観能雑感
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銕仙会青山能 銕仙会能楽研修所 PM2:00〜
仕舞 歌占 (キリ) 西村高夫 11月以来の青山能。まるで何度も出かけているようだが今回で2回目。他の会でこの舞台に足を運んでいるので、親しみを感じているのだろう。 地獄廻りの恐ろしさを見せた後、偶然めぐり合った我が子と故郷へ帰っていくシテ。死して三日後に蘇生するという稀有な体験のせいか、若いのにもかかわらず白髪という異形。能の形で観て見たい。
狂言「岡太夫」 シテ 野村萬斎 アド 石田幸雄 小アド 2名
最近不調と(某掲示板で言われている)萬斎氏である。痩せた。映画「陰明師」のころに比べて頬が明らかにこけている。体調は良くないのであろう。声も疲れているという印象。さして広くない能楽堂だが、いっぱいに響き渡るという力強さは感じられない。「オレを見ろ!」オーラも影を潜めていた。可もなく不可もない。 しかし、見所は無暗に笑いが響く。何をしてもおかしいのだろうか。萬斎氏出勤のため、若い女性の観客が多かったが、彼目当ては若い女性だけではないのだ。60歳以上も彼を見ることが目的なのである。人気は相変わらずだ。 ストーリは、物覚えの悪い聟が逆切れし、妻を切ろうとするが、結局なし崩し的に関係修復がなされる話。夫婦のちょっと不可解だが良くある話を描いているのだろうか。それにしても自分の物覚えの悪さを妻に転嫁する聟は、あまり知り合いになりたくない人物である。石田氏、好演。太郎冠者に酒を注げと命ずる聟は限りなく偉そうで、こういうところは萬斎氏、良さを発揮する。 悪くはないが良くもない。わざわざ観ようとは思わない。彼はこれからどうするのだろう。じっくり狂言に向かい合う必要があるのではないだろうか。このままで良いとは思えない。
「千手」 シテ 浅見 真州 ツレ 若松 健士 ワキ 森 常好 笛 松田 弘之 小鼓 吉坂 一郎 大鼓 亀井 広忠 今日こそは正面席で観ようと開演40分前に到着。本当はあと10分くらい早く来るつもりだったが、ま、こんなものであろう。道に並ぶことなく素直に入場。中正面にあたる席に座る。数名が「柱が邪魔になる」と場所を変えたが、舞台全体が見渡せて、良い席だと思う。しかし…。今日もやはりイタイ観客の近くに座ってしまった。前の中年女性。足を伸ばして座っている。こちらの足を置く場所がなくなり、無理に縮めて結局こちらのお尻が痛くなってしまう。ああ、12月も似たようなことが…。彼女はなんと途中退場。狂言だけで帰った中年夫婦も目の前にいた。私のとやかく言う事ではないが。ただ、桟敷なので前に座る人の姿勢がこちらに直接影響を与える。辛い。せっかくの舞台に全く集中できない。彼女が退席した後は身を入れて観賞できた。 松田氏を正面から見るのは、舞台では初めてかもしれない。映像でならあるのだが。本来は9日の九皐会例会でそうなるはずだったのだが、ダブルブッキングによりならず。しかし、相変わらず良い笛の音である。 小鼓、どうも音に芯がないとういうか、緊張感がない。大鼓、音より掛け声に特徴あり。大小は不発だった。 地謡は6人だったが、11月の時よりも良かったような気がする。若手中心で健闘していたように思う。しかしやや平坦か。 ツレ、貴公子の華やぎが感じられない。シテ並に重い扱いだそうだが、じっと床几に腰掛けている時間が長い。扱いは重いが勤めるのは困難で忍従が強いられるのかもしれない。 シテ、橋掛りで重衡のもとへ訪れる際の心情を述べる場面が登場から暫く続く。捕われの身の貴公子に対するあ憐憫と憧憬が感じられる…と思うのだがとにかくオシリが強烈に痛くて集中できなかった。哀しい。まだこの部分は良かったほうである。一度は対面を拒否されるが、ワキのとりなしで通される千手。観音扉を開けて入ってくるところで、閉ざされた空間と外界が繋がる。この瞬間から、千手は彼に恋をしたのかもしれない。それには「才知にも歌舞にも長けた都の貴公子」という事前の情報が大いに関与していたと思われるが、そんな都合の良さも物語なのだから良いのである。物語のなかでしか、こういうことは起こり得ないのだから、これでいいのだ。 出家の願いが聞き届けられず、悲嘆に暮れる重衡を道真の歌を引いてなぐさめ、重衡もやや気をとりなおす。ワキを交えた静かな酒宴が始まる。 再三述べたとおり、舞台に集中できなかったので、詳しい事が書けないのだが、苦しい姿勢から開放された後の序ノ舞は、じっくり観賞できたと思う。千手は何を考えながら舞ったのだろう。一夜限りの客を相手に舞いを見せる白拍子以上の想いが、そこにはあったと思う。平家物語では千手は後に出家してしまう。そんな印象的な、一度だけ、でも忘れられない唯一無二の出逢いだったのだろうか。 面は小面、銘は「早蕨」というそうである。あまり頬がふっくらしていなくて、かなり大人びて見え、千手に相応しいと思った。老成した女性では勿論ないし、かと言って無垢な少女でもない。「若い女性」と簡単に括られてしまう属性を見事に表現していた。少し哀しげだけれど、芯に強さを秘めた、そんな表情。 酒宴も果て、重衡は都に呼び戻される。二度と会う事のない二人が一度だけすれ違う。ただ運命を受け入れるしかない千手は涙を流し、ただただ去って行く人を見送り続ける。一瞬だからこその濃密な恋心の発露なのだろうか。それが、後の出家に繋がるのだろう。彼女自身、己の行く末を考えていて、そんな時に起こった出来事なのかもしれないけれど。 橋掛りを戻って行くところで救急車のサイレンが聞こえたが、気にならないくらい舞台には哀しみが溢れていたと思う。いや、勿論聞こえない方がいいのだが。浅見氏の舞台、また観たいと思う。
演能終了ご、能楽小講座。装束の中の花について。解説は清水寛二氏。実際に平面な着物を立体的に着つける様子を見るのは面白かった。男性の装束には花そのものではなく、文様として表現するのだそう。なるほど。清水氏によると「やはり花は女性のもの」なのだそう。笠井氏の説明の中で、白川静氏の名前がでてきてビックリ。意外なところで出会ってしまった。「衣」という字は魂が抜けてしまわないように、しっかりと着物を首に巻きつけるという意味があるのだそう。なるほど。着物を巻くというのは、己の情念を内に込めるというような意味があるようだ。 「春なのになんで秋の花の着物なのか?季節は関係ないのか?」という質問に、「ありません」と明瞭に言い切った清水氏。なんだか受けた。 帰り際、道に出たところで広忠氏らしき人物とすれ違う。かなり周囲に人がいたが、気付かなかったのだろうか?グレーのタートルネックのカットソーだけという軽装。だれかを待っていたのだろうか、行った道を戻ってきていた。寒くないのか?今日は出待ちはいなかったのだろうか。着物は恰幅がいいほうが似合うが、洋服では大分つらい体型だなぁ。舞台意外ではただの人という感じだ。あたりまえか。 かなり有意義だったと思う。ああ、お尻さえ痛くなければ…。
こぎつね丸
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