村 昌功、則久 
アイ 山本 則重
笛 藤田 朝太郎(噌)(一噌幸弘師の代演) 小鼓 亀井 俊一(幸) 大鼓 國川 純(高) 

全体として印象が薄い。地謡が今一つだったことが要因だろうか。クセのところはもっと盛り上がると思ったのだが。シテの謡はさすがに素晴らしく、所々はっとさせられた。
ワキツレの梅村師、下居姿にいまひとつ締りがなく、気になる。
アイの則重師、若いが健闘。3番目物のアイ語りは場の雰囲気を壊さず、後シテの出に繋げなければならず、そうとう難しいのではないかと思っている。自分のこれまで積み上げてきたものを着実にこなそうとする姿勢は好感が持てる。
面は前も後も増。きりりとしてあまり甘さがない。儚げな印象の夕顔だが、芯は大変強かったと思う。一見男性に翻弄されているような一生だが、その実彼女はその時最善と思われる選択を自分自身で行っていたのではないだろうか。しかし、源氏の愛情に対する不安と突然訪れた死により、成仏出来ないのもむべなるかなと思う。死して後、煩悩から解き放たれて、やっと彼女は安心できたのかもしれない。
序ノ舞にかかる前、後見座に近付いて装束のチェックを受けるのが自然な流れになっていて、能の構成は実に無駄がない。後見の浅見真州師の表情がとてもやさしく、鬘をそっとなでるときに「きれいきれい。さあ、行って(舞に行って)らっしゃい」とでも言いたそうな程、満足気だった。後見はその人の人間性が出ると思っている。師は本当に能が好きなのだろう。
 余談だが、解説を書いていた村上師が正面の一番前の席、ほぼ中央で観ていた。チケットはタダなのだろうか。気になる。
 


こぎつね丸