伝説の英雄「ラーチプレイシス」の作者の博物館へ日帰り旅行。
博物館は、R市からD川沿いに1時間程行った所にある。 ここ数日、急に春めいてきたL国の風景を楽しみつつ進む。 天気も良くて、今日は本当にドライブ日和。
博物館の前で、年配の女性二人が笑顔で待っていた。 白髪のおばあちゃんは博物館員、 もう一人の、少し若めの女性は通訳。 外を歩きながら、伝説の舞台となった様々な物について、 思い入れたっぷりに解説をしてくれた。
英雄ラーチプレイシスの物語は、 L国のみならず、欧州を中心として、世界各国に知られている。 何と、以前日本でも本が出版されていたそうだ。 出版元は講○社で、子供のための文学全集物の一冊。 博物館には、今は相当の貴重品となったその本が納められている。 今回、特別に読ませてもらった。
何せ時間がなかったので、その本を流し読みしたのと、 D川を見下ろす絶好の場所で、 博物館員のおばあちゃんが物語ってくれたところから知った、 英雄の物語はこんなもの。
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英雄ラーチプレイシスは、熊を母に持つ、いわゆる「半クマ半人」。 この設定だけで、北国の物語のニオイがする。 彼は母親ゆずりの怪力を持つ青年に育った。 ある日、素手で暴れ熊と戦い、 その口を真っ二つに引き裂いている彼を目撃した男性によって、 ラーチプレイシスは人間の社会へとやって来る。
世界に無数ある「怪力の英雄」譚と多少違うのは、 彼が文武両道を追求しつづけたという点。 L国を狙う輩と、その怪力で戦いつつも、 彼は古代から伝わる知識を自分のものにしようと、日々勉学に励む。 つまり、バカ力だけの阿呆ではなかったということだ。
知性を重要視するラーチプレイシスの性格は、 妻となる女性の選択にも表れる。 この物語に登場する女性は、主に2人。 一人はこの上ない美貌を持ち、 しかしそれ故に悪事に染まってしまう女性。 もう一人は、幼少の頃から最高の教育を受け、 知的な美しさを身に付けた女性。 前者は後に改心するし、 知性もゼロというわけではなさそうなのだが、 ラーチプレイシスが伴侶に選んだのは、 後者のインテリ派女性だった。
長い物語の中で、彼は様々な人間と出会い、戦うわけだが、 その詳細はここでは省略するとして、 彼の最期はこんな感じ。
ドイツの十字軍がL国にやって来る。 この国を征服しようとする彼らにとって、 怪力の英雄の存在は、当然目の上の瘤。 彼らは、何とかしてラーチプレイシスを排除しようと、 彼の城にやってくる。
「聞けばとんでもない怪力だと言うが、その証拠を見せろ」 と、十字軍は彼らの中で一番の武闘派「黒い騎士」と、 ラーチプレイシスとの試合を申し込む。 最初は断った英雄だが、 嘘つき呼ばわりされると、しぶしぶ試合を受ける。
実は十字軍(この物語の中では相当の悪役)、 事前にラーチプレイシスの弱点を掴んでいたのだ。 英雄は母熊から怪力を受け継いだが、 その力の源は、これも母親似の「耳」。 (ちなみにL国人、ホッケーの試合を応援する時などに、 この「クマ耳」を模した帽子をかぶるそうだ。) そしてその耳を切られると、彼の力は半減する。
黒い騎士は、英雄の片方の耳を切ることに成功する。 これで、本来ならば勝つはずの戦いが、互角になってしまう。 戦いの中でもう一方の耳も切られながらも、 ラーチプレイシスは黒い騎士もろとも、D川へと沈んでいった。 今でも、夜に船で川を渡っていると、 永遠に戦いを続ける彼らの幻が見えるそうだ。
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そんなわけで今日一日、この物語にかぶれてしまった日本人は、 その日の遅い昼食で、 英雄の名のついたビールを飲んだのだ。
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