観能雑感
INDEX|past|will
観世九皐会二月例会 矢来能楽堂 PM1:00〜
九皐会例会初観賞。30分ほど前に到着したが、8割方座席はうまっていた。あと10分ほど早く着くはずだったのだが、予想どおり駅を出てから曲がる方向を間違える。ま、こんなものだろう。正面席の通路をはさんだワキ柱の丁度正面にあたる席の最後列に座る。やはり例会らしく、高齢のご婦人が目立つ。1時間くらい前から開場しているのだろうか?全席自由だからか?
素謡 弓八幡 シテ 中森貫太 ツレ 鈴木啓吾 ワキ遠藤喜久
素謡を聴くのは初めて。素人会では良く出るのだろうが。脇能なので位取りが難しいのではないかと思ったが、颯爽とした雰囲気で、なかなか良かった。地謡、4人とは思えない程の大迫力。シテとツレが不揃いに思えるところがあったが、やはり間違えがあったらしい(シテのHPにて明らかとなる)。あまり出ない曲なので、若干急いでいたか?面を懸けていなかったせいか、謡明瞭。
能 弱法師 シテ 中所宣夫 ワキ 和泉昭太郎 間大藏吉次郎 笛 松田弘之(代演一噌隆之) 小鼓 幸 正昭 大鼓 安福健雄
素謡終了後、本来ないはずの休憩が10分取られ、笛の代演がアナウンスされる。思わず「残念」と呟いてしまった。本日一番楽しみにしていたのが松田氏の笛だったので。 囃子方登場。しかし笛方がいるべきところに別人が(後に後見だったと気付く)。「一噌隆之師って、こんな顔だったっけ?」とまず思った自分が大分情けない。笛方の位置につき、なにもせず、そのまま座っており、気が付くと一噌氏が登場して吹いていた。開始時間に間に合わなかったのであろう。松田師は急病だろうかと思ったが、もうしそうなら最初から代演が告げられていたはずである。帰宅ご中森師のHPで日付を勘違いし、他の会に出勤していたことが明らかとなる。本人も関係者もさぞ慌てたことであろう。笛方は舞台開始時間のどれくらい前に楽屋入りするのだろうか?あまりぎりぎりまでまたず、もう少し早く連絡を付けていれば、曲の途中から笛が登場するという好ましくない事態は避けられたのではないかと思う。 ワキと間のやり取りが終わった後、シテが橋掛りに登場する。謡が全く聞こえない。正面席で、橋掛りから一番離れているとは言え、もっと広い会場もあることだし、声量不足と言わざるを得ないであろう。舞台に登場してからは少しは聞こえるようになったが、橋掛りでの所作がかなり長いので、もどかしく思った。弱法師の面は諦観した静謐さがあり、写真で見るよりずっと美しかった。あるがままを受けとめた者がもつ、諦めの表情。現状を静に受けとめ、淡々と生きていく者の清々しさを感じる。同時に痛々しさも。「目は見えなくとも心で見るのだから構わない」と言いつつも、人にぶつかってよろめき、笑われる我が身の哀しさを嘆く俊徳丸。袖に触れた梅の香を楽しみ、見えない目を向けて心に浮かび上がる難波の情景を愛で、狂おしい気持ちとなりあたりを歩き回る。謡が盛りあがるところだとか、大きな所作があるところではないところに、ふと心を動かされるのが能の不思議だと思う。今回も何気ないところで俊徳丸の憐れさに、いたたまれなくなる。杖を斜めに出し、抑制された動きをするシテは、そうとう体力的に辛いものがあるのではないだろうか。 ワキが自分が父であると名乗ると我が身を恥じて立ち去ろうとするところは、俊徳丸の純粋さに心打たれる。讒言を信じ、無実の自分を追放し、そのために盲目になっても誰かを恨むわけでもない。人に嘲笑われる事にも耐え、じっと身をかがめるように生きてきた彼のような人こそ、本当に強いのだろう。最後は父と共に家に帰ることになり、大団円を迎える。世阿弥はシテを妻帯者としたそうだが、薄幸の少年としたほうが、劇に爽やかさをもたらすのではないかと思う。青い水衣がとてもきれいだった。 大鼓、安福健雄氏の息子さんではないかと思うのだが、どうなのだろう。
狂言 口真似 シテ 大藏義教 アド大藏基誠 大藏彌太郎
1月の宝生会に続いての大藏家。今回は劇自体の面白さで笑えた。あまり声に出して笑うことはないのだけれど。真面目に演じるからこそ見ているほうに笑いが起こる、お笑いの基本を見た気がする。好演。
仕舞 巴 坂 真次郎 長刀を使った豪快な舞。としか言えない。 雲林院 観世善之 会主登場。鶯色の紋付に、小葉田色(?)の袴。ご本人が白髪で、還暦を過ぎていらっしゃるのでとても良く似合う。この色にした意味はなにかあるのだろうか?しっとりした、素敵な在原業平だった。会場も食い入るように見つめていた。 葵上 五木田三郎 前場の終了真際、臥せっている葵上に迫り、我が身を嘆き、逃げて行くところ。実際に観ると、やはり六条御息所は葵上を車に乗せて行くのではなく、浅ましい我が身を車に乗せて逃げて行こうと解釈する方が自然である気がする。反対の解釈の演者も多いようだが。 実は葵上を舞台で観た事がまだない。能に興味を持ち始めてすぐに、NHKの能楽観賞講座で見ただけだと思う。今年は観られるのだろうか。
能 善界 シテ 小島英明 ツレ 坂 真太郎 ワキ 野口能弘 ワキツレ2名 間 大藏千太郎 笛 一噌幸弘 小鼓 森澤勇司 大鼓 高野 彰 太鼓 小寺真佐人
若いシテとツレ。シテは本日初シテだったことが中森師のHPにて判明。ツレも若くて(凄く華奢だと思う)、爽やかな舞台だったと思う。前段は直面なので、謡が楽に聞き取れる。後場はシテの謡はあまりないので、良く聞き取れたと思う。弱法師では地謡も抑え気味だったが、こちらは切能なので豪快。 後シテ、頭の微妙な動きが赤頭を効果的に見せる。面の表情と首の角度が密接に関係があることを実感する。ワキ、延暦寺の高僧という品格と緊張感に欠ける。闘っているのだから、もっと緊迫した空気を感じさせても良いのではないだろうか。 大きな型の連続で、一生懸命さも伝わり、飽きさせない舞台だった。思わず天狗を応援したくなるくらいだった。ところで赤頭、何ゆえ一筋白いのか? 囃子方、ついに「能楽com」の森澤氏を拝めると思っていたが、以前も見た事があった。後見に付いていたのを見た記憶がある。ああ、彼がかの人だったのか。幸清流だったのだな。笛、鋭いヒシギで豪快。太鼓、父子そろって良い。掛け声もいい感じだと思う。個人的に。顔もかわいいしなぁ。ふう。 最後を飾るに相応しく、豪快で爽やかな一曲だった。
「弱法師」終了後、廊下と舞台を仕切っている壁を取り払い、パイプ椅子を置いて観客増加。補助席というやつだろうか?廊下を歩く人の姿が見えて、少し興ざめ。仕方ないのだろうけれど。 全体として、こじんまりとまとまっているという印象。大きな破れもないかわりに、大きな満足もない。それもまあ、良いのだろう。
こぎつね丸
|