コージ苑の方には何も問題がなかったのだ。 本来のスケジュールに沿うならば、朝8時近くの飛行機でウィーンへ。 4時間近くの待ち合わせの後、改めてL国へ。 そういう予定だったのだ。
先述のとおり、かなり無理をおしてやってきた七味屋氏である。 ウィーンから車で来たとすれば、帰りも当然車ということになる。 さすがに一人で夜中の高速を走りたくなかったとみえ、 彼はコージ苑に、ウィーンまでの航空券を捨てろと「お願い」してきた。 それを断るほど、コージ苑は鬼ではない。 大体今回の旅行は、半ば自分のわがままから決まったようなもんだ。 いいでしょう、長距離ドライブに付き合おうじゃありませんか。
早起きして、というよりは深夜に無理矢理起き出して、 リュブリャーナを出発したのは午前3時半。 当然深夜の町に、開いているガススタなどあるわけもないのに、 既に貧乏ランプをつけている彼の借り物アウディ。 だ、大丈夫なのか…?とやきもきするコージ苑をよそに、 沈着冷静に車を走らせる七味屋氏である。 どうやら彼にとって目下の最大の関心事は、 ガソリンよりティッシュにあるらしい。 風邪からくる鼻水が止まらないのだ。相当気の毒。
高速のインターでアウディ君はガソリンをおなかいっぱい補給、 七味屋君は袋いっぱいのティッシュを購入、 コージ苑は缶コーヒーでカフェイン補充(甘かったけどな)。 というところで、改めて出発。目指せウィーン。
途中休憩もはさんで、ウィーンの国際空港には9時前に到着。 無事チェックインも済ませ、空港内で朝ごはん。 ハラスレーとパンとハムとサラミ、ナスとズッキーニのマリネ。 さて、と口にした途端、思い出したのはここがドイツ語圏だということだ。 しょっぱい。どれもこれもしょっぱい。 ハラスレーはわかる。ハムとサラミもまあわかる。 なぜマリネが塩辛いのだ。謎。
一足先に飛び立った七味屋氏を見送った後で、 買物でもしようかと空港をうろついたコージ苑だったが、 手持ちのユーロもなく、小額の買物でカードを使うのも気が引けて、 結局何ひとつ購入しないまま、搭乗時間までを居眠りして過ごした。
3時間のフライトを終え、無事L国に着いてみると、 この国にも青空が広がり、少しだけ木に緑が見えた。 世界的に(正確に言えば北半球に)春が来ましたよ。
短い時間に色々な事があったけど、もう一度落ち着けるきっかけとなった。 今回の旅行はまあ、そんな感じ。お疲れ。
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ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』 旅行のお供には短編がいい、と思うのは私だけ? 各賞総なめにしたインド系美女作家(←ワイドショー的表現)のデビュー短編集。 クレストブックの文庫化。クレストは相変わらずいい選択をするなあ。 表現力は各方面からの折り紙つき、どれを読んでもそれなりに感動するとあれば、 後は自分の趣味による、自分のためのお気に入りを選ぶだけ。 コージ苑はラストの2本「ビビ・ハルダーの治療」と「三度目で最後の大陸」。 前者は読後すかっと胸がすき、後者は静かに世界が開ける。
河野多恵子『秘事・半所有者』 ごく幸せな夫婦生活を延々と綴る「秘事」は、それゆえ読中少々退屈かもしれない。 しかし、ラストに近づくにつれて浮上してくるテーマに気づいた時、 些細なエピソードすら見逃せなくなる。 結婚予定の人もそうじゃない人も、少なくとも一日は考え込むこと請け合い。 短編の「半所有者」。ザッツ川端康成賞。
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